概要
『大逆転裁判』第3話から登場する、大英帝国の主席判事。通称『ヴォルテックス卿』。初登場時52歳。
弁護士の任命権を持つと同時に検事局に指示を出せる程の絶大な権力を持ち、事実上の大英帝国法曹界におけるトップたる存在である。それ故に、彼と対面した成歩堂龍ノ介から『睨まれるだけで右腕が折れそう』と言わしめる程の威圧感を持っている。両腕を大きく広げる仰々しいポーズを取ると、背景で数羽の鳩が飛ぶ。
巨大な時計台の中を思わせる多くの歯車が音を立てて回り続ける執務室を持ち、多忙な身の上ゆえか愛用の懐中時計のゼンマイを弄ったり時間を秒単位で気にしたりするなど、非常に時間にうるさい。 しかし、その割には成歩堂等と会話する際に独自の持論を長々と話して会議に堂々と遅刻する事もある(作中では11時間以上の大遅刻をしたことも)。また、時にとんでもない無茶振りをすることもある。
自分の組織が自分の思い通りに動く事を好むと公言しており、前述の時計を思わせる執務室も、そんなヴォルテックスの心情を表している。それ故に、思い通りに事が進まないと不機嫌になる。
とてつもない威圧感とその性格から、初見で彼をラスボスだと疑ってかかったプレイヤーは数知れず。
増加と複雑化の一途を辿る犯罪に対抗するため、大英帝国の司法の強化に力を入れており、近い内に司法長官の座に就くことを狙っている。
その中でも科学式捜査の導入に熱心で、非公式ながら科学式捜査班を組織してドクター・シスにその指揮を執らせており、その他にも交換留学生を使った技術交流や国際科学捜査大検討会の開催を大英帝国で行うよう積極的に働きかけている。
それらの行動も、一重に愛する大英帝国が世界の頂点であるためという強すぎる愛国心からくる行動である。
当初は亜双義一真の代理としてやって来た成歩堂を弁護士として認めずに帰国させようとしたものの、彼と御琴羽寿沙都の説得に応じ、試験と称して裁判への出廷を許したり、ある理由で謹慎処分を命じられていた成歩堂を毎月の報告書の内容に免じて謹慎処分を解いてくれたりと、筋が通っていれば認めてくれる公正な人物である。
『大逆転裁判』では多くのプレイヤーの予想に反して、特にこれといった目立つ活躍もないまま終了した。
大逆転裁判2において
本編の10年前は検事を務めており、その際に、大逆転裁判シリーズにおける全ての発端となった『プロフェッサー事件』を担当していた。
事件の犯人であるプロフェッサーが逮捕された後、その裁判も担当するはずだったが、その事件に巻き込まれて兄を喪ったバロック・バンジークスの熱意に応える形で担当検事の座を譲り、自身は補佐に回った。
それ故にバンジークスからは恩人として、絶対な信頼を寄せられている。
しかし第4話にて、プロフェッサー事件を解決に導いた伝説の刑事が殺害され、その被告人がバンジークスである事もあって、国際情勢にも関わる事件になってしまったために、何と裁判長として法廷にその姿を現した。
その際、手にしている杖が先端に金属製のユニコーンになっているものとなり、それを木槌替わりとして使用する。
極秘裁判であるため陪審員が存在せず、そのため全ての判断が裁判長である彼に委ねられる形となっている。
関連タグ
シャーロック・ホームズ(大逆転裁判) バロック・バンジークス
以下、ネタバレ注意
ネタバレ
アン・サッシャーに命じて日本に居るジョン・H・ワトソンを殺害させた張本人であり、バロック・バンジークスに纏わりつく『死神』という名の呪いの正体。
そして、プロフェッサー事件の真の黒幕。
つまり、大逆転裁判シリーズの多くの登場人物の人生を狂わせた、大逆転裁判2どころか大逆転裁判シリーズにおけるすべての黒幕。
……ある種、多くのプレイヤーの予想通りの展開である。
殺人鬼プロフェッサーの正体は当初、亜双義一真の父・亜双義玄真とされていたが、実はバロック・バンジークスの兄・クリムト・バンジークスであった。
元々正義感の強いクリムトは、とある貴族が司法の腐敗を招いていることに我慢が出来ず、飼っていた猟犬を使って殺害する。その際に残された証拠からクリムトが犯人であることを知ったヴォルテックスは彼を脅迫し、自身にとって邪魔な人物を次々と殺害させていった。しかも、3人目の標的となった人物は、よりにもよってクリムトの恩人である当時の主席判事であり、そのせいでクリムトは精神も病んでしまった(バロックも兄が犯人である可能性を疑っていたが、兄が恩人を殺すわけがないと早々に切り捨ててしまっていた)。
証拠がなかったのは彼や黒幕が司法関係者であるため隠滅してしまったと思われる。
4人の犠牲者を出したところでクリムトは親友である亜双義玄真に犯人であることを見抜かれてしまい、両者合意の上で決闘を行い、敗れて死亡した。決闘の前に全ての真相を記した遺書を遺しており、玄真にそれを託していた。
クリムトの死後、グレグソンやワトソン、コートニー・サイモン(後のドクター・シス)に命じてプロフェッサー事件の罪を玄真に着せたヴォルテックスだが、クリムトの遺書だけは見つからなかった。そのため遺書を隠し持っていると睨んだ玄真に接触し、彼が息子に会いたい事を利用して取引を持ち掛け、事件の罪を認める代わりに秘密裏に脱獄させ、表向きは処刑されたことにして日本へ帰す事を約束した。
裁判で玄真の有罪が決まると、刑務所の職員に命じて玄真の処刑を執行させずに彼を棺桶に入れて刑務所裏の墓地に埋葬させた。
その深夜、ヴォルテックスは日本の外務大臣の椅子と引き換えに計画に共犯させた慈獄政士郎と共に玄真を掘り起こしに向かうが、運悪く墓荒らしにやって来た学生が先に玄真の墓を掘り起こしており、しかも墓の下から玄真が這い出てきてしまっていた。処刑されたはずのプロフェッサーが生きてることを世間に知られるわけにはいかないため、ヴォルテックスは慈獄に命じて玄真を射殺させる。
玄真の遺体を再び墓に埋めた後、彼の独房を徹底的に調べさせるが、結局クリムトの遺書は見つからなかった。
その後、法で裁けない悪を謀殺するために倫敦の裏社会で有名な殺し屋アン・サッシャーを雇ってグレグソンと組ませ、バロックが担当した裁判で不正な手段を使って無罪判決を勝ち取った被告人を次々に暗殺させることで「バロック・バンジークスに起訴された被告人は例え無罪になっても助からない」という『中央刑事裁判所(オールドベイリー)の死神』伝説を作り上げ、犯罪への抑止力としていった。
だが、司法長官の座を狙うにあたって自分の過去を知る者が邪魔になり、交換留学を悪用した交換殺人を計画し、アン・サッシャーにジェゼール・ブレットという偽名と留学生の身分を与えてワトソン暗殺のために日本へ派遣すると同時に、日本に居る慈獄を通じて一真に英国留学の条件としてグレグソンの暗殺を命じた。
要するに、国際問題に発展しかねない大犯罪を、自分の手を汚さずに他人の手で行わさせる事で犯していたのである。
最後は意外な場所に隠されていたクリムトの遺書によって真相が明かされ、彼の犯行が立証される……
……のだが、自分自身は殺人教唆をしただけで何もしていない事を逆手にとって開き直り、「闇と戦うためには闇が必要」と説くことで傍聴に来た司法関係者を味方につけてしまう。もしプロフェッサー事件の真相と自分の罪が世間に露見すれば司法は信用を失い、大英帝国が再び無秩序時代より荒んだ国に堕ちてしまいかねない事を理由に挙げて……。
成歩堂も「ここまでくると他人を意のままに操る天才だ」と彼の卑劣さを皮肉る。
だが、極秘裁判であるからと高らかに開き直ったのが運の尽き。
なんと、シャーロック・ホームズの手によってこの極秘裁判の内容が全て英国王室に生中継されていた事が判明。ヴォルテックスの犯行を知った女王陛下はヴォルテックスに与えられた総ての権限を抹消するとともに、後日公開裁判で裁く事を決定した。
この大どんでん返しに傍聴人はパニックになり、ヴォルテックスは今まで卑劣な手を使って築き上げてきた権力が音を立てて崩れたのを感じて愕然。
閉廷を何度も繰り返し唱えて足掻くがそれも虚しく、裁判席から崩れ落ちて転落する。
そして、転落の衝撃で陪審席から裁判席の背後にある大天秤の有罪の皿に火炎弾が叩き込まれ、有罪に大きく傾いた大天秤が崩壊。崩壊した天秤はヴォルテックスの背後に落ち、地獄の業火の如き凄まじい炎が大法廷とヴォルテックスを焼き尽くした。
その後、黒焦げになった姿で証言台に立って細々と証言し、ヴォルテックスは失意のうちに失脚するのであった。
ネタバレの余談
勝利を過信して自分の罪を開き直って喋り、それによって第三者から裁かれてしまう末路は、逆転裁判4の牙琉霧人に通じる部分がある。
なお、裁判長席に座る人物がラスボスというケースはシリーズを通じてこのヴォルテックスが初である。
また、作中では日本人の勤勉さや誠実さを高く評価しているが、化けの皮が剥がれるにつれて日本人を見下す発言が目立つようになる。
最終決戦も成歩堂達は死力を尽くしてヴォルテックスを追い詰めており、ブレイクモーションの演出も逆転裁判シリーズ史上1、2を争うほど超ド派手なものとなっている。この流れは実際にゲームでプレイした方がより感動するであろう。
更に、ヴォルテックスにトドメを刺す際に流れる『大追求 ~成歩堂龍ノ介の覺悟』は本作屈指の神曲なので必聴である。
彼が真実をねじ曲げた『プロフェッサー事件』は登場人物のほとんどの人生を狂わせた事から、本編逆転裁判シリーズにおける『DL6号事件』を思わせる。
彼が犯罪を犯したのはあくまでも犯罪と戦うためであるが、そのためにとった「毒を以て毒を制す」を字で行く手段を選ばない行為は『逆転裁判5』の法の暗黒時代の様である。
彼が『死神』である以上、例えサッシャーが殺害されずに帰ってきたとしても、いずれ口封じに始末していたと思われる。第3話のコゼニー・メグンダルの裁判で『まず負ける事はない』という発言も、メグンダルが不正な手段で無罪に持ち込む事を予測しており、例え無罪を勝ち取っても刺客を差し向けて暗殺させるつもりだったのだろう。
死神の裁判で無罪となった一部の被告人を含め、刺客を差し向ける前に彼らが大英帝国から消えた件については、ヴォルテックスにとって予想外の出来事もあったとはいえ、結果的には良かったのかもしれない。
ちなみに、ヴォルテックスと共犯する事になったグレグソンとワトソン、慈獄の3人だが、グレグソンは玄真に濡れ衣を着せる事を最初は断固反対しており、慈獄も玄真を撃ち殺す事を躊躇っていた。ワトソンは彼自身の人柄があまり映されていないため不明だが、証拠偽造する際に流石に後ろめたかったのか少し口ごもっていた。
最終的にヴォルテックスに脅されて共犯者にされ、以来ヴォルテックスの言いなりになっていたグレグソンと慈獄だが、心の底ではプロフェッサー事件の事で後悔していたのだろう。
特にグレグソンは前述の後悔もさることながら、バンジークスの高潔さに心から敬愛の念を抱いている。
最後に、慈獄に命じて玄真を射殺した時、目撃したのは墓荒らしなので『墓守りに目撃されて争っている内に射殺された』等と適当な理由をつけて目撃者を抹消すればいいはずである(墓荒らしは金のない学者がよくやっていた事とはいえ、立派な犯罪である)。
そのため、ヴォルテックスは最初から玄真を脱獄させるつもりはなく、殺害して遺書を奪うつもりだったとも考えられる。