前夜
1930年代。日本は世界恐慌の煽りを受け大不況に陥り、政財界の癒着、社会の貧富の差が問題視されていた。
満州では関東軍が満州事変を引き起こして満州国を建国し、日本は国連から脱退。国際社会から孤立・決別していた。
軍内部では統制経済による国家改造を計画する軍首脳幹部達の「統制派」と、特権階級を廃して天皇親政の実現を目指す青年将校達の「皇道派」に分かれ対立していた。
皇道派の筆頭・真崎甚三郎の更迭を受け、相沢三郎中佐が永田鉄山軍務局長を斬殺。海軍将校達が犬養毅首相を襲撃し暗殺する五・一五事件が発生。政治に対する軍人達のテロが相次ぎ、不穏な空気が流れた。
思想家・北一輝の影響を受けた安藤輝三、野中四郎、香田清貞、栗原安秀、中橋基明、丹生誠忠、磯部浅一、村中孝次など陸軍青年将校達は「昭和維新・尊皇討奸」を掲げて決起を決断。
彼らは天皇を取り巻く君側の奸を打倒し、腐敗した財界を解体し、天皇の下に権力が一元化された国家への改造を目的とした。
発生・経過
1936年（昭和11年）2月26日午前未明。雪が降る中、青年将校達は兵士約1480名を率い、武器弾薬を奪って蹶起。
岡田啓介内閣総理大臣、高橋是清蔵相、鈴木貫太郎侍従長など内閣の大臣や長官達を襲撃し殺害。辛くも逃れた者もいた。さらに警視庁や朝日新聞社も襲撃し、永田町・霞ヶ関・赤坂など政治中枢部を占拠した。しかし、宮城（皇居）の占拠は失敗し、通信網を押さえなかった。
事件発生を受け軍部は騒然とし、一方で軍内部では皇道派も統制派もこの期に乗じて国家改造をしようとする動きもあり、臨時内閣が発足して決起を一時的に認める陸軍大臣告知が出され、都内に戒厳令が敷かれ、石原莞爾が戒厳参謀に就いた。
しかし、将校達も軍首脳も思わぬ誤算を受ける。将校達が一番に信じていた昭和天皇が事件発生時から彼らを「反乱軍」と見なし、早期の鎮圧を望んでいた。普段は温厚な天皇は、事態に困惑し鎮圧を躊躇する軍幹部達に激しい憤りを見せ、自ら近衛師団を率いて鎮圧するとまで言い出し、激昂する天皇に軍部は鎮圧に動き出した。
さらに、死亡していたと思われていた岡田首相の生存が判明。将校達は岡田と似ていた義弟の松尾伝蔵を岡田と見間違えて殺害し、押入れに逃れていた岡田本人は27日に救出された。
部隊の撤退を命ずる奉勅が下り、鎮圧部隊の戦車が、東京湾には日本海軍の艦隊が集結。29日には飛行機からのビラやアドバルーン、ラジオ放送で武装解除を勧告した。
ついに反乱部隊は兵士達を帰還させ、将校達は自決を図るも失敗し、北一輝とともに逮捕された。
その後
事件首班の将校達約17名と、北一輝を始めとする民間人を死刑に処した。
皇道派は統制派によって軍部中枢から排除され、「軍部大臣現役武官制」を復活。政治における軍部の影響力を強め、政党政治の終焉、軍部台頭の時代を強めることとなり、統制派陸軍主導の軍部体制で、その後の日中戦争や太平洋戦争の大東亜戦争へ続くこととなる。
