セル画
せるが
概要
薄く透明な板状のプラスチック板にキャラクター等が描かれたもの。通称「セル」(これは過去にはこの板にセルロイドが用いられたためである。強燃性物質であるため、比較的早期にアセテート樹脂へと置き換えられている)。30分のアニメでさえ数千枚のセルが必要な事もあった。
なお、セルが使用されていた頃のアニメは、フィルム撮影だったという事もあり、完成後には大抵、全ての場面が僅かながらにぶれている(いわゆる、「画面ブレ」である)。これは、デジタル画に変更された後も、一部のアニメ映画(例:『ONEPIECE(2001~2008)』の映画(第1作はセル製作のため例外)や『ドラえもん のび太とふしぎ風使い(2003)』、『ポケットモンスター アドバンスジェネレーション(2003~2005)』の劇場版や「ジブリ」のほとんどの作品など)においても、その頃の名残として存在する。
ただし、2005年12月公開のアニメ映画『あらしのよるに』では、2004年に、セルを使用して制作するという話があったというが、その証である画面のブレを確認出来ないどころか、セルらしさも全く感じられない。
システム
かつて一般的なアニメは紙に手描きされた「背景などの動かなくてよいもの」とセルに描かれた「キャラクターなどの動かす必要があるもの」によって構成されていた。
セルは複数枚重ねることが可能(もっともあまり重ねすぎると問題が生じるが)である。
キャラクターなどの動くものをスムーズに動かすためには、フィルムのコマ数と同じく一秒あたり24枚(デジタル作品だと1秒間に30枚)が必要となる(ただし、1秒当たり8枚でもある程度は動かすことは可能)。そのため作業の簡素化と多人数での分担作業時の整合性を高めるためにグラデーションやエアブラシを使わず色をきっちりと塗り分ける独特な技法として進化した。
作業の歴史
当初は動画用紙に鉛筆で描かれた原画から、特殊なインクと付けペンで線画をトレースするところからの作業であった。後に動画用紙から直接セルに転写する技術が登場した。
とは言え、数百枚から数千枚ものセルを人力で彩色するのは大変な労力を要した。そのためセルの使いまわし(バンク)や動きの省略、セルではなく撮影のカメラを動かすなどの「セルを省略する手法」が発達した。一例を挙げると魔法少女ものなどによくある変身シーンなどはセルを新規に起こす作業を節約するためのものであった。
注意していると分かるのだが、大きくパースやカメラアングルが変化するシーンにおいては単色や単純な繰り返しパターンで背景が描かれていることが多い。このようなシーンにおいては、背景を数枚で済ませることが困難であり、かといってすべてのコマで正確なパースの背景用のセルを描き起こすのは莫大な労力が発生するからである。
セルアニメの場合、他のアニメーションでは不可能、あるいは難しいとされるいくつもの特殊な技法が開発された。一例を挙げるとセルにカッターで浅い傷を何本も刻み雨の表現としたり、意図的に折り目をつけて撮影光を反射させ逆光を現すという表現も可能である。また、現在では「どのようにそれを行ったのか」がまったくわかっていない技術も存在するといわれる。
もちろん、セルを用いずに絵のアニメーションを作成することも可能であったが(クレイアニメや切り絵アニメのようなコマ撮り、影絵、パラパラ漫画の応用、スキャニメイト等)、セルを用いるよりはるかに手間がかかるため、あまり行われなかった。
また、制約の条件として絵具の都合によるものがある。色彩単位の使用頻度には大きくばらつきがあるため、データにすぎない現在の作画と異なり、どうしても物理的に大量に余る絵具が発生してしまう。そのため、長期シリーズや予算の限られるエロアニメでは、在庫処分的に使用頻度の低い絵具を使用する事例も多々見られた。
ちなみにセルの彩色に用いられる塗料は一般的な有機溶剤ではなくアルコール系溶剤の物が使われる。これは屋内密室での作業で中毒のリスクを減らすためである。
撮影後
撮影後のセルは会社により異なる。セル画が保管されることは非常に重量と体積があり場所をとるため(場所の関係上)まれであり、関係者などに配布したり、一定期間保管の後そのまま処分されたりする。このようなセル画はまれに市場に流れることがあり、有名アニメ、かつ人気キャラクターおよび有名シーンのセル(たとえばディズニーの初期作品)は高値で取引されることもあった。
そして現在
しかし、この手法はコンピュータの進化に伴いCG(コンピュータグラフィックス)によるアニメーションに置き換えられるようになり、現在では趣味用や芸術表現、設備の制限でCGが使えない環境の場合など、一部の利用者に使われるのみとなっている。特にアメリカ合衆国をはじめとした海外では従来のアニメ表現は衰退してしまい、3DCGのアニメが主流となっている。
日本国内でも、2013年に最後までセル画にこだわっていた『サザエさん』がフルCGに移行したことで「セル画」は商業的にその役目を終えた。
ただし、セル画が過去のものになった現在もなお、日本国内ではセル画時代の表現手法を継承したアニメ塗りのアニメが主流となっている。また、アニメ塗りから脱却して水彩画調の塗り(これはアナログでは上述の「パラパラ漫画」の手法になってしまうため非常に手間がかかる)を採用した『かぐや姫の物語』などのCGアニメもあるが、これも主流ではない。
ロボットアニメを中心にセル画の画風を好むファンも根強く存在するが、この場合90年代中盤ぐらいまでの厚塗り+フィルム劣化を経た画風を指すことが多い。2000年代の末期セルアニメになると、初期デジタルアニメとあまり区別がつかないものがほとんどである。