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番狂わせ甲府の編集履歴

2023-10-12 22:41:08 バージョン

番狂わせ甲府

しじょうさいだいのげこくじょう

番狂わせ甲府とは、2022年の天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会(天皇杯)で優勝したヴァンフォーレ甲府のことである。

これは武田信玄をもってしても成し得なかった全国制覇を消滅しかけた甲斐のチームが達成した奇跡の物語である。


概要

ヴァンフォーレ甲府は、Jリーグに加入後すぐの2000年代初頭に存続危機に陥り、何とか回復しても資金力が低く、親会社の大手スポンサーもなく大型補強に頼れないために地域のスモールクラブとして歩んでいた。


大物選手を連れてくることもできないために新人選手の発掘に力を入れており、その中には当時無名だった伊東純也佐々木翔など、後にステップアップし日本代表になる選手も存在していた。


そんなこんなで2005年以降は昇格と降格を繰り返していたが、2017年にJ2に降格。以降はJ2の沼にはまってしまい、昇格争いにも組み込めないシーズンが続いた。


迎えた2022シーズン

そんな中で始まった2022シーズン、開幕戦のファジアーノ岡山戦で1-4とフルボッコにされ、4月に一度は立て直すも5月に再び低迷し、さらに6月にはチームキャプテンが週刊誌をお騒がせすることをやってしまい退団するなどチーム状況は最悪ともいえる状況になってしまった。


そんな中リーグ戦に並行して5月から第102回天皇杯が開幕。J1、J2のチームはシードして2回戦から参加することとなっており、甲府も例外なく参加。初戦の環太平洋大学に5-1と大勝するもサポーターは天皇杯捨ててでもリーグ戦の惨状をどうにかしろという状況であった。













しかし、この年に待っていたのは、誰も予想することのできなかった史上最大の奇跡であるということをこの時誰も知る由はなかった。


天皇杯での相次ぐJ1勢の撃破

6月に入り3回戦の相手はJ1の北海道コンサドーレ札幌。2019年ルヴァンカップにてPK戦までもつれ込んだ死闘で準優勝相手にオウンゴールで相手に先制を与えるもその後逆転し、さらにPKを与えるもGKがセーブしそのまま勝利した。但しこの時は他所でも、前年度王者の浦和レッズなどを含むJ1勢がJ2勢に負けた試合が多かったため、ヴァンフォーレがコンサドーレに勝った試合は特に注目されることはなかった。


次の相手はJ1に10年以上定着しているサガン鳥栖。サガンは2012年にJ1に昇格するとそのまま定着し、近年でも、2020シーズンのJ1リーグを圧倒した川崎フロンターレに唯一黒星を喫しなかったりと、地味ながらも確実な力を持っている。この試合でもヴァンフォーレは終始有利に試合を進め、3-1と勝利しこれまでのチーム最高成績に並ぶベスト8に進出した。


7月に行われた準々決勝の相手は、「5年に1度、1年だけJ1に在籍する」というジンクスを破り、初の2シーズン連続J1在籍などステップアップの始まっていたアビスパ福岡。試合は1-1のまま延長に入り、延長前半で貴重な勝ち越し点を得たヴァンフォーレがそのまま逃げ切り2-1で勝利。クラブ初の準決勝進出を成し遂げた。


対照的なリーグ戦

しかし、準決勝まで3ヶ月以上空くことになり、天皇杯ベスト4に入った勢いをJ2リーグ戦で保つことができず、現実は残酷な状況に陥ってしまう。8月のFC琉球戦の勝利を最後にまったく勝てなくなり、9戦未勝利かつ6連敗を喫してしまい、ついには残留争いまでに陥ってしまった。


準決勝

そんな状況で10月5日の準決勝の相手は天皇杯だけでも過去5回優勝、AFCチャンピオンズリーグ優勝や開催国枠で出場したFIFAクラブワールドカップ決勝でレアル・マドリード相手に得点し延長まで死闘を繰り広げ準優勝、下部リーグ降格経験もなく主要タイトル数20を誇る鹿島アントラーズである。当時のアントラーズは2016年を最後に国内タイトルから遠ざかっているとはいえ、J1で5位につけており、今のヴァンフォーレの状況から「ドラゴンクエストⅢで例えるならレベル15で(適正レベル35の)バラモスを相手にするようなもの」と評されるほど実力差があるとされた。

 実際、試合はアントラーズが主導権を握り、終始圧倒していたが前半37分、ヴァンフォーレは自陣でのビルドアップでアントラーズのプレッシングを誘い込み、甲府DF浦上が最終ラインの背後へのロングパスに反応したFW宮崎がアントラーズのDFを振り切ってフリーでゴール前に抜け出すと、最後はGKをかわしてゴールに流し込み先制。その後はJクラブ最多タイトルを誇りながらもここ6年無冠状態が続いておりタイトルに飢えていたアントラーズの猛攻を一方的に浴びることとなり、防戦一方となり攻撃のチャンスをほぼ失ったが、組織的な守備でこの1点を守り切り試合終了。なんと下馬評を覆し決勝へ進出したのである。

(猛攻を仕掛けた側が内容で圧倒しながらも決定機を逃し続けると逆に耐えていた相手側に一瞬の隙をつかれて失点、そのまま焦って猛攻を仕掛けても得点を奪えず敗戦するというのはサッカーではよくあることである)。

一方のアントラーズは、J2に負ける屈辱を喫しクラブ史上最長記録更新となる6年連続の無冠が確定し、ゴール裏のブーイングや選手監督との口論などで荒れるに荒れた。岩政大樹監督は「クラブ史に残る大失態だと思っています。」と発言し、これに対して、「甲府に失礼」などの批判の声が上がり、「過去の栄光に縋りすぎた結果」、「6年無冠というけど、むしろこれまでが凄かっただけで無冠なのは珍しいことではない」という意見も飛んだ。


決勝戦

迎えた10月16日の決勝戦、横浜の日産スタジアムに迎えた相手はJ1リーグ3度優勝を誇るサンフレッチェ広島。当時のサンフレッチェはJ1の3位につけており、これまたサンフレッチェの勝利を予想した人が大半であったが、ヴァンフォーレも天皇杯での好調を受けて、当時J2リーグで7連敗を喫していたがモチベーションが高かった。実際に、サンフレッチェサポーターの中には「非常に厄介、勢いなら甲府の方がある」という声も存在した。


前半にヴァンフォーレ攻撃陣がサンフレッチェのディフェンスを破り、最後は三平和司が押し込んで先制。しかしサンフレッチェも後半残り8分に川村拓夢が強烈なシュートを叩き込み同点に追いつく。そのまま延長に入りその後半、途中から入ったヴァンフォーレ在籍20年目の生きる伝説こと山本英臣が自陣ゴール前でハンドをとられPKを献上。いよいよここまでかと思われたがここでGK河田晃兵が「長年このクラブを支えている山本英臣という選手がいるのですが、このまま終わらせるわけにはいかない、カップを掲げてほしいと思いました。」と後に語ったように好判断でセーブし(PKの成功率は80%以上)、サンフレッチェは得点ならず。その後は両者ゴールを決められず、勝敗の行方はPK戦に委ねられることとなった。


史上最大のジャイアントキリング、ここに見参

そしてこのPK戦でも、両チーム3人ずつが決めると、後半終了間際に同点ゴールを決め、4人目のキッカーを務めた川村拓夢が河田にシュートを止められたのに対し甲府は4人全員が決め、広島の5人目が成功させるも甲府5人目が決めれば優勝という状況になる。キッカーはハンドを取られた山本英臣。多くの人が現地やテレビで見守る中、山本の蹴ったボールはゴール左側に吸い込まれ、試合終了。


ヴァンフォーレ甲府が伝説になった瞬間であった。


この優勝で賞金1億5000万円、2023年のAFCチャンピオンズリーグ出場権、決勝2週間後にずれ込んだ信玄公まつりで武田騎馬軍団と一緒にパレード催行など少し前には想像すらつかなかったご褒美を手に入れた。


余談

2部リーグに所属するチームの優勝は、過去にも2011年度のFC東京、1982年度のヤマハ発動機、1981年度の日本鋼管といった例がある。しかしこの3チームはいずれも既に翌シーズンの昇格を決めた状態での決勝戦であったために「事実上の1部」というべき状態であったのに対し、甲府の場合はJ2で7連敗中で22チーム中18位とまさにリーグ戦の惨憺たる状況が嘘のような快進撃であった。さらに、FC東京の相手は当時J2であった京都サンガF.C.であり、J2同士での決勝であったため、今回のように決勝戦で下剋上が起こったのは初めてである。


今回のヴァンフォーレ甲府の天皇杯制覇は甲府サポーターや山梨県民だけでなく、全国の他クラブサポーターやサッカーファンにも大変驚かせ、衝撃と感動を与えた。同時に、J2のクラブを格下だと舐めてはいけないと改めて痛感させることにもなった。

当然ながら山梨県は歓喜に沸き、各地で優勝セールが行われたほか、JR甲府駅では号外を待つ人で行列ができるほどのものとなった。


甲府の快進撃は、スポンサーや大型補強にも頼れず弱小と呼ばれる市民クラブであっても、かなり険しく、確率も低いとはいえ日本一になることも不可能ではないということを証明し、多くの人に希望と勇気を与えることとなった。


この試合を解説の中村憲剛と共に現地で観ていた森保一日本代表監督は、「サッカーに絶対はありえない。カテゴリーが上のチームが勝つわけではないと、甲府が示してくれた。FIFAランクで言えば上のチームと当たる。W杯に向けて、絶対はないと改めて自信になった。」と語り刺激を受けたことを語った。

それが影響したのが、翌月のFIFAワールドカップカタール大会では、森保監督率いる日本代表は過去に優勝経験があり日本の敗戦間違いなしと言われたドイツスペインに勝利し、世界に衝撃を与えた。間接的であるとはいえ、ヴァンフォーレは世界に与えた衝撃の源になったといえる。ちなみに、スペインとの試合ではヴァンフォーレでプロデビューした伊東純也が起死回生の同点弾の起点となり、勝利に貢献している。


ちなみに、数字的に見れば、今回のヴァンフォーレの天皇杯優勝は、日本がワールドカップで優勝すること以上の下克上である


経営難で存続危機に陥った弱小クラブを地元の小さなスポンサーが支え、昇格と降格を繰り返し、近年では魔境と呼ばわるJ2に苦しみ、J1参入プレーオフ圏にすら入れない状況が続きながらもカップ戦を勝ち抜き、トップリーグのチームを撃破して日本一に輝く」というのはまさに漫画さながらで、これが他クラブサポーターの感動を呼ぶ元となった。「漫画で作ってる最中だったら間違いなく「出来過ぎ」と却下されるレベル」との声も存在する。


また、この決勝戦では甲府のゴール裏で自前の大旗を必死に振っているおじいちゃんが大きく映し出され、注目を浴びる事になった。このおじいちゃんは20年来のヴァンフォーレ甲府サポーターであるが、奥さんが病気になったため一時サポーター活動をやめていた。しかし奥さんの体調が快方に向かい、さらに応援するチームが一世一代の大舞台に立つことから復帰し、横浜まで駆け付け、振ることが難しいとされる大旗を振りながら応援している。このおじいちゃんは優勝決定後に涙し、このシーンを再びカメラに撮られたことで国内外でもちょっとした話題を呼び、後にテレビに出るほどにまでなったほか、本人の息子が感謝の意思をツイッターに投稿している(現在アカウントは削除済み)。これもまた、他クラブサポーターにも感動を及ぼす一因となった。


一方、サンフレッチェはというと翌週開催のルヴァンカップ決勝に進出が決定しており、セレッソ大阪相手に先制され苦しみながらも後半アディショナルタイム6分にPKを獲得し、これを成功させて同点に追いつくと、11分にはコーナーキックから2点目を決めて劇的逆転、クラブ史上初のカップ戦優勝を成し遂げた。


結果的にこの年、サンフレッチェはJ1で3位だったのに対し、ヴァンフォーレはJ2で18位。同年10月6日に発表された最新の世界ランクを見ると、サッカー男子日本代表は24位。甲府はJ2の18位(10月17日現在)で、J1の18チームを加えれば上から数えて36位である。つまり、数字的に見れば、ヴァンフォーレの優勝は、日本代表がワールドカップで優勝することよりも低い確率であったのだ。その上、準決勝で敗れた近年不調のアントラーズに至っては上記の通り5回の優勝経験どころか開催国枠という特別措置を考慮すべきとはいえ世界2位まで行ったこともあることから、そんなチームを破っての優勝がいかにすごいことがわかるだろう。


これらのこともあって、今回のヴァンフォーレ甲府の優勝は日本のサッカーでも史上最大の下剋上との呼び声も高い。


また、今回の天皇杯が開催された前年の2021年は武田信玄の生誕500周年、翌年2023年には信玄没450年の節目であり、奇しくもその間の年に信玄の旗指物に記されたとされている風林火山をモットーとした甲斐の国のクラブが日本の頂点に立ち、歴史の1ページが刻まれた。

信玄公の果たせなかった日本一は、形は違えどそれから450年の時を経て実現したのあった。


関連項目

ヴァンフォーレ甲府


今回の快進撃で撃破されたクラブ

北海道コンサドーレ札幌

サガン鳥栖

アビスパ福岡

鹿島アントラーズ

サンフレッチェ広島


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番狂わせ甲府

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