概要
ジークフリート(Siegfried)は、ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の主人公。
北欧神話の『古エッダ』、『ヴォルスンガ・サガ』に登場するシグルド(シグルズ)と同一起源の人物だが、性格や素行には異なる点がある。
例えばシグルドは王の血こそ引いているが両親を早くに亡くしており、レギンという鍛冶屋を親代わりとして育ったが、そのレギンがシグルドを散々利用した挙句、価値が無くなったら殺してしまおうとする毒親の類であり、その本心を途中で見抜いたシグルドは親代わりのレギンを殺害している。後述の誠実な性格からは乖離した人物像と言えよう。
さらに言えば、ニーベルンゲンの歌の元ネタとなっている民間伝承では、ジークフリートは高貴な血こそ引いているが森の中で育った孤児とされており、野生児的なキャラ付けがされていることもある。
『ニーベルンゲンの歌』の主人公は、いくつかあるジークフリートのバリエーションの1つに過ぎないことに注意が必要である。
例えば中世後期から初期近代にかけての英雄バラッドの一つである『不死身のザイフリート』は、若き日のジークフリートの冒険を語るものである。多くの細部において『ニーベルンゲンの歌』に関する古ノルド語文献や『シズレクのサガ』との一致が見られ、ドイツにも北欧と同様の内容が口承されていたことを示している。
『不死身のザイフリート』によると、ジークフリートはその粗野な振る舞いのために父王ジークムントの王宮から放逐され、森に住む鍛冶師に育てられた。ジークフリートのあまりの無軌道さを持て余した鍛冶師は、竜にジークフリートを殺してもらおうと画策する。しかし、ジークフリートは竜を殺すことができたばかりか、他の森の怪物どもをみな木材で足止めし、そのまま燃やし尽くしてしまった。角質のように硬いといわれる竜の皮膚が溶け出し、ジークフリートがそこに指を浸すと、皮膚が角質のように硬化した。そこで彼は全身を浸したが、一箇所だけ浸らない部分が残ってしまった。その後ジークフリートは、偶然にもヴォルムスのクリームヒルト姫を拐った別の竜の痕跡を見つける。ドワーフのオイゲルの助けを得て、巨人クペラーンを打ち倒したジークフリートは、クリームヒルトの囚われた山への鍵を得る。姫を救い竜を屠り、果たしてジークフリートは山の中でニーベルングの財宝を見つける。しかし、オイゲルは、ジークフリートはあと8年しか生きられないと予言する。財宝を使うことができないと知って、ジークフリートはヴォルムスへの道中、ライン川へ財宝を捨てる。ヴォルムスへ凱旋したジークフリートはクリームヒルトと結婚し、姫の兄弟グンテル、ハゲネ、ギーゼルヘルとともに共同統治を行うが、彼らの不興を買い、8年後殺されてしまう。
後にリヒャルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の主人公となるが、ワーグナーは当時の定説であった「北欧神話のシグルドが全てのジークフリート伝承の起源である」という説に影響を受けて、ジークフリートという名前だが生い立ちの3分の2ぐらいはシグルドという人物像を作り上げているので、混同しないように注意。
人物・経歴
基本的には誠実な人間であり、頼まれごとがあれば断らない人物。だがあまり細かいことは考えないのか、時々よくわからない行動をする。これはキリスト教的な騎士像とゲルマン的な勇士像が混在しているからだとか。
力はめっぽう強く、戦場では後にフン族の宮廷で無双するブルグントの勇士すら足元にも及ばなかった。
あんま興味ない人でも聞いたことはあるだろう、恋愛面ではヘタレだった。
王ジークムントと王妃ジークリントの息子でネーデルラントの王子とされる。ちなみに両親は生き別れの双子の兄妹である。
ノルウェーのニーベルンゲン族を倒してその呪われた財宝と魔法の隠れ蓑タルンカッペ、名剣バルムンクを奪う、竜を倒し不死身の体を手に入れるなど、多くの軍功を立てる。この竜退治の際、魔力のこもった竜血を浴びて全身が甲羅のように硬くなり、いかなる武器も受け付けない不死身の体となる。しかしこの時、背中に菩提樹の葉が一枚貼り付いていて血を浴びられず、この一点のみが彼の弱点となった。
成人後、それまでは冒険や戦で色恋沙汰には縁の無かったジークフリートは、ブルグント王グンターの妹クリームヒルトというそれはもう可愛らしい王女がいるという噂を聞いた、彼女への興味が燃え上がり、彼女こそ高きミンネ(当時の騎士の徳目であった奉仕愛)を捧げるべき相手だとして思いつめるようになった。
彼女に求婚すべくブルグントの国に渡りブルグント軍に加わって多くの手柄を立てる。
しかしここで問題が起きる。
クリームヒルトのあまりもの可愛さにタダでさえヘタレだったジークフリートの心はは完全に折れ「こんな可愛い子が俺を好きになるはずが無い!」と絶望してしまうのだった。
そして戦後処理が終わると、そのまま何もせずに国へ逃げ帰ろうとした。恋愛は最初の勢いが大事ということがよくわかる場面。
が、いざ帰る時に彼女の弟ギーゼルヘアが熱心に退きとめたので、ジークフリートはもう少しだけこの国に留まることにした、きっと心の底では胸をなでおろしていたんだろう。
これを認めたグンターは、さらにアイスランドの女王ブリュンヒルトと自分の結婚を手助けするように依頼する。その過程で、二人はブリュンヒルトに嘘をつき、ジークフリートはグンターの臣下であるということにする。ブリュンヒルトは、自分に求婚した男と力比べをし勝てば求婚を受け入れ負ければ殺していた。ジークフリートは魔法の隠れ蓑でグンターに手助けして勝利に導き、ブリュンヒルトはグンターとの結婚を承諾する。これらの功績をあげたジークフリートはようやくクリームヒルトと結婚、ネーデルラントに帰って王位に就く。
※この物語の中ではブリュンヒルトにジークフリートに対する恋愛感情はない。ジークフリートはご覧の通りクリームヒルトまっしぐらだし、ブリュンヒルトはというとジークフリートに対して「求婚してきても命取りになるだけよ。私ジークフリート怖いと思わないし(要するに自分より弱い)」と思っている。
ブリュンヒルトがジークフリートの伴侶とされがちなのは先述したワーグナーの作品の影響。北欧神話におけるシグルドとワルキューレのブリュンヒルドの恋物語を下敷きにして創作された。
10年後、ブルグントの王宮でグンター達と再会したジークフリートだが、ここでクリームヒルトとブリュンヒルトの仁義なきマウント合戦が勃発する。ブリュンヒルトはジークフリートは所詮グンターの臣下、クリームヒルトはその妻と見下していたし、クリームヒルトも内心は自分の夫の方が優れていると思っていたのだ。果たして、ヴォルムスの大聖堂にどちらが先に入るかを巡って二人の王妃は口論になる。ブリュンヒルトが公然とクリームヒルトを夫の臣下の妻に過ぎないといって辱めると、クリームヒルトは結婚の際にジークフリートが手助けしたことをバラしうまく騙された愚か者と罵る。
このことでブルグントの家臣の反感を買い、勇士ハーゲンは、ジークフリートの暗殺を計画する。彼は、クリームヒルトに「デンマークが再び攻めてきた」と嘘を言い、ジークフリートの弱点を聞き出す。こうしてハーゲンは投槍でジークフリートの背中を貫き、彼を暗殺する。
翌朝、ジークフリートの亡骸を見たクリームヒルトは、弱点の背中が貫かれている事からハーゲンが仇であると見抜き、夫の復讐を誓う。
ここまでがニーベルンゲンの歌の前半部分である。
ジークフリートをモチーフにしたもの
概要にある通り、ジークフリートという名前でも『ニーベルンゲンの歌』の彼がモチーフとは限らない(ワーグナーの作品もしくは他の伝承がモチーフの場合もある)ので注意。
- アニメ版『聖闘士星矢』の登場人物。→神闘士・アルファ星ドゥベのジークフリート
- ソウルエッジシリーズの登場人物。→ジークフリート・シュタウフェン
- 近藤和久の漫画に登場する、『ZZガンダム』のアレンジデザイン版。(正確にはそのうちのひとつに与えられた固有名)。
- 『Fate/Apocrypha』において黒の陣営に召喚されたセイバー。→ジークフリート(Fate)
- ソーシャルゲーム『パズル&ドラゴンズ』に登場するモンスター→ジークフリート(パズドラ)
- ソーシャルゲーム『グランブルーファンタジー』に登場するキャラクター→ジークフリート(グラブル)
- ソーシャルゲーム『モンスターストライク』に登場するキャラクター→ジークフリート(モンスト)
- 3DSゲーム『ファイアーエムブレムif』に登場する剣
- アニメ「サークレット・プリンセス」に出てきたAIの名前
- アニメ『コードギアス反逆のルルーシュ』に登場するメカ。→ジークフリート(コードギアス)
- 『女神転生』シリーズに登場する悪魔。→ジークフリード(女神転生)
関連タグ
ラインの黄金 タルンカッペ バルムンク:ジークフリートの武装
シグルド:北欧神話や『ヴォルスンガ・サガ』に登場する英雄で起源が同じなためしばし同一視される
マガタノオロチ:「地中に潜伏して成長いた際、御神木の地下にあった箇所の成長が不十分で弱点になっている」というジークフリートを彷彿とさせる設定がある。
超神バイコーン:ジークフリート同様に鉄壁の守りを誇るも、ごく僅かな守りの綻びが契機となり敗死した者同士。