~っツ!……私も感情を持つ人間だ、素顔であれば今、お前を殴り殺していたかもしれん……それを抑えるためのマスクなのだ
CV:前田昌明
概要
クロスボーン・バンガード(以下、CV)の軍事部門統括。45歳。
2mを越えるかという長身の偉丈夫であり、更に中世ヨーロッパ騎士を思わせるプラチナ製の仮面で常に頭部を覆った威容から、組織内では「鉄仮面」とも呼ばれる(無論、正式な軍議の場では、この呼称を使う者は居ない)。
CV総帥であり、地球圏有数の巨大複合企業「ブッホ・コンツェルン」会長でもあるマイッツァー・ロナの娘ナディア・ロナに見初められ、ロナ姓を得た入り婿であるが、マイッツァーをして「ロナ家の男」と認められており、その信も厚い。
(むしろマイッツァーは、実娘とは言え孫娘(ベラ・ロナ)を連れて出奔したナディアをこそ「貴族の外道を行った」と評している(子育てに失敗している)上、カロッゾがCV活動に参画したことが夫婦の不仲の原因となった事を理解しているため、充分以上にカロッゾを慮っている。)
血縁としては、上記のナディアとの間に生まれた娘ベラ・ロナ(17歳)以外に、婚外子としてドレル・ロナ(18歳、母親については不明)が居る。
『鉄仮面』の風貌ゆえに初見ではアンドロイドを思わせるが、威の乗った“肉声”は聞く者に人間らしさを感じさせると共に高揚を与え、軍組織の長として相応しいカリスマを備える。また、フロンティアⅣ制圧完了後の演説に於いては、あえて群集の前に生身を晒して見せ、その中でライフル狙撃を頭部に受けながらも(ほぼ)無傷のまま演説を継続し、「我らと意見を異にする者達よ、私を殺しに来るのはいい!私は逃げも隠れもしない!」とまで語ることで、民衆からの支持をも集めるなど、その手腕・才能は多方面に渡る。
しかしながら、狙撃に耐えた肉体はいうまでもなく、多くの人間を惹き付けるカリスマ性もまた天賦とは異なり、カロッゾ自らが発案した「ラフレシア・プロジェクト」によって、徹底的な強化改造手術を己に施したことによる、『研究成果』である。
宇宙世紀0120年代の最新技術によって強化された肉体は、ノーマルスーツ着用の必要すらなく宇宙空間での活動を可能としており、拳銃程度では直撃しても怯まない耐久性を有する(恐怖に駆られたセシリーによる至近距離からの射撃で、左手小指が吹き飛んでいるが、カロッゾは全く意に介していなかった)。
精神(脳の情報処理能力)面でも多大な強化が施されており、対象の心理状態を計算して発される声音は人々の心を震わせ、人間には事実上操作不可能な巨大MAラフレシアを、完全思考制御によって手足すら使わずにコントロールする。
た、ラフレシア・プロジェクトの被検体となって得た強靭な精神力(エゴ)をもってして、総帥マイッツァーの「コスモ貴族主義」を実現させんと、軍を統括する傍ら、マイッツァーには無断で完全無作為による過剰数の人類の粛清を実行するために、腹心であるジレ・クリューガーと共にバグの開発など、各種暗躍も行っている。
バグによる無差別大量殺戮の“結果”もたらされるものは、間違いなくコスモ貴族主義実現のための最短経路ではあったが、そのような無慈悲な“過程”は当然ながらマイッツァー(の理想)からは糾弾を逃れられないものであったため、カロッゾはフロンティアⅠにおいて、バグの最終テストを行った後、マイッツァーに隠居を強要する計画としていた。
これら一連の行動は一見、クーデターを含む矛盾した行為にも見えるが「コスモ貴族主義の実現」という最終目標の達成、ただその一点のみに対しては間違いなく最高に近い効率的手法であり、カロッゾにとってはマイッツァー・ロナ(ロナ家)から受けた恩義に対して返すことのできる、最大限の誠意であった。
ネオ・サイコミュ――バイオ・コンピュータの補助によりエゴを強化したとは言え、所詮は一個人の行為であるため、「矛盾している」「間違っている」といった判断の議論に意義は無い。
ただ単にカロッゾは、自分を裏切り続けた妻にさえ、手を上げる事を理知的でないと割り切れてしまう「科学者でしかない」人間であり、その彼に『“課題”に対して最適な手法を考案し、“成果”を得るために邁進する』という環境しか――20年近くもの時間があったにも関わらず――与えられなかったのが『ロナ家』だったという、ただそれだけの事である。
ナディア・ロナ
マイッツァー・ロナの娘であり、カロッゾの妻。そして、ベラの母。36歳。
「自由」と「身勝手」を履き違えたまま、年齢を重ねた女性。
発端。
コスモ・バビロニア建国戦争を終わらせたのは、ベラではなく、むしろナディアの行動(素行)にこそ、その発端があると言える。
ただし、クロスボーン・バンガード決起の最終的な発端もナディアの行動(素行)にある。
詳細は富野監督著作の小説版で語られているため割愛するが、『三大悪女』が可愛く見える、とだけ記しておく。
余談
- あまりにも特徴的なマスクだが、実はなんとプラチナ製。鉄仮面ではなく、白金仮面だったのだ。
- 「映画ラストで倒されたカロッゾは影武者だった」という説について、『機動戦士ガンダムF91 オフィシャルエディション』に掲載された富野監督へのインタビューによると「本作が大きな形のプロローグでしかないという構造にあるから、正確にいうとわかりませんね」とのこと。
- 準備稿段階ではエピローグとして「真っ暗な部屋にカロッゾのマスクがいくつも並べられており、何者かがその内の一つを持ち出して去っていく」というシーンの案が出たが、富野監督に却下されたという。
- なお、カロッゾは富野監督が意図せず個人的な感情移入あるいは自己投影をしてしまったキャラとも言われている。監督曰く「全く表情のない鉄仮面というキャラクターであったから作中のキャラクターに自己投影ができた、あるいはしてしまった」とのこと。
- エンディングのスタッフロールのバックでは、主役機のF91とカロッゾの顔が半分ずつ重なり合うという演出がある。これは単純に主人公機とラスボスの対比ともとれるが、人間の脳に近い構造を持つバイオ・コンピュータや多細胞生物の体組織に近い発想のMCA構造、ガンダム史上初の鼻と口の意匠といった要素を持つF91をカロッゾと対比させることで「人間に近づいていく機械と、機械に近づこうとした人間」「人間に合わせてスペックを拡張する機械(F91)と、スペックに合わせて人間の機能の拡張を要求する機械(ラフレシア)」を表しているとも。
- ワイルドな内容から色々と伝説的なコミックボンボン版(シーブックが「うぬらめが八つ裂きじゃァ!」とか言ってるアレ)では尺の都合によりコスモ貴族主義が余り掘り下げられず、バグによる殺戮もさも好き好んで行っているかのように描かれている、文字通りの「ド外道」なため、ラスボスとしての狂いっぷりが強化されている。