概要
信長の妹・市を母とした浅井三姉妹で、徳川二代将軍・秀忠の正室であり三代将軍家光の生母となる「江」を主人公に、女性視点からホームドラマやラブストーリー要素をふんだんに盛り込んだ戦国時代~江戸時代初期を舞台にしたオリジナルドラマ。
登場人物
江(上野樹里)
初(常高院)(水川あさみ)
問題点
これまでの映像作品ではお座なりにされがちだった「女性視点での戦国時代」を描こうとした点では2002年の大河ドラマ『利家とまつ』等と並ぶ意欲作といえる。
ただし、ストーリー内容や演出が奇抜を極めたことにより多数の視聴者が困惑する事態となった。
まず、当時の実際の年齢と役者の年齢の齟齬があまりにも酷い。(江:6歳・上野:25歳)。
歴史的事実を無視した特徴的な脚本に「ホームドラマ時代劇」や「わざわざ大河枠でやる内容ではない」と揶揄されるありさまであり、このキャスティングの問題も放送終了まで批判の的となってしまった。実際に作品を見た人なら分かるだろうが、幼児になりきる上野の演技のシュールさときたらない。
のみならず、指摘を受けても脚本の方向性を改めもしなかったことも批判された。
他にも、「江が家康と一緒に伊賀越えする」、「謀反を興した明智光秀に説教する」、「近江と江戸の移動がおかしかしい」、「大阪の陣での秀忠の言動が史実と大いに異なる」など、骨太がウリなはずの大河ドラマにあるまじき謎要素を歴史的事件に無理やり絡めたことや史実を無視(※)した内容などが多く指摘された。
※史実と異なる展開は評価の高い大河でもよくあることだが、それらの大河の多くは歴史の雰囲気を壊さずに描いているため悪く言われていない。むしろ、史実と創作の差分の妙技こそが大河ドラマの真骨頂と言える。しかし、この大河はやり過ぎというレベルである。
まとめると、ライト向けともファンシー的とも形容し難い内容が祟ってあらゆる意味で大河ドラマらしくないと方々で評価されてしまったのである。
作品の歴史考証に参加した学者はスタッフから押し切られる形で通された演出で作られたと述べ、学者仲間からも非難を受け、作品と史実との違いには自らも苦言を呈した。
「スイーツ大河」「ファンタジー大河」「のだめカンタービレにしか見えない」だという批判も多く、評価も視聴率も低い結果に終わる。
その酷さは評価の低い作品の多い21世紀大河においても最低・最悪と言っても過言ではない。『週刊新潮』2011年12月29日号で「第1回新潮ラズベリー賞」(アメリカの最低映画賞「ゴールデンラズベリー賞」にちなんだ、2011年の日本の最低ドラマを選ぶ企画)において、本作は最低ドラマ賞に選ばれ、主演の上野も最低主演女優賞に選ばれてしまった。
これに加えて、同作の脚本をつとめた田渕久美子が、以前にも脚本をつとめた大河ドラマ『篤姫』(2008年)では歴史考証を尊重し且つ比較的に重厚なストーリーで好評を得ていたにも関わらず、前述のように今作では一転して思いっきりぶっ飛んだ内容でゴリ押していた事実も酷評に拍車をかけた。
田渕自身は「この時期に自分の夫と死別してしまいメンタル的に万全でなかった」(要約)と釈明している。
良くも悪くも同作の評価が大混乱を極めたことにより、これを前後してネット上を中心に「これからの大河ドラマって何を目指すべきか」とか「今年の大河の総合的なクオリティは大丈夫か否か」といった議論がユーザー間でも頻繁に取り交わされるようになり、以降の大河制作にも大きな影を落とす結果となった。
ただし男性陣の描き方とそれを演じる俳優の評価が高く、特に豊川悦司演じる織田信長に至っては「歴代トップクラス」と称され、北村有起哉演じる豊臣秀次に至っては真田丸の三谷幸喜がそれをお手本としたほど。
余談だが、2000年の大河ドラマ「葵徳川三代」において、江を演じた岩下志麻も、ドラマ開始時(1599年〉の江の年齢と実年齢がかなりずれていたことも付記しておく(江:26歳、岩下:当時59歳〉・・とはいえ、徳川家康役の津川雅彦、徳川秀忠役の西田敏行、石田三成役の江守徹をはじめ、配役の主要メンバーはベテランがかなり多かったのも事実であり、「江」ほど史実から外れなかったのも事実だが‥。