概要
いずれも上海アリス幻樂団の作品である東方Projectに登場する宇佐見菫子と「ZUN's_Music_Collectioin」に登場するマエリベリー・ハーン(メリー)の二人によるカップリング。
菫子は『東方深秘録』、メリーは「蓮台野夜行」(「ZUN's Music Collection」Vol.2)にそれぞれ初登場した。
二人は異なる世界を渡る体験や実際に異なる世界と交流していること、それらの行き来に「 夢 」を介するなど共通点を持ち、二人にまつわる二次創作においても両者の様々な交流の在り方が想像されている。
ただし菫子の最新登場作品が『深秘録』、メリーの最新登場作が「燕石博物誌」の時点では両者の関係性、さらに両者の接触可能性の有無などについては原作作中では語られておらず、様々な要素も併せて二次創作によってその交流を想像するものとなっている。
「秘封倶楽部」
菫子とメリーの大きな共通点の一つが、「秘封倶楽部」である。
両者の秘封倶楽部の関連性なども先述の現在時点では語られていないが、二つの秘封倶楽部には様々な共通点がある。
例えば両者とも「 オカルトサークル 」(『深秘録』 / 「蓮台野夜行」)であること、ごく少数のメンバーであること、メンバーが異なる世界を実際に体験していること等がその一例である。
この内菫子の秘封倶楽部についてはその成立の経緯がはっきりしている。
こちらの秘封倶楽部は菫子によって結成されており、菫子は「秘封倶楽部初代会長」を名乗っている。
その結成目的こそ菫子のごく個人的な目的も含まれるものであったが、「異世界への憧れ」がその動力となっている点はメリーたちの秘封倶楽部と共感する。
「夢」
菫子は『深秘録』での騒動においてオカルトボールを使用して幻想郷へと入り込む手段をとっていたが、一連の騒動が異変として解決された際にオカルトボールも回収されたため幻想郷への来訪の手段を断たれたかに思えた。
しかしその後「 夢 」を通して幻想郷へとやってくることができるようになり、以後もこの方法で幻想郷と交流する様子が描かれている(『東方茨歌仙』、『東方香霖堂』等)。
メリーは「夢違科学世紀」にて「 夢 」を介して体験した異世界の様子や出来事を秘封倶楽部のもう一人のサークルメンバーである宇佐見蓮子に語っており、それ以後の作品でも「 夢 」を通した体験が重ねられていることが語られている。
菫子とメリーの二人にとってそれはただの「 夢 」ではなく、渡った先で得たものを持ち帰ったり、あるいはその世界で負った傷が現実にも現れたりしている。例えば菫子は弾幕ごっこでの「あざ」が現実にも残っていた(『深秘録』)としており、メリーは筍や「 イザナギオブジェクト 」を持ち帰った他、襲撃を受けた際などはそこで負った傷が現実にも表れている(「鳥船遺跡」)。
またメリーは「 夢 」の先の異なる世界で、その世界に存在する何かの「 生き物 」(「夢違科学世紀」)や「 妖怪達 」(「燕石博物誌」)に襲われる経験をしており、菫子もまた『深秘録』では多数の幻想郷の猛者と渡り合った。菫子が戦った相手には博麗霊夢や霧雨魔理沙、藤原妹紅など現地の人間たちもあったが、例えば茨木華扇や二ッ岩マミゾウ、「 正式に 」幻想郷に入ってすぐに出くわした古明地こいしなど、多種多様な存在もあった。
「 夢ってのは (中略) あくまでももう一つの現実に過ぎない
これを現からどうにかしようって事は夢から現がどうにかされるって事でもあるの
夢は受け入れないといけないわ 」(霊夢、『茨歌仙』)
他者関係という者でなく広く二人に共通する異世界との出会いという点では、次のようなケースがある。
メリーは「 別の量子が世界する 」という「 『あの世』 」において「 逆さ 」になった「 木造の天守閣 」を持つ城を見た、としている(「燕石博物誌」、空中に沈む輝針城)。
菫子は『深秘録』においてこれと同種の特徴を持つ「輝針城」を(幻想郷内を逃亡中に)訪れており、その不可思議さに驚いてもいる。
またメリーは「 夜の竹林 」に迷い込み、ここで延々迷い続けた「 夢 」を体験している(「夢違科学世紀」)が、『深秘録』では菫子もまた同じような特性を持つ幻想郷の「迷いの竹林」を訪れている。
加えて、作中で二人がともに同じ地名またはそれぞれの場所に触れた様子が見られるのが、「博麗神社」である(『深秘録』 / 「蓮台野夜行」)。
性格面
先述の通り両者の秘封倶楽部の共通点である異なる世界を臨む姿勢は菫子とメリーの二人にも共通しており、時には怖い目に遭遇しようとも冒険心をもつアグレッシブさや探究心などが作中でも描かれている。
自らの足で様々な「 不思議 」や「 オカルト 」に挑もうという姿勢も共通しており、時には強い熱意を覗かせることもある。
「 って、何、夢の中で怖じ気付いているのよ、私ったら。 」(メリー、「夢違科学世紀」)
「 この伊弉諾物質と同じ石で出来て居ると思うわ。確かめなくっちゃ 」(メリー、「伊弉諾物質」)
「 どうせここは夢の中なんだ。妖怪や幽霊ももう慣れたし、今更何が出ても驚かない 」(菫子、『香霖堂』)
「 折角、世界には面白い物が転がっているのに、みんなの目には見えていない。
(中略) 何処にだってオカルトは現れているというのに 」(菫子、『香霖堂』)
この他、人と人のコミュニケーションについてそれぞれの考えが語られることがある。
菫子は外の世界においてスマートフォンが生活中で常時稼働する人々の様子を指して「 みんな下を向いて違う世界を見てる 」とし、「 同じ場所に居合わせても、人間社会は遠隔のコミュニケーションを重視する余り、人間個人の能力を低下させた 」と続ける(『香霖堂』)。
一方でメリーはそもそも人は「 僅かに異なる世界を見ている 」とし、「 違う世界を見ていてもコミュニケーションは成り立つ 」ともしている(メリーの言葉を受けた蓮子、「燕石博物誌」)。
ここには人々の同床異夢の様にストレートな疑問を投げかける菫子と、そもそもの意思疎通の違いの在り方に異なる世界を覗くという観点からも人間的洞察を寄せるメリーとの違いが表れている。
特殊な能力・アイテム
メリーは「 境界の境目が見える 」能力を有する。
これはメリーによれば「 何もしなくても見えてしまう 」、「 不可抗力 」のものであると語られている(「蓮台野夜行」)。
これに加えて先述のように「 夢 」を通して異なる世界を渡り、現地の物品を持ち帰る等も行っている。
作中では、物語の進展とともにその能力も変化しているようで、「大空魔術」では蓮子と二人での独自の月面ツアーを考えたり、「鳥船遺跡」では実際にはるか遠く離れた場所に蓮子と共に赴いた。「伊弉諾物質」では「 夢 」を介さずとも蓮子と「 ビジョン 」をある程度共有するにも至っている。
このメリーの能力の変化は蓮子も感じている。
菫子は超能力を操る程度の能力をもつ「 本物の超能力者 」であり、実際に『深秘録』作中において先述のような幻想郷の面々と渡り合っている。またこちらも先述のように『深秘録』以後は「 夢 」を通して幻想郷へと顔を出しており、現地での交流を楽しんでいる様子が描かれている。
この他、異世界と関わったアイテムとしてメリーは筍やクッキーなどの品々の他「 イザナギオブジェクト 」を持ち帰っている。
また異世界から持ち帰るのではなく異世界に残したものとして、稗田阿求が「幻想郷縁起」(『東方求聞史紀』)に付録した「 メモ 」について、この執筆者がメリーなのではないかとされることもある。
菫子は幻想郷に挑む際には当初は先述のようにオカルトボールを用いていた。
菫子の場合は幻想郷から何かを持ち帰るより幻想郷に何かを残していることが多く、例えばスマートフォンやESPカードなどが紛失やそもそも使い捨てであったなどの理由で幻想郷に残されている。
また菫子の場合は少名針妙丸や森近霖之助に、本人の意図とは全く別のものながらそれぞれの形で精神的ダメージを与えるなど、人間関係においても小さな爪痕を残している。
服装・デザイン
登場作品によってメリーの衣装やその色彩は異なるが、ほぼすべての作品で紫色の系統のカラーの服を身に着けている。
中には『深秘録』初登場時にも見られる菫子の制服のカラー(菫色)に近い色彩のものもある。
菫子もまた『香霖堂』では大きくデザインが異なる服装で描かれているが、そのカラーにはやはり青紫のカラーが見られ、こちらのカラーに近いメリーの服装カラーもある(例えば「伊弉諾物質」)。
服装についてはそのバリエーションに、ともに半袖の様子が描かれることもある(菫子は『茨歌仙』、メリーは「大空魔術」他)。
一方で
上記のような二人の共通点や関連する点が見られる一方、明確に異なる部分もまたある。
「卯酉東海道」などではメリーは蓮子と共に大学生であるとされており、菫子は高校生であると語られている(ただし年齢は不明。「大学生」、「高校生」という社会的身分だけが明確)。
また二人の住まう世界(例えば時間や空間、地域など)にも違いがある可能性がある。
幻想郷的立場では、二人とも「外の世界」の人々と言えるが、その具体的な世界が同一であるか、あるいは同一であったとしても菫子とメリーが接触できるような世界なのかなどについて明確には語られていない。
二次創作では
菫子とメリーについては両者ともに作中で様々な活動や想いが語られ、ファンの間でも様々な共通点などが見出されているいる一方で、謎となってい部分も多いため、二次創作においても二人について多様なアプローチがある。
二人が交流するものでは、先述のようにともに「 夢 」を介して出会ったり、あるいはオカルトを巡る冒険の中での出会いであったり、はたまた幻想郷を舞台とした出会いや交流であったりと、「菫メリ」の出会い方、触れ合い方は様々である。
それは秘封倶楽部同士の出会いでもあり、時には『深秘録』以後「 友達を作ることも悪くない 」と感じるようになった菫子が、想いを分かち合える少し大人びた友人としてメリーを感じ、メリーもまた同じく世界を渡ることを楽しむ菫子に特別な共感を寄せるなどの在り方もあるなど、菫子やメリーのこれまでの経緯と連動した在り方もある。
また創作には二人の接触可能性についてアプローチするものもあり、その際にはメリーと共に活動する蓮子とのかかわりが関連することも多い。例えば二人の間には時系列的差異がある、などとする想像では蓮子の存在が特別なものとなることもある。
秘封倶楽部においてはメリーと蓮子の結びつきである「蓮メリ」が長い時間をかけて多様な創作文化を醸成し続けているが、「菫メリ」もまた独自のアプローチを生み出している。加えて「蓮メリ」と「菫メリ」が交わることもあり、菫子の登場以後、三人の秘封倶楽部の姿も多様に想像されるものとなった。
一例としては、三人のグループ単位でもある「すみ蓮メリ」などがある。
他の創作アプローチを基とするものとしては、メリーにまつわる二次創作の考察である「紫=メリー説」を基盤とした創作と「菫メリ」が絡み合うこともあり、この場合は菫子と八雲紫のカップリングである「ゆかすみ」にも想いを傾けるものともなり得る。
菫子とメリーの二人にはさまざまな共通点をはじめ異なる世界を垣間見る姿やその想い、時には強く深くかかわりあう特別な他者との複雑なダイナミクスの中での固有な、多様な在り方が想像されているのである。