概要
吾峠呼世晴氏の漫画『鬼滅の刃』において、鬼殺隊の隊士達が人食い鬼を倒す為に使用する技術“全集中の呼吸”を極める事でやがて行き着く境地である。
詳細
作中において、呼吸術が極みの域に達した隊士には、身体に鬼の文様に似た痣が浮かび上がり爆発的に身体能力が向上する。そこから更に上位にある域であり、覚醒した者は他者の身体の中が透けて見える（或いは相手の身体の中を感じ取れる）ようになり、それによって相手の骨格・筋肉・内臓の働きさえも手に取るように分かるようになる。
初めにこれについて言及したのは、主人公・竈門炭治郎の回想において登場した彼の父である竈門炭十郎であり、彼の言によれば、“型”の動きを何度も何度も繰り返し修練する中で、形を覚えた後に無駄な動きを削ぎ落とし、『正しい呼吸』と『正しい動き』で身体の中の血管一つ一つまで認識していく事により、通常ならば困難な動作も一瞬で行なう事ができるようになるという事である。
最小限の動作で最大限の力を引き出すことで、頭の中も不要な思考が削がれ、だんだん透明になっていき、そうすると『透き通る世界』が見えるという。
その本質は、無我の境地或いは明鏡止水と呼ばれる領域……即ち呼吸する事と同じように当然として、水が流れ落ちる事と同じように自然に“殺す”事である。
上弦の参の猗窩座が、至高の領域と呼んでいたのはこれの事である。
上述したように、戦闘においては敵が攻撃する際にどの部位の器官がどのように動くかを判別できるようになる為、相応の実力者ならば相手の攻撃や動作のパターンを瞬時に見切って先んじて回避および反撃をする事が可能となる。
さらにこの状態だと“殺気”や“闘気”といった戦闘の際に無意識に出てしまう情動も消失、感情を一切揺らがせる事無く相手の頚を落とす為に、殺気を放たず自然体のまま鬼と闘える。
前述の通り、この境地に達する条件としては、身体の限界値を示す痣を発現させた上で更に身体能力を高める必要があり、作中で使用できる（またはできた）者は、炭十郎・炭治郎親子と、黒死牟、悲鳴嶼行冥、時透無一郎、伊黒小芭内、そして例外中の例外として、生まれながらにして会得していた耳飾りの剣士(継国縁壱)と、非常に少ない。
他には、煉獄杏寿郎が近い所にいたようだが、残念ながらこの領域に至る前に戦死してしまった。
余談
実はこの境地は、実際の武術にも当てはまるものがある（流石に本当に体が透けて見える事はないが…）。
空手や合気道など、“型”のある武術を学んでいる、或いは学んだ事がある人なら解るかもしれないが、武術の型は最初こそ一つ一つの動きを覚え、思い出し考えながら行う為に、当然上手くいかず疲れも溜まり大変だが、何度も何度も同じ動きを繰り返して稽古し続けることにより、やがて体が動きを覚え、考えなくとも自然に動くことができるようになる。
更に稽古を続けて精度を上げていくと、無駄な動きや力が削ぎ落とされていき、疲れも溜まりにくくなり、体も楽になっていく。考える必要が無くなりただ動きに集中していくと、本当に頭の中が真っ白・透明になってくる。そしてその状態を保っていると型は上手くいき、逆に雑念が入ると動きが悪くなってくるのである。
坐禅の原理もこれに似ており、ただ姿勢を良くして座る事にのみ集中し、心から雑念を削いでゆく。空手や合気が“動く禅”と呼ばれる所以もここからとされる。
