概要
借用書が有価証券化されたもの。
国や地方自治体、企業が資金調達のために発行する「公社債」がよく知られるが、一定の流通量さえ見込めればローンのようなありふれた債権であっても、売買するために債券化できる。
通常イメージされる債券は「利付債」と呼ばれ、定期的に利息(クーポン)が支払われ、償還期限が来たら元本が返ってくるという形式で返済が行われる。
一方で定期的な利払いは無い代わりに償還元本より安い値段で購入でき、償還まで持ちきれれば利付債よりも利益が大きくなる「割引債(ゼロクーポン債)」もある。
償還までの期間は様々で、数ヶ月から100年、さらには無期限のものまで存在する。長期になるほど借り手のリスクが高まるため、発行時の利率も高く設定される。また発行時の政策金利によっても利率は大きく上下する。
既発の債券は株式同様に投資・投機の対象となり、市場で売買される。
株式に比べると身近ではないためピンとこない人も多いかもしれないが、実は世界的な債券の市場規模は株式よりも巨大である(2020年末時点で、債券市場は123兆ドル、株式市場は105兆ドル)。
既発債の金利(利回り)は市場原理によって決まり、様々な要因によって日々変動する。
株式のように青天井に利益が伸びるわけではないため一攫千金を狙うのは簡単ではないが、発行体が破綻しない限りは償還まで持ち切れば(額面上は)必ず利益を得ることが可能で、毎年得られる利益もほぼ一定で計算しやすいため、資金力豊かで安定志向の富裕層を中心に購入される。
ただし株式に比べると種類や特性が多岐に渡り、中には株式や仮想通貨よりも危険な特性を持つものもあるため、アマチュア投資家が甘言に誘われて安易に飛びつくと大火傷してしまう恐れがある。
債券には発行体の信用に応じた格付けが設定されており、AAAからDまで存在する。このうちBBBから上は「投資適格」、BBから下は「投資不適格」とされ、後者は特に発行体のデフォルト(破綻)リスクが高くなるとされる。
一般に格付けの高い債券は利率が低めに、格付けの低い債券は利率が高めに設定されて発行される(リスク・プレミアム)。格付けの高い債券は「安全資産」として扱われ、株式が急激に暴落するような局面では挙って買われて値上がりする場合もある。
ちなみにこの格付けが高いから安心というわけでも無く、AAの高格付けでも破綻したことがある。それがサブプライムローンが債券化されたものに対する、米国の金融機関の格付けが間違っていたために世界中を阿鼻叫喚地獄に陥れることとなった、あの悪名高い「リーマンショック」である。
公債
中央政府が発行する「国債」、地方政府が発行する「地方債」(都道府県債・市町村債など)、地方政府が設立した公社による「地方公社債」、特別な法令に基づく「特別債」がある。
中でも国債はただの借用証書では無く、国が経済を測ったりコントロールしたりするためにも用いられるため、その性質はかなり複雑怪奇である。
詳細は「国債」の記事を参照されたい。
社債
私企業が発行する債券。「民間債」ともいう。
社債は公債に比べて商品性のバリエーションに富んでおり、トリッキーなものが多い。
一般的な債券と同じ性質の「普通社債」以外の社債は、株式と債券の両方の性質を持っていることから「ハイブリッド債」と呼ばれる。ハイブリッド債で利益を狙える人はかなりの投資上級者である。
社債の最も一般的な区分は「シニア債(優先債)」「ジュニア債(劣後債)」など、万が一の破綻の際の弁済優先順位によるのものであり、順位が下になるほど利率が高くなる。そして劣後債はハイブリッド債に含まれる。
劣後債は一定の規制の下に自己資本に組み入れることが可能(例えばROE=自己資本利益率を高く見せて投資を受けやすくするなど)という特性もあり、これを狙って発行されることも多い。
また劣後債の中でも「永久劣後債」は最も利率が高い反面、償還期限が存在しない。発行体にとっては償還しないままにしておくと利払いが嵩んだり、信用に関わる問題にも繋がるので現実には早期に償還されることが多いが、万が一のことがあって償還がスキップされ続けると市場価値が下落してしまい、手放したくても手放せなくなるリスクもある。
他のハイブリッド債として、自己資本比率が一定水準を下回った場合に元本が削減されるか株式に転換される「CoCo債(偶発転換社債)」、ある期間内で新発の株式を一定の金額で購入できる権利の付いた「ワラント債(新株予約権付社債)」がある。これらは業績がよろしくない企業が発行するケースが多く、そのリスク分だけ高い利率で発行される。
特にCoCo債は企業の判断で無価値化されてしまうこともあるため、利率の高さだけで飛びつくのは危険である。有名なところでは2021年クレディ・スイスの破綻で、同社の発行する利率10%の「AT1債」(CoCo債に近い性質の債券)が無価値化されてしまったが、一方で同社の株式は他社に買収されて価値を保った。これに「債券より株式の方が守られるのはいかがなものか?」という批判が、損失を出して悔しがっている者たちを中心にされたが、これはバーゼル規制※に基づいて発行・無価値化されており、何の問題も無いと一蹴された。
一般に「債券は株より安心」というイメージがあるが、このように債券の種類によっては危険度が逆転してしまう場合がある。
※スイスのバーゼル銀行監視委員会が、リーマンショックの反省から金融機関の社債について自己資本率を基準に定めた国際的なルールのこと。BIS規制とも。
市場での既発社債の値動きは国債同様に政策金利の影響を強く受けるが、それ以外については株式と相関することが多く、景気が良ければ上がり、悪ければ下がることが多い。
仕組債
デリバティブ(オプション取引やスワップなど)を組み込んだ特殊な債券。大別すると金利系・為替系・株式系・クレジット系の4種類があるが、それぞれが全く異なる仕組みを持つ。
しかし非常に複雑な商品性を持っているくせに、なぜかハイリスク・ローリターンという点はいずれも共通しており、強いて言えば未だに残る金融業界の闇を身をもって体験できる点くらいしかメリット(?)が無い、恐ろしい金融商品である。
売る側ですら商品性を理解しておらず顧客への説明が怪しい上、買う側も高い利回りに誘われて「まぁ債券だし安全なんだろ!」とよく理解もせず買ってしまい、結果大損失が発生してしょっちゅう訴訟沙汰に発展している。この状況に金融庁すら公に警告を発しており、欧米に至っては個人向けの発行自体が禁止されているほどの代物である。
ここでは最もポピュラーな株式系の「EB債(他社株転換社債)」と「リンク債(株価指数連動債)」を例として簡潔に説明する。
この仕組債の保有期間中は年10%前後(税引き前)という高い利率の利払いが受け取れ、保有のコストも一切掛からない。しかしEB債の場合は個別の株式、リンク債の場合は株価指数の値動きをそれぞれ参照しており、もし参照先の値が予め定められた価格(ノックアウト価格)まで上昇して判定日を迎えると強制的に早期償還されてしまう。この時のキャピタル・ゲイン(価格差益)は一切無く、ただ利払いを受け取る機会を逃すのみである。なので再度購入する必要があるが、購入時手数料は元本の5~6%とバカのように高い。つまりノックアウトが続けば、それだけ金融機関側ががっぽがっぽ儲かる仕組みとなっているのである。
逆に下の方の一定価格(ノックイン価格)で判定日を通過し、償還時点まで一定水準を下回っている場合は単純に元本損失が発生してしまう。さらにEB債の場合、ノックインで償還された場合は現金に加えてご丁寧に債券の発行体とは関係の無い企業の株式で償還される(←???)。これを現金化するにも売却手数料が発生し、その時の値動き次第ではさらなる損失が発生する(万が一値動きで得をする場合もあるかもしれないが、だったら最初から株を買っとけという話である)。
「ノックアウトもノックインもされなきゃいいんじゃね?」と思われるかもしれないが、金融庁の調査によると1年償還のEB債は平均0.6年程度で早期償還されてしまっているそうである。その結果年平均コストは8~10%にも及ぶとされている。つまり高確率で10%の金利に対して8%のコストを支払い、差し引き2%の利益しか残らない(利払いに掛かる20.315%の税金まで含めると最悪の場合コスト負けする)。しかもノックインによる元本毀損リスクを抱えたまま、である。
この説明で仕組債のヤバさを理解できないほど投資知識の無い人は当然買ってはいけないし、理解できた人は禁止されずとも買いたいなどとはつゆ思わないだろう。
とりあえず仕組債にだけは手を出してはいけない。
サムライ債
外国の発行体が、円建てで日本で発行する外国債券(外債)は「サムライ債」と呼ばれる。
同様に非居住者が発行するもので、米ドル建てのものは「ヤンキー債」、英国ポンドは「ブルドック債」、豪ドルは「カンガルー債」、中国元は「パンダ債」、韓国ウォンは「アリラン債」といった、国のイメージキャラに合わせたコミカルなニックネームが付けられている。
この手の外債はその地域の居住者からすれば両替手数料や為替差損を気にせず購入できる気軽さがメリットだが、発行体の外貨調達能力(償還時の為替の値動きと資産状況の掛け算)によってはデフォルトのリスクが高くなるので注意が必要である。
その他
新NISAでは個別の債券(「生債券」)は対象外となっており、どうしても非課税で購入したい場合は投資信託しか選択肢はない。
注意事項
本記事は債券の説明を目的に作成されたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。
またその正確性、完全性に対する責任は負いません。
関連項目
債権…混同しやすいので注意。債「権」を有価証券化したものが債「券」である。