山口弁
やまぐちべん
構成
戦国時代までは地方豪族であった多々良氏を源流とする大内氏が32代、江戸時代以降は毛利氏(毛利輝元を始祖とする長州毛利家)が13代に渡って統治し続け、「約700年の間に統治者の入れ替えが2回しかなかった」という歴史的背景もあって全域から見た方言格差は比較的小さい一方、古来より大陸の玄関口として港町が栄えた赤間関(下関市)については特に博多弁と愛媛弁、県東部は隣接地域によって広島弁、石見弁それぞれの影響を受けながら発展した。
歴史創作、特に幕末を舞台とした作品に登場する山口弁は古語表現が色濃く残る周防方言が主であり、長州藩の本藩が置かれた萩にちなんで『萩ことば』とも称されるが、県民同士の日常会話において使用される現在の一般的山口弁は標準語に近い構造を持ちつつ広島弁の影響が加わった長州方言を主としている。
つまり、県西部に比べて県東部、もっと言えば萩地域周辺にこそ純然たる山口弁が多く残されており、県西部では皆無に等しい「幸せます」(=非常に嬉しく感じます)もその1つである。
特徴
山口弁特有の表現には、会話内容によって「~っちゃ」「~いーね」「~そ(ほ)」「~じゃけぇ(やけぇ)」に相手の同意を尋ねる「~のんた(=~ですが、あなたはどうですか?)」の古典方言を加えた5つの語尾変化が存在する。このうち、「のんた」は絶滅危惧方言の1つに挙げられており、県内在住の古老を除けば常用者は極めて少ない。
また、特徴的な動詞に「やぶる」「はしる」、形容詞に「えらい」の3つが挙げられる。
やぶる
山口弁の「やぶる」には、標準語で言う所の「破る」に「壊れる」という意味も含んでおり、対象の大小に関わらず広く使用される。このため、山口弁では車やテレビといった頑丈なものが壊れた場合にも紙や布同様に「やぶれた」と表現する。
<用例>
「ねぇお母さん、さっきっからテレビがまるで映らんのよ。やぶれたんかねぇ?」
「お前、せっかく買うてもろーたスマホもうやぶいたんか。は?俺の使わしてとか嫌いーね、貸さんっちゃ。」
はしる
山口弁の「はしる」には、標準語で言う所の「虫酸が走る」「悪寒が走る」と同じように何かが体内を駆け巡る状態、特に痛みを表現する際に使われる場合がある。しかし、現代の一般的山口弁では常用されない古典方言に分類される。
<用例>
「ちょっと歯医者行ってくるけぇ。うん、昨日から虫歯がはしってぶち辛いそ。」
「あー、いけん。風邪ひいたんやろーか、背中に寒気がはしりよる。」
えらい
山口弁の「えらい」には、本来の「偉大な」という意味とはまるで異なる疲れを表す意味も持ち、同様に相手への慰労を意味する武家言葉「大儀」が形を変えた「たいぎ」、さらには関西弁の「しんどい」も存在する。
山口弁では、身体的なものに「えらい」を、精神的なものに「たいぎ」を使い分けて意味を強調し、それほど厳密な区分を必要としないものに「しんどい」を使ってそれぞれの状態を表現する。
<用例>
「今日の体育って確かマラソンやろ?あーあ、今からたいぎな。」
「そーそー、5kmも走らされてぶちえらかったっちゃ。見てみーね、まだ膝が笑ろーとるけぇ。」
「お兄ちゃん、えらい(この場合は「ぶち」と同義)しんどそーやねぇ。早よーお風呂入ってから寝りって。」