世界平和は一家団欒のあとに
せかいへいわはいっかだんらんのあとに
電撃文庫(メディアワークス→アスキー・メディアワークス)から刊行されたライトノベル。2007年から2010年まで展開された。全10巻。通称はセカダン。
著者は橋本和也。挿絵はさめだ小判。
第1巻は第13回(2006年)電撃小説大賞の金賞受賞作。
なお、同回の同期受賞は紅玉いづきの『ミミズクと夜の王』(大賞)、土橋真二郎の『扉の外』(金賞同時受賞)、木戸英斗の『なつき☆フルスイング!』(銀賞)。
第13回電撃小説大賞受賞作の中で最もコンスタントに定期展開を続かせた上で、最も巻数を出した作品である。
(『なつき☆フルスイング!』は単巻で終了、『扉の外』は2007年に3巻で完結、『ミミズクと夜の王』は2007年に第1巻が発刊されたが、以降、2巻目が本作終了の2010年、3巻目が電子限定で2014年と展開ペースがラノベとしてはとても遅く定期展開の範疇に無い)
その代わりシリーズを通して誤字や誤植の多さもコンスタントな作品として知られる。一時期においては、その誤編集ぶりは電撃文庫の(ダメな)歴史に残ると言われたほどで、愛読者たちからは編集仕事しろとの声も度々上がり、最終的にはファンたちすら匙を投げ、あげく本作の名物と化していた。
あらすじ
かつて、遠い異世界での事。
魔王の侵攻に耐えかねた王国は一縷の望みをかけて、別世界より「勇者」を召喚した。
召喚された少年は自らを召喚した姫と共に数多ある冒険を潜り抜け、ついに魔王を倒す。
しかし魔王は今わの際、最期の力を振り絞って、勇者と姫君を別の世界へと飛ばした。
ところが勇者と姫君が飛ばされたのは、勇者の故郷、現代日本であった。
と、ゆーワケで一介の庶民として結ばれた勇者と姫君は、勇者の実家であった「悪の財閥」をサックリと滅ぼして乗っ取り、その財力で幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし………
本作主人公「ンなワケねーだろがっ!!」
と、まぁ、そんな元勇者と元姫君が育み上げた一家が、この作品の主人公一家星弓家である。
この星弓家。世界を救った勇者と、異世界出身である魔法使いのお姫様という次元を超えた両親と、それゆえの次元間ハーフな姉兄妹で構成されている。だからなのかなんなのか子どもたちは皆、様々な異能力を抱えており、しかも常々、様々な世界を揺るがす厄介事に巻き込まれるという巻き込まれ体質の一家。しかも抱える異能は、誰が持つものも一筋縄ではいかず、なおかつそれゆえに星弓家は当初、重苦しい家庭の問題を抱えていた。
その問題の原因の一人である、星弓家第三子、一家最弱の長男・星弓軋人は、いつものように面倒毎に巻き込まれてはこれをサクッと解決する日常を過ごしていたが、ある日、妹である美智乃から友人の柚島香奈子が厄介事に巻き込まれたみたいだから助けてほしいと頼まれる。
ところが香奈子の巻き込まれた厄介事や持っている事情は次から次へと連鎖して星弓家の「家庭の問題」すら巻き込む事に。
軋人は様々な多くの問題を解決するため、「世界の平和のために星弓家の一家団欒を目指す」事を余儀なくされてしまうのであった。
登場人物
メイン2人
- 星弓軋人(ほしゆみ きしと):主人公。星弓家長男、第三子。能力はナイフを媒介に他者の生命力(エネルギーの流れ)を強奪・操作する事。そのために対象者の「生命エネルギーの流れ」を「視る」事ができる。能力名は「冒涜」。能力としては最も地味であるため星弓家最弱の長男の名をほしいままにする苦労人。優等生を自称するが、ぶっちゃけヤンキー。記憶力は地味に良いので成績だけは優秀。
- 柚島香奈子(ゆずしま かなこ):ヒロイン。軋人の妹である美智乃のクラスメート。クラス委員を務めるほどの優等生。軋人の生活態度にはとてもうるさい。実は異能を持っており美智乃と同じく「回復魔法」を得意とする。本人いわく、両親は仕事のため海外にいて実は独り暮らし。兄がいたが事故で返らぬ人となっている。
星弓家
- 星弓美智乃(ほしゆみ みちの):星弓家四女、第五子。姉兄妹の中では最もよく軋人とつるむため、実質上のサブヒロインでもある。能力はあらゆるものを回復・修繕する「回復魔法」。能力名は「祝福」。香奈子とは「回復魔法使い」繋がりで仲良くなった。能力の破格さから燃費も悪く、いわゆる腹ペコキャラの健啖家で痩せの大食い。「回復魔法持ちでも戦えるようにならないと」が持論であるため、祖父やその側近たちから銃の扱いや(かなり頭のイカれた)護身術を習っている。ちなみに姉妹の中では最も「祖母似」であるらしい。
- 星弓彩美(ほしゆみ あやみ):星弓家長女。第一子。能力は四大元素を基礎とした純粋物理タイプの攻撃魔法。能力名は「災魔」。壮絶なコミュ障。誰もが羨む一流大学に入学するもコミュ障と星弓家の巻き込まれ体質が祟って退学するハメに陥り「運び屋」なる怪しい商売をしている。最近、ビミョーな年齢になっているのを気にしている。のちにロリ化の魔法を手に入れる事になるが本人的には「若返りすぎだ!」と不服。
- 星弓七美(ほしゆみ ななみ):星弓家次女。第二子。宇宙レベルの完璧超人的身体能力(ガチな意味で某超人漫画の完璧超人上層部とタメを張れる)の持ち主。能力名は「超越」。宇宙レベルで大活躍し、外宇宙の様々な勢力と政治的交流を持っている。地球が侵略されないのは、この娘のおかげ。一応、正義の味方だがセンスは「悪の首領」であった祖父譲り。姉弟妹の能力名を命名しちゃったのは、このヒト。家庭では結構傍若無人で、軋人いわく「星弓家のジャ○アン」。ただしステータス異常系の魔法攻撃には弱い。
- 星弓軋奈(ほしゆみ きしな):星弓家三女、第四子。軋人の双子の妹だが、物語開始時点で故人。無より生命を創造する能力を持っていた。能力名は「創造」。姉兄妹の中ではもっとも慈悲深く優しい心を持っていたが、それゆえに自身の能力の罪深さに怯える事となり、兄(軋人)を騙して自らの自殺を手伝わせた。最初の物語において星弓家に暗い影を落としていた元凶。
- 星弓刻人(ほしゆみ こくと):星弓家次男、第六子、末っ子。七美に次ぐ身体能力の持ち主で特に「耐久性」と「怪力」に特化している。しかし、その分、七美の劣化版のように扱われる事もあり一家内ではグリーンの子扱いされる事もしばしば。メガネ男子で正真正銘真面目な優等生である一方、頭脳は人並みで成績はあまりよろしくない。その一方、能力で喧嘩の仲裁などもしている事から地域の不良たちには「さん」付けで呼ばれ一目置かれている(兄である軋人とは逆)
- 星弓志乃(ほしゆみ しの):星弓家の母。元・異世界の魔法使いである、元・姫君。旧名はシノン・アーダルハント。現代日本にやってきてからは一気に適応し庶民ナイズされ、一家を支える(時々天然ボケな)母親として家族を見守っている。旦那とは現在でもラブラブで常時ノロケっぱなしだが同時に非常に嫉妬深く家族からは「親父が何かしでかせば母の嫉妬で世界が滅ぶ」と畏れられるほど。
- 星弓耕作(ほしゆみ こうさく):星弓家の父。元・異世界召喚された勇者。仕事は経営コンサルタント業……とは言うが実質は親の組織を瓦解させた上で、組織の各部門を独立させて成立させた会社のコンサルタントをしているので、実質的なグループの最高経営責任者的な存在。銃口を見ず弾道を読まずして銃声を後ろに聞いてすら、その弾丸を弾くという、チートを越えてるスッゴい剣の達人。極度の女好きでもあるため星弓家の姉兄妹弟たちの間では「親父が何かをしでかしたら(母さんが嫉妬で世界を滅ぼす前に)姉兄妹弟全員でボコる」という協定が立っている。
- 星弓大三郎(ほしゆみ だいざぶろう):星弓家の祖父。戦後の闇市の露店から、世界に冠たる一大組織を作り上げた、という伝説のフィクサー。人呼んで「もと大首領」様。しかし作り上げた組織は、ものの見事に反抗期の息子にブッ潰され現在は楽隠居の身の上。七美のビミョーなセンスや、軋人のヤンキー気質は、このヒトからの隔世遺伝。
- 星弓織花(ほしゆみ おりか):星弓家の祖母。故人。姿は美智乃に性格は軋奈に、よく似ていたという。大三郎の組織が行った実験の暴走により帰らぬ人となった。(この事が耕作がグレて組織をブッ潰した原因)
- ナナ(星弓ナナ):七美が宇宙の果てで見つけた不定形生物。七美の影響を受けて、彼女に似た人型に擬態。七美に懐くようになり、七美もそれに応えて愛情を注ぎまくった事から、情緒と善意の豊かな少女へと成長し、星弓家の一員(七美の義娘)として迎えられる。
- 平沢梢(ひらさわ こずえ):刻人のクラスメートの少女。「予知」と「強運」の異能を持っているが、それは子どもの頃に外宇宙より飛来した異生物に憑依されたため。15歳の誕生日に異生物に体と意識を乗っ取られるハズだったが刻人に救われ、以降は刻人の彼女となり彼にべったりとなった。(異生物が離れて以降は異能は精度が落ち「直観力」となった)のち香奈子を「義姉さん」と慕う。
星弓家をとりまく愉快な皆様
- 鶴見啓吾(つるみ けいご):刻人のクラスメートで先祖代々由緒正しき「悪の組織」である「クリムゾンデスロード」の御曹司。特殊衝撃波(というか暗示催眠波)使い。元々は刻人のライバルだったが「話が長い!」と横槍を入れた軋人に企みをサクっと潰され復讐対象を鞍替えし、そして、あっさり返り討ちに遭った。あと全く無関係なトコロで軋人に家業を潰されていたため家庭崩壊の危機に直面し、のちに軋人に「うちの一家団欒(家族の再生)を手伝って欲しい」と泣きつき、家族再生が叶ったのちは人畜無害な一般人として生きると誓って「正義と悪の舞台」から退場した。
- 柚島帯秋(ゆずしま たてあき):多くの能力者を闇討ちして再起不能に貶めた能力者ハンター。実は華麗に死ぬ死ぬ詐欺を決め込んでいた香奈子の兄。本作のラスボス。実は本当に事故で死んだのは両親の方。そして両親を喪った事で壊れかけた香奈子の精神を守るために死ぬ死ぬ詐欺を仕組んでいた。他人の異能を奪って収集した上で、奪った能力を自分が使用でき、また奪った異能を別の他人に植え付ける能力を持っている吸能鬼。両親を喪い、たったひとり自らの元に遺された妹も精神崩壊で失いかけた経験がトラウマとなっており、肉親に対する執着がハンパない。ぶっちゃけると粘着質の究極シスコン野郎にして死んだ親を取り戻すという妄念に狂ったファザコンにしてマザコン。いわゆる能力万能主義の持ち主であり自らが収集した能力を用いて神殺しを企んだ上で、その後に新世界の神となる事を目指す。その前段階として「能力者狩り」を慣行した上で香奈子を「死者蘇生」に目覚めさせ「新世界の創造の女神」にしようとしていた。しかし、それは最初から世界の法則に合致していない破綻した願いであり、その事を星弓家と香奈子につきつけられた上、軋人に奪っていた異能を全て生命力変換されて奪い取られ、さらに他ならぬその軋人にイロイロと無様ながらも「お義兄さん、妹さんを俺にください!」(意訳)をぐうの音も出ぬほど完膚なきまでにキメられた結果、イロイロと奪われてしまって一時的な精神崩壊を起こし(のちに精神だけは立ち直ったが)彼の企みは潰えた。