つくばい
つくばいは手水鉢(ちょうずばち)を中心にして、手前に前石(まえいし)・手燭石(てしょくいし)・湯桶石(ゆおけいし)・水門(すいもん)から構成される。この他に水を汲むための柄杓が置かれている。
手水鉢は水を入れる穴がくり抜かれている石で、御影石などを加工して作る場合が多いが、自然に穴が空いた沢石や石灯籠の笠などの石造物の転用も珍しく無い。デザインに特に決まりは無く何かをかたどることも多い。古銭の形を模して『吾只足るを知る』と彫られた知足のつくばい(オリジンは京都の龍安寺の茶室蔵六庵にある。徳川光圀の寄進とされるが定かでない)は特に有名なものであろう。
前石はつくばいを使うとき、使う人の足場になる石である。当然、手水鉢の前に据えられる。ここにしゃがんで手水鉢の水を使うのである。
手燭石は夜に茶会などを催す際に灯りとなる手燭(持ち歩きできるようになっているキャンドルスタンド)を置く石、湯桶石は冬に茶会をする時に冷たい水では来客が辛いので暖かい湯で手を洗えるように、お湯を入れた桶を置く石である。どちらを右にするか左にするかは茶道の流派によって違う。手燭石と湯桶石は利用目的上、上端が平らでなければならない。
水門は海(うみ)とも言う。手を洗う時の水が流れ落ちる、手水鉢のまわりの砂利や小石が敷き詰められている部分である。この下に水琴窟が仕掛けられている場合もある。
茶道においては主人が手水鉢にわざと大きな音を立てて水を注ぐ。この音は茶会の準備が整ったことを客に知らせるサインなのである。
縁先手水鉢(えんさきちょうずばち)
縁先手水鉢は飾り鉢前(かざりはちまえ)とも言う。現在では日本庭園用のしつらえとなっているが、元をただせば今のような水道が無かった時代の手洗いなのでとうぜん露地に限定したものではなかった。普段使いに便利なように使用者が立って使うことを前提に造られるものであり、縁側に接して設置される。
縁先手水鉢は手水鉢・蟄石(かがみいし)・水汲み石(みずくみいし)・清浄石(せいじょういし)・水揚げ石(みずあげいし)・水門(すいもん)から構成される。
手水鉢はつくばいの手水鉢と役割は同じだが、高さが必要とされるので縦に長い形のものが利用される。あるいは台になる石を据え、その上に手水鉢を乗せる。
蟄石は軒下に使った水がかからないように防ぐ石で、その目的から薄く平らな石が使われる。またこの石は他の石とは異質な石を用いるのが規則になっている。
水汲み石は昔、高貴な人が手水鉢を使う際に従者がこの石の上に立つための石。従者はこの石の上に立って柄杓で水を汲んで貴人の手に注いだのである。上に人が立てないといけないので上端は平らで、園路に接している。
清浄石は水汲み石とのバランスを取るために反対側に配される石で、修景目的の石である。
水揚げ石は手水鉢を掃除したり、水を注いだりするなど手入れをするために乗る石で、手水鉢の後ろにある。水汲み石同様、上に人が立てないといけないので上端は平らで園路に接している。
現在ではすっかり廃れているのだが、江戸時代にはこれら手水鉢の水を溜める部分に砂やホコリ・落ち葉などのゴミが落ちないように、ふたをしたり手水鉢をおおう屋根を取り付けたりすることもあった。水道が無い時代では手洗いの実用のものだったために、こうしたことが配慮されたのである。
鉢請木・鉢囲木
これらの手水鉢の側には鉢請木(はちうけのき)と、それとバランスを取るための鉢囲木(はちがこいのき)いう樹木や下草を植える。鉢請木・鉢囲木にはナンテン・ヒサカキ・アオキ・サツキ・クマササ・ハラン・トクサ・セキショウなどが用いられる。
水琴窟
水琴窟(すいきんくつ)はつくばいや縁先手水鉢を使った際に水門に流した水が地中に伏せた甕の中に滴り落ちることで音を反射させて、きれいな音が鳴るようにした仕掛けである。日常に少しでも楽しみを増やすための粋な装置と言えよう。