概要
「全天サーベイ観測」により宇宙の赤外線地図を作成し、1983年に打ち上げられたIRASにより作成された宇宙の赤外線地図をより高い精度で更新することを目標として打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星である。
打ち上げ後に太陽センサが太陽を検出しない障害が発生し、望遠鏡の蓋を解放できない問題が発生したが太陽電池パネルの発電量を元に太陽の位置を検出する運用に切り替えることで無事に観測を開始した。この経緯については後述の「公式の薄い本」で解説されている。
2006年の打ち上げから目標寿命を超えて5年以上にわたる観測を行い、約130万天体に及ぶ「赤外線天体カタログ」の作成をはじめ、宇宙最初の星の光を捉えるなど多くの成果を上げて2011年11月24日に運用を停止した。
観測装置の冷却と観測寿命について
赤外線観測装置は非常に微弱な赤外線を検出するため、探査機本体の熱による影響を排除するために極低温の冷却を保つ必要がある。そのため観測時には望遠鏡を5.8K(摂氏-267.4度)にまで冷却する。このために冷却剤として液体ヘリウム(170リットル搭載) を使用するが、蒸発により消費されるため冷却が保てる期間には限りがある。そのため観測寿命は約1年となっている。
なお、ヘリウムの消費量を抑えるため、機械式冷却装置も搭載されている。近赤外線カメラについてはヘリウム枯渇後も機械式冷却装置のみで運用可能なため、衛星全体の設計寿命は約3年となっている。実際には2011年に至るまで5年以上観測を実施した。
公式キャラクター「あかりちゃん」
日本の衛星・宇宙機では近年公式キャラクターが設定されることが多く、近年では「イカロス君」や「あかつきくん」、「みちびきさん」等がよく知られているが、「あかり」にも公式キャラクター「あかりちゃん」が設定された。JAXA公式キャラクターはいわゆる「ゆるキャラ」風のデザインが多いのだが、「あかりちゃん」は他宇宙機とは異なり、二次創作においてよく行われるようないわゆる「擬人化キャラ」としてデザインされている。
宇宙科学研究所一般公開時に配布された冊子にも登場し、一部では「公式の薄い本」と呼ばれた。現在この冊子は以下のリンクよりPDF形式で配布されている。
なお、「あかり」という名前でなおかつ髪の赤い少女として描かれているが、こちらの「あかり」は赤外線天文学の世界で「赤外線天体カタログ」の作成を初めとした目立つ活躍をしており、存在感のある娘である。
運用履歴
- 2006/02/22 6:28 M-Vロケット8号機により打ち上げられる。
- 2006/04/13 望遠鏡の蓋を外し試験観測を開始。
- 2006/05/08 本観測を開始。
- 2007/08/26 冷却用の液体ヘリウムを計画通り全て消費。赤外線及び中間赤外線での観測を終了する。
- 2008/06/01 冷凍機冷却により近赤外線観測を開始。
- 2010/03/30 約130万天体に及ぶ「赤外線天体カタログ」を公開開始。
- 2011/05/25 蓄電池の劣化による電力異常の発生が報告される。(PDF)
- 2011/06/17 科学観測を終了した。
- 2011/11/24 17:23 停波作業を実施し、運用を停止した。 停止に先立ち、軌道を近地点450km・遠地点700kmの楕円軌道に変更し軌道寿命を100年以上から25年以内に短縮した。今後も観測したデータのアーカイブ・解析が続けられる予定である。
後継機計画
次世代の赤外線天文衛星として、SPICA (Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics)計画が存在した。
口径3.5m(「あかり」は口径67cm)という大口径の望遠鏡を搭載すると共に、太陽-地球系のラグランジュ点(L2)に配置することにより太陽・地球からの熱の影響を少なくすることで観測寿命の制約原因となる消耗品の液体ヘリウムを使用せず機械式冷却装置のみで望遠鏡を4.5Kにまで冷却する。
2018年にH-IIA204型(「きく8号」打ち上げ時に使用されたSRB-A4本構成)を使用しての打ちあげを目指していたが、設計変更などに伴って2020年代半ばへ変更された。変更後はH3ロケットで打ち上げる予定だったが、ESAの予算超過に伴って一部機器の所掌変更が検討されることになったものの、ISAS側としても厳しく、実現可能性がないと判断、当計画は実質打ち切られた。