クェス・パラヤ
くぇすぱらや
「大佐!あたし、ララァの身代わりなんですか!?」
人物像
地球連邦政府の参謀次官アデナウアー・パラヤの娘。
髪型は左右で長さの異なるツインテール。
ニュータイプの資質を持ち、劇中では敵味方の陣営を転々とする。地球生まれの地球育ちだが、誰もがニュータイプになれれば人は分かり合えるという考えを持ち、かつては家出をしてインドでニュータイプになるための修行をしていた経験を持つ。
極めて感受性が強く、他人の心情を敏感に読み取ったり、鋭い直感力を持つ一方で、情緒不安定で感情の起伏が激しく、自分勝手な行動をとってしまったり、思ったことを包み隠さず口にしてしまったりするような面もある。
ハサウェイ・ノア、ギュネイ・ガスの2人から好意を寄せられるものの、愛のない家庭で育ったことで父性に飢える甘えたがりのファザコン気質であったため、同年代の少年との恋愛には興味を持たず、代わりにアムロ・レイやシャア・アズナブルに年上男性らしい包容力を求めていた。
反面、人間の弱さや醜悪さを極端なまでに嫌い、大人に「大人らしい分別と正しさ」を一方的かつ過剰に求める潔癖なところを持つ。母が父に愛想を尽かして自分を置いて家を出奔したこと、さらに父の愛人・キャサリンが父の前では淑やかに振る舞いながら、陰では自分を邪険に扱っていたこともあって、大人の女性の持つ二面性を酷く嫌悪しており、アムロやシャアのパートナーであるチェーン・アギやナナイ・ミゲルには嫉妬混じりの激しい嫌悪感を向けていた。
劇中では
第二次ネオ・ジオン抗争の始まった頃に父と共に宇宙へと上がり、相席したハサウェイと知り合うが、この際に自分たちの搭乗するシャトルが、落下中の5thルナとニアミスすることを予知している。
宇宙ではロンド・ベルに身を寄せて、ニュータイプであるアムロやMSの操縦について興味を持つが、次第に自分が周囲から冷遇されていると感じるようになり、チェーンとアムロの関係を察した際には彼女と衝突し、自分はアムロの傍にはいられないと感じるようになる。その後、サイド1のコロニー・ロンデニオンでシャアと出会い、アムロとシャアが格闘するのを目撃したクェスは、シャアの味方をして彼を助け、彼の誘いに応じてネオ・ジオン側へと身を寄せた。
クェスはシャアが掲げる思想や自分と同じような孤独感に共感し、同時に彼に対する独占欲を抱く。
しかし、シャアは次第にクェスのことを持て余していき、優しく振る舞いつつも(にこやかなクェスに対してシャアは険しい表情の場合が少なからずあったが)、彼女を戦争の道具として扱うだけであった。
これはシャアがクェスに「ララァの代用品」(=理想的な「母性ある年下の少女」)となることを期待していたのに対し、彼女自身はまだ精神の幼く不安定な「ただの13歳の子ども」でしかなく、逆にシャアに父性を求める彼女を無意識に疎ましく感じるようになったためであった。クェスの自称する「子ども嫌い」は、自分自身もまたそんな無力で幼く口ばかりの子どもでしかないことに対する、苛立ちと自己嫌悪の裏返しでもあった。
また、思ったことをストレートに言ってしまう性格が災いし、シャアを振り向かせるために「自分がララァに成り替わる」と人前で無神経に明言してしまったことが、不幸にもシャアのトラウマを穿り返す結果となり、人として嫌われてしまったことも原因の一つと思われる。
このことはクェスに恋心を寄せるギュネイの反発を招くが、クェス自身は、自分がシャアからそのように扱われていることには気がつかなかった。
さらにギュネイの方も、結局はクェスを自分のキャリアに箔を付けるための「付き合う価値のある才能豊かなニュータイプ」としてしか見ておらず、人間としての彼女個人の内面にきちんと目を向けることはなかった。
それどころか、クェスの憧れるシャアの悪評を彼女の前で吹聴したり、訊いてもないのに自分の優秀さを過剰にアピールしたりと、一方的に自分の感情を押し付けるばかりの最悪の口説き方だったために、クェスはギュネイについては「煩わしい」という感情しか持たなかった。
ニュータイプ研究所で訓練を受けたクェスはファンネルを使いこなすなど、非凡な才能を見せ、ヤクト・ドーガやα・アジールの性能を発揮していく。だが、初陣となるルナツーでは、自らが攻撃した巡洋艦のブリッジに父がいたことに気付かないまま父親を手にかけることになり、それを期に感情のバランスを失っていく。
「地球がなくなれば、人は誰もがニュータイプとなって分かり合える」というシャアの思想を信じ、連邦軍を相手に戦い続けるが、最終的には戦場で彼女を慕うハサウェイと再会し、彼の身を挺した説得を受けるもそれを拒み、彼女の存在を危険と感じたチェーンの攻撃を受けてα・アジールもろとも撃墜され、戦死した。
クェスが死の間際にとった行動は、チェーンからの攻撃にハサウェイを巻き込むまいと遠ざけ、彼を助けようとするものであった。
クェスが求め続けていた父親を得られなかったことは、映画の終盤における、アムロとシャアの最期の会話でも触れられることになる。
アムロはクェスが何を求めているかを理解した上で、自分には荷が重いと彼女の父親代わりを避けていたのに対して、シャアはそもそもそれを理解できておらず、アムロから指摘されて初めて自分の所業を自覚する有様であった。
クェスが描いたもの
クェスにとって悲劇だったのは、自分を受け入れ、正しく指導してくれる善い大人に巡り合うことができなかったことだろう。
ニュータイプとして破格の才能を持ちながらも、彼女の鋭く過敏すぎる感性は精神的な拠り所の無い険悪な家庭環境の中ではむしろ災いとなり、不安定で反発的な精神性を育ててしまった。
そして宇宙に上がった後も、ストレスを受け流す術も他者との望ましいコミュニケーションも学べなかった彼女は、「他者に共感はできるのに(視聴者も含めた)他者からは共感してもらえない」という、あまりにも絶望的な孤独に追い込まれて破滅していった。
「大人達に手を差し伸べて貰えなかった子ども(若者)が、思い違いと行き違いの連鎖の末に悲惨な末路を遂げる」という、クェスとハサウェイの一連の悲劇は『逆シャア』における主要なストーリーラインの一つとなっており、「ニュータイプになったとしても人間が幸福になれるとは限らない」という本作のテーマの一つを象徴するものでもあった。
その意味において、クェスの生きづらさと孤独の正体をかなり正確に見抜きながら、助けの手を差し伸べようとしなかったアムロもまた「善い大人」とは言えなかった(ただ、アムロにしてみればクェスは「古い戦友の息子の友だち」というほぼ他人も同然だったので、そこの線引きは難しいところ)。
同時にシャアがクェスを成長させることなく死なせてしまったことは、シャアがクワトロ・バジーナであった頃に、彼女と同じような不安定な精神と無軌道な嗜虐性を持っていたカミーユ・ビダンを、紆余曲折あれど「究極のニュータイプ」として人間的に成長させたような「他者をより善く導く力」を既に喪ってしまっていたことを浮き彫りにしてもいる。
そして、クェスを失ったハサウェイもまた、アムロ、シャア、カミーユに引き続き、その人生を大きく狂わされてしまう事になる。
なお富野由悠季監督によれば、クェスのキャラクターイメージは監督から見た「現代の若者」とのこと。
クェス・エア
初期設定ではクェスは「クェス・エア」という名前であった。本編劇中でもネオ・ジオンにおいて彼女が地球連邦政府高官の娘であることを隠すために、この名を偽名として用いる場面がある。
因みに彼女の搭乗機のプラモデルにも「クェス・パラヤ専用機」「クェス・エア専用機」両方の記載が混在する。
パラレル展開
小説版
小説『逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』ではその末路は変わらないものの、チェーンではなくハサウェイによって誤って殺されてしまう展開となっている。これが続編でもある原作小説版『閃光のハサウェイ』でのハサウェイの深刻なトラウマとなっている。
なお、2021年に公開された映画版『閃ハサ』は映画版『逆シャア』の続編として展開している。
GUNDAM EVOLVE 5
後に富野監督自身が自らストーリーを書き下ろして手がけたフルCGショートフィルム『GUNDAM EVOLVE 5』では、アムロとの交戦の末、彼に諭されて改心して和解を果たし、直前に自らが撃墜してしまったハサウェイを救出するというif展開が描かれた。
非常に救いのある結末だが、これはアムロがクェスに向き合っていれば、彼女は死なずに済み、ハサウェイがマフティー騒乱に身を投じることもなかったことを逆説的に証明している。
メディアミックス作品関連
スーパーロボット大戦シリーズ
原作では味方内の時は非戦闘員で、パイロットとしては敵側であるネオ・ジオン側のみであったが、スパロボでは味方になるケースも少なくない。古くからスパロボ補正の恩恵を受けてきたキャラクターの1人と言える。
とりあえず、原作より性格はやや穏やかになっている。
なお、ハサウェイとの絡みについてはハサウェイ自身がスパロボに出てこない事もあり、あまり描かれない傾向にある。
また、ハマーン・カーンが味方にいると一方的に突っかかってくる事もある(Dのアンソロジーコミックではさらにナナイも加えて修羅場とするネタも見られた)。
Another Century's Episodeシリーズ
ACEとACE3に登場。シナリオでは敵としてヤクト・ドーガやα・アジールに乗って登場するが、ACE3では条件クリアでヤクト・ドーガに乗った彼女をプレイヤーキャラにすることも出来る。
ギュネイ、さらにシャアとも特殊コンビネーション攻撃が発生するが、OVERMANキングゲイナーのシンシア・レーン、交響詩篇エウレカセブンのアネモネとも発生させることもでき、三人とも好戦的な性格の少女であることから「キチガイトリオ」と云われることも。