我が民たちが、嘆いている……。尊き血を奪われ、渇きに苦しんでいる! その渇き――貴様が流す絶望の血で潤してくれるぞッ、下郎ッ!!
概要
ゲーム「魔法使いと黒猫のウィズ」に登場するキャラクター。
CV:村瀬歩
初登場は2014年6月15日より開催されたウィズセレクション。当時は限定精霊としての扱いであったが、現在は手に入りやすい精霊の一人となっている。
魔界に属する魔族(吸血鬼)の少年。ドラク領の領主であり、温厚な性格で知られる。通り名は「紅き黄昏」。魔族は長命であり、クルスの年齢は604歳を超えていると推定される(後述)。
争いの絶えない魔界において、力ではなく商業でドラク領を守ろうとしている。商才があり、彼の開発したドラク銘菓「ダークサンブラッド」は、大ブームを巻き起こした。
イベントストーリー「聖サタニック女学院」においては、女学院の理事長として登場。ハードモードでは彼の過去が語られた。
高校生クイズとのコラボイベント「真夏のグレート・クイズ・ウォー(GQW)」では、クルスをモチーフとした少年今久留主奇譚(イマクルス・キタン)が登場。また、「聖サタニック女学院」の生徒たちをバックにしたクルスの限定カードがクリスタルガチャに登場した。
プロフィール
初登場時
数多の魔族が互いに争い合う、群雄割拠の魔界において――
その一画を治める吸血鬼の少年クルスは、ひどく温厚な性格で知られていた。
争いを嫌う彼は、自領の商業の活発化に尽力した。
商業を通じて他の領主に便宜を図ることで、侵略を受けぬよう心を砕いたのだ。
領民たちはクルスを讃え、彼のために自らの血を捧げさえした。
だが――ある日、街は戦火に包まれた。
暴虐きわまる吸血鬼たちの群れ、その襲撃によって――
クルスは、茫然と街並みを見つめた。
自分を慕い、頼ってくれた民たちが、見るも無残な姿をさらしていた。
クルスの両目から、血の涙があふれる。
そして――その涙は、突如、紅蓮の炎と化して猛り狂った!
その双眸は、凄まじい憤怒に灼々と輝いている――
「我が民たちが嘆いている……尊き血を奪われ、渇きに苦しんでいる!
その渇き――貴様が流す絶望の血で潤してくれるぞッ、下郎ッ!!」
温厚なる心の奥に秘められていた、魔族ゆえの暴虐と残忍の魂。
それが今、灼然としてあらわになっていた――
以上が、初登場時ストーリーの要約である。その後の戦い、その後のクルスがどうなったのかは、初登場から約2年の時を経て明かされた。その内容は、「かつての戦いの結末(ネタバレ注意)」の項目に記載する。
時詠みのエターナル・クロノスⅡ外伝 エイミー・キャロル編
魔族であるメイドのエイミー・キャロルが、604年前の思い出話をするストーリー。クルス本人は登場しない。
当時のエイミーは、魔界の名門であるアルトーパークで働いていた。失敗ばかりのエイミーを慰めるために、同僚のルイミー・アルトーが自分の失敗を語る。
「この前なんて、ドラク家のお坊ちゃんに豚の血ぶっかけちゃったんだから。」
現時点でも作品内に登場するドラク姓の人物はクルスのみであるため、ルイミーが豚の血をぶっかけたというお坊ちゃんはクルスの可能性が高い。なお、ルイミーは自分の失敗を大げさに言っているだけとの補足があるため、豚の血をぶっかけたというのが真実かどうかは不明である。
またルイミーは、聖サタニック女学院に関する発言もしている。のちにクルスが理事長に就任する、聖サタニック女学院の存在が作品内で初めて語られたのは、この場面である。
なお、エイミーは謹賀新年2016 ユッカ&アリス編にてドラク領銘菓<ダークサンブラッド>を手作りしており、「生まれ故郷に近いところの銘菓」と説明している。エイミーがいつエターナル・クロノスの世界に迷い込んだのかは不明だが、少なくとも<ダークサンブラッド>が銘菓であるという認識が広まっている時代に、魔界にまだいたと判断できる。
謹賀新年2016 クィントゥス&レノックス編
離れて育ち、よそよそしくなっていたクィントゥス・ジルヴァとレノックス・ジルヴァの兄妹が、絆を取り戻すストーリー。クルスは友人であるクィントゥスとその妹の仲を取り持つ役どころを演じた。
兄が世話になっていると聞いて挨拶にやって来たレノックスに対してクルスは、
「恩があるのはこちらさ。以前、我が領が粗暴な吸血鬼たちに襲われた際、彼が助けてくれてね。(中略) 我が城には自由に出入りしてもらっている。」
とクィントゥスと親しくなったきっかけを語っている。
その後、レノックスとの兄妹の絆を取り戻したクィントゥスに対して、その場に同席していたクルスは
(君がその純粋さを以って魔帝となるなら、僕は臣としてかしずくことさえやぶさかではない)
とまで考えており、絶大な信頼を寄せていることが窺える。
銘菓<ダークサンブラッド>や、クルスお約束のセリフ「おめめ怖い」が初めて登場したのも、謹賀新年2016イベントである。
聖サタニック女学院イベント
理事長です
邪神ルルベルが設立した、魔族の女の子が通う由緒正しい学校「聖サタニック女学院(通称:サタ女)」を舞台とした、コメディ色の強いストーリーイベント。手違いで召喚された黒猫の魔法使いと、同時期に復活したルルベル(ただし子供の姿)が中心に、ストーリーが展開される。
クルスは女学院の理事長として登場。銘菓<ダークサンブラッド>によって得た利益で、聖サタニック女学院の理事長の座を買収した「悪魔的経営者」とされる。
ノーマルモードおよびイージーモードでは、「学級飼育の生き物」として黒猫の魔法使いとルルベルを保護しようとする下級生(新入生と思われる)と、女学院の秩序を守ろうとする、生徒会長のアリーサ・ベルゴン率いる生徒会が対立。理事長であるクルスは、最上級生のカナメ・バルバロッサやイーディス・キルティとともに下級生を援護した。
戦いの決着が付いた後、クルスはアリーサに
「この聖サタニック女学院のモットーは仲間を大事にする。生徒会長。君に欠けているのはそれだけだ。それは、すぐに学べることだよ。」
と諭している(女学院のモットーというのは、その場の思いつきであるが)。
イベントでは学校の日常も描かれている。クルスは昼休みにドラク領の新名物<フェニックスブラッド>を先行販売しており、黒猫の魔法使いからも「すごく美味しい」と評価され、全魔界展開の道も見えてきたと悦に入っていた。
幕間では、料理番組さながらに<フェニックスブラッド>の作り方を語るクルスも見られる。<フェニックスブラッド>の詳細は「ドラク銘菓・名物」の項を参照。
聖サタニック女学院イベントのハードモードについては、「聖サタニック女学院・ハードモード(ネタバレ注意)」および「かつての戦いの結末(ネタバレ注意)」の項に記載する。
大魔道杯 in 聖サタニック女学院
聖サタニック女学院名物イベント「週末アポカリプス」に黒猫の魔法使いが参加したという設定。ルルベル、クルス、カナメの3チームに分かれての戦いで、クルスは理事長でありながら1チームの代表となった。
魔道杯ではチーム順位画面で精霊をタップするとコメントが聞けるようになっている。クルスはどの順位でも、自チームの戦力にドラク領の名物を振る舞っていた(1位:<ダークサンブラッド>、2位:<フェニックスブラッド>、3位:<ヒートブラッド>)。
黒ウィズGP2016 王侯会議編
黒ウィズグランプリ2016で男性部門第2位に入賞した、アルドベリク・ゴドーが主役のストーリー。王侯会議が開催されるアルドベリクの居城に、魔界の面々が集まる。
クルスの忙しさをねぎらうアルドベリクに対し、クルスは
「ええ、こうして王侯会議に参加できるようになったのも、そのおかげですからね」
と返しており、彼の立ち位置が推察される。
なお、会議の参加者はみな手土産として、ドラク銘菓<ダークサンブラッド>を持参しており、アルドベリクを困惑させていた。
真夏のグレート・クイズ・ウォー(GQW)
こそまでだ! ……まちがえた。そこまでだ!
高校生クイズとのコラボイベント。略称はGQW (Great Quiz War)。
当イベントは、高校生のキャラクターたちがカードを持って異界の扉から精霊を召喚するという世界観になっており、クルスをモチーフとした少年今久留主奇譚(イマクルス・キタン)が登場。また、「聖サタニック女学院」の生徒たちをバックにしたクルスの限定カードがクリスタルガチャに登場した。
GQW版クルスのカードは、最終進化すると「聖サタニック女学院」名義になり、生徒のルルベル、ウリシラ・ファーレ、ミィア・ヤガダ、イーディス・キルティ、カナメ・バルバロッサが配されている。
GQW版クルスのカードを「サタ女」と呼ぶプレイヤーも多い。混同の恐れがあるので、本記事では聖サタニック女学院版を「聖サタニック女学院(雷斬撃)版」または「サタ女(雷斬撃)版」とし、真夏のグレート・クイズ・ウォー版を「GQW版」と表記する。
ストーリーにクルスの出番はなかった。当イベントの詳細は、真夏のグレート・クイズ・ウォーに記載する。詳しい登場人物紹介も、後日記載予定。
クルスの口調
クルスは話す相手によって、言葉を使い分けている。そのため、同一のイベントでも口調が変化しており、クルス本来の話し方を特定するのは難しい。
以下にその例を挙げる。
対 クィントゥス・ジルヴァ(友人)
「意外だな。君ほどの猛者にも、悩みなんてものがある、ってことがさ。」
対 レノックス・ジルヴァ(友人の妹)
「ところで茶菓子はいかがかな。兄君は、我が領の<ダークサンブラッド>がお気に入りでね。」
対 女学院の生徒たち
「そろそろ教室に戻りなさい。……理事長の命令だよ」
対 アルドベリク・ゴドー(目上)
「今回集まったのは、全員で6名です。意見が割れてしまうかもしれない。どうしましょうか?」
なお、クルスお約束のセリフ「おめめ怖い」についても、レノックスやアリーサは「くん」付けで呼んでいるのに対して、アルドベリクの恋人であるルシエラ・フオルには「さん」付けであり、ここでも使い分けがみられる。
余談
クルスの担当声優である村瀬歩は、同作品内で火口の遺跡アユ・タラ(エリア8)のギルドマスターであるティア・ソピアの声も担当している。別の異界の主要人物を同一の声優が演じる例は、(他作品とのコラボイベントを除き)ティアとクルスが初であった。ティアは一部の状況を除き、誰に対しても態度が変わらないキャラクターである。クルスが話す相手によって言葉を使い分けるのは、ティアとの違いを意識して設定されたという可能性がある。ただし、クルスのCVがついていない「謹賀新年2016 クィントゥス&レノックス編」においてすでに、クィントゥスとレノックスに対しての言葉遣いに違いがみられることに留意したい。
ドラク領銘菓・名物
現時点で登場しているドラク領銘菓・名物は、<ダークサンブラッド>、<フェニックスブラッド>、<ヒートブラッド>、<ドラクバーニング>の4つである。
<ダークサンブラッド>は、いわゆるおはぎである。詳細は専用の項目を参照。
<フェニックスブラッド>は、見た目は揚げたパン、食べるとスパイシーで爽やかな辛さが口の中に広がる食べ物である。クルスの研究により開発され、商品化された。
中身となる鳳凰の血の材料は、地獄タマネギと皆殺しニンジンのみじん切り、邪悪な獣の細切れ肉、血塗れトマト、魔獣のコンソメ、災厄ローリエ、そしてドラク家特製スパイス<紅き黄昏>である。鳳凰の血をダークネスパン生地で包み、フェニックス型に成型し揚げれば、<フェニックスブラッド>の完成となる。いわゆるカレーパンのことだと思われる。明言はされていないが、GQW版のクルスが<ダークサンブラッド>と反対の手に持っているのが、<フェニックスブラッド>ではないかと推測される。
銘菓<ヒートブラッド>については魔道杯におけるボイスのみの登場で、詳細は不明。
<ドラクバーニング>は、GQW版のボイスに登場。新名物であり、皆には「ドラク焼き」として親しまれていると紹介されている。
なお、ダークサンブラッド、フェニックスブラッド、ヒートブラッドは元々ドラク家の奥義であり、ウィズセレクション版クルスのスペシャルスキルにもその名称が使われている。ドラクバーニングは、サタ女(雷斬撃)版クルスのSS・SS+時のスペシャルスキルである。
また、スパイスの名称<紅き黄昏>はクルスの通り名でもあり、クルスは自分にまつわる名称を商品に名付けることにためらいがないようだ。
聖サタニック女学院などに関するネタバレは後述。 |
---|
ステータス
ウィズセレクション版
- 最終進化: L 紅き黄昏 クルス・ドラク
- 属性: 火
- 種族: 魔族
- アンサースキル: ドラクの紅火大鳳
雷属性の敵単体へ特効ダメージ
- スペシャルスキル: ダークサンブラッド
<蘇生>味方全体のHPを回復し、さらに火属性の味方を蘇生
聖サタニック女学院(雷斬撃)版
- 最終進化: L 深き血の黄昏 クルス・ドラク
- 属性: 雷
- 種族: 魔族
- アンサースキル: 黄昏のファンダメンタルズ
敵単体を8回連続攻撃、20チェインでさらにダメージアップ
- スペシャルスキル: イノセント・ドラクバーニング
<斬撃大魔術>8ターン溜めた後、スキル反射を無視し、雷属性の20連撃、さらに連撃数分チェインプラス
真夏のグレート・クイズ・ウォー(GQW)版
- 最終進化: L 出たとこ勝負! 聖サタニック女学院
- 属性: 火/闇
- 種族: 魔族
- アンサースキル: サタ女の教えを胸に!
10チェインでダメージアップ、解答が早いほどさらにアップ
- スペシャルスキル: サタ女名物「ダークネス大鍋」
(ノーマル)<ステータスアップ>味方全体のHPを2000ダウンし、攻撃力を2000アップ
(レジェンドモード)<特効大魔術>4ターン溜めた後、敵単体へ火属性のダメージ、さらに雷属性の敵には特効ダメージ
サタ女(雷斬撃)版クルスは、スペシャルスキルが非常に高火力なうえスキル反射無視やチェインプラスがついているので、ボス戦等で有効である。当時は不人気であったチャージスキルに意味を持たせたものとして、以後実装された火属性のミュール・カルクスや水/闇属性のアルドベリク・ゴドーも同様に「チャージ斬撃」などと称される。
GQW版は、戦闘開始直後に攻撃力を2000アップできるというのが最大の特徴で、それ以外は扱いにくい設定となっている。サタ女版のチャージ斬撃は徐々に評価を上げ大ブレイクしたが、GQW版は後で出てきたヴェレフキナ・アマンに扱いやすさで大きく引き離された。
バトルボイス
聖サタニック女学院(雷斬撃)版
カード拡大「理事長です」
自己紹介「我が名はクルス・ドラク。ドラク領を治める公爵にして、聖サタニック女学院の理事長だ。……何でかって? ふふふ、まあ、いろいろあってね」
戦闘開始1「力で退けるしかないか」
戦闘開始2「退(の)くがいい」
正解1「それでいい!」
正解2「見事だっ!」
正解3「やってみよう」
ダメージ「ぐっ!」
勝利1「血がたぎっていけない」
勝利2「これで手打ちとしよう」
レジェンド入り「ここまでだ! 下郎!」
SS1相当(SS・SS+時)「争いは嫌いだが、やむを得ない」
SS2相当(L時)「クドラクの炎で、焼き尽くしてくれる」
長期戦「金で買収できないだろうか」
クリア「争う以外の道を探さなければね」
戦闘不能「おのれっ!」
ゲームオーバー「見通しが甘かったらしい」
コンティニュー「その意思、しかと受け取った!」
助っ人登場「僕でよければ、力になろう」
真夏のグレート・クイズ・ウォー(GQW)版
カード拡大「ドラクバーニング!」
自己紹介「これが我がドラク領の新名物<ドラクバーニング>だ。皆には<ドラク焼き>と呼ばれ親しまれている」
戦闘開始1「こそまでだ! ……まちがえた。そこまでだ!」
戦闘開始2「君たち……おめめ怖い」
正解1「ドラクバーニング」
正解2「フェニックスブラッド」
正解3「ダークサンブラッド」
ダメージ1「ぐっ!」
ダメージ2「貴様ぁ」
ダメージ3「うううっ」
勝利1「教育がなってないなあ」
勝利2「ふっ……頭を使えば勝てるものさ」
レジェンド入り「付き合っていただこう」
SS1「手ぬるい。火を入れよう」
SS2「落第だ。消えるがいい」
長期戦「面白い。攻略しがいがあるというものだ」
クリア「いい経験になったよ、ありがとう」
戦闘不能「あっ……」
ゲームオーバー「情報戦なら……負けなしなんだけどね」
コンティニュー「僕も、負けたままでは威厳が保てないからね」
助っ人登場「この戦、僕が預かろう!」
クルスのバトルボイスは、サタ女(雷斬撃)版とGQW版では印象が異なる。サタ女(雷斬撃)版は実業家としての色合いが、GQW版は教育者としての色合いが濃く出ている。
かつての戦いの結末(ネタバレ注意)
以下、聖サタニック女学院のハードモードにおけるネタバレを含みます。
「クルスの想い」および「ドラクの血は熱く」は、聖サタニック女学院ハードモードの3つ目のクエスト「暴走級 謎の成績表」をクリアすると解放される幕間のストーリーである。執務室での場面と回想シーンで構成されており、回想シーンでは初登場時ストーリーにあった吸血鬼の襲撃の結末が語られる。本項では、回想シーンの内容を記載する。執務室での場面については、「聖サタニック女学院・ハードモード(ネタバレ注意)」の項目に記載する。
「我が民たちが嘆いている……尊き血を奪われ、渇きに苦しんでいる! その渇き――貴様が流す絶望の血で潤してくれるぞッ、下郎ッ!!」
クルスの炎は、吸血鬼の群れを次々と焼き払った。狂ったように笑う吸血鬼の長は、クルスに頭を握りつぶされた。
吸血鬼の長を倒したクルスは、周りが何も見えなくなっていた。荒れ狂う衝動がすべてを支配し、自分が何をつぶやいているのかすらわからなくなっていた。
突然、みぞおちに乱入者からの一撃を受けた。
「おう。このひでえありさまは、てめえが原因か? 強え奴がいるかと思ったらよ。まさか正気を失ったガキとはな」
クルスは炎を放った。男は避けようともしない。
「喧嘩か? 買ったァ! どこのどいつか知らねえが――このクィントゥスが相手になるぜ!」
クィントゥスとの戦いは三日三晩に及んで続いた。そして――戦いの果て、ついにクルスは、持てる力のすべてを使い果たし、膝をついた。
「僕は……何をしていた? 何が……どうなったんだ……?」
「ンだよ。やっと正気に返りやがったか」
クィントゥスは、焼け焦げた石畳に座り込み、くずれかかるクルスを支えて笑った。そして、クルスが自らの魔力に振り回されて暴走していたのだと指摘する。
「あんなものが……あんな衝動が……僕のなかにあったというのか……?」
「そりゃそうだろ。魔族なんだからよ」
あっけらかんとしたクィントゥスの姿を、クルスは茫然と見つめる。魔族が持つ暴虐の魂と破壊的な魔力――その恐ろしさを知ったクルスにとって、クィントゥスの姿勢は信じがたいものだった。
「しかし、まあ――街を焼いたの、おまえかと思ったけどよ。違うみてえだな」
クィントゥスが指差す先に、心配そうに様子をうかがうドラク領の民たちの姿があった。
「好かれてんな、おまえ。この魔界でよ。あんなに心配される奴なんざ、ざらにいねえよ」
クィントゥスの言葉を聞いて、クルスは溜め込んでいた涙をぼろぼろとこぼした。あらゆる思いが、ただ純粋で透明なしずくとなって、熱く両目からこぼれていた。
「ところで、おまえ――クルス・ドラクって知らねえ? なんかうめえ菓子作ってるって聞いて、来たんだけどよ。はは」
以上が、初登場時ストーリーの結末であり、「謹賀新年2016 クィントゥス&レノックス編」で語られたクルスがクィントゥスに恩義を感じている一件の真相である。
余談だが、幕間ストーリー「クルスの想い」および「ドラクの血は熱く」には、クルスにまつわる表現がちりばめられている。以下にその例を示す。
- 過去に犯した過ち――自らが背負った罪の十字架 → クルス(名前)
- その双眸は、凄まじい憤怒に灼々と輝いている → 赫火烔眼の吸血大公
- 闇のなかに咲く紅の太陽 → ダークサンブラッド
- 炎の翼で加速 → ドラクの紅火大鳳、クドラクの秘炎鳳
- 身体が熱い。血が燃える → ヒートブラッド、バーニングブラッド
- 陽が昇り、身が灰と散りながらも、ふたりは自己再生を繰り返し → フェニックスブラッド
また、ノーマルモード覇級には、黄昏時について
「伝え聞く民間伝承によると、昼と夜の境目にこそ不思議なことが起こるという」
といった記載があり、クルスの通り名「紅き黄昏」から来た表現だと思われる。
聖サタニック女学院・ハードモード(ネタバレ注意)
以下、聖サタニック女学院のハードモードにおけるネタバレを含みます。
概要
聖サタニック女学院のハードモードは、クルスとカナメ・バルバロッサ、イーディス・キルティが黒猫の魔法使いとともに、学園の闇を追うストーリーである。実質的な主人公はクルスであり、幕間に語られる外伝「クルスの想い」および「ドラクの血は熱く」では、クルスが聖サタニック女学院の理事長に就任した目的と、初登場時に語られた戦いの結末が明かされる。このうち、初登場の戦いの結末については、「かつての戦いの結末(ネタバレ注意)」に記載する。
なお、ハードモードはシリアスが先行するが、ベースはあくまでもコメディである。そのため、シリアスで語られた内容がどこまで真実であったのかが不明となっている。
クルスの目的
執務室に向かうクルスは、最上級生のイーディス・キルティからの報告書に視線を走らせていた。報告書には、聖サタニック女学院に通う子女たちの会話から得られた、魔界の各勢力の機密情報が書かれていた。
クルスが聖サタニック女学院の理事長の座を買収した真の目的は、この機密情報を得ることであった。かつて、商業の要衝であれば襲われないだろうという甘さが、ドラク領の何人もの民の命を失わせた。どこがどこと争おうとも、祖先から受け継いだドラク領、そして愛すべき民を守るため、手段を選ぶつもりはなかった。
そして、クルスが聖サタニック女学院の理事長に就任した理由は、もうひとつあった。女学院の生徒たちが、多くを学んで巣立つことで、魔界に変化をもたらすかもしれない。いつか、その変化を見られればいい。どれだけの時間がかかったとしてもーー
異世界に、今のクルスと同じように考えた学園長がいた。彼は、ドラク家に連なる吸血鬼一族の遠い親戚筋の子孫であった。その学園長とは、おそらくクロム・マグナ魔道学園のダンケル・アダムスのことであると思われるが、現時点では明言されていない。
本編ストーリー
邪神ルルベルは、魔界における伝説的存在とみなされている。憎み合う魔族たちの衝動が高まり、魔界の瘴気が淀んだ時、ルルベルが降臨するといわれている。
イザーク・セラフィムの統治により、魔界は比較的平穏だったが、つい最近、王族暗殺未遂事件により、ふたつの国がいがみ合うことになった。邪神ルルベルが復活したのは、争いの火種がすでにあるからだと、クルスと最上級生のカナメ・バルバロッサ、イーディス・キルティの3人は考えた。そして、その火種のもとが聖サタニック女学院にあるのだと。心当たりはあった。近ごろ、生徒の間で「PTA」と書かれた成績表がひそかにやり取りされているのだ。3人は、この「PTA」が限りなく黒に近いと踏んだ。
生徒たちが下校し、女学院に静寂が訪れた時刻に、3人は行動を起こした。黒猫の魔法使いを仲間に引き入れ、成績表を探した。成績表の裏には、ある場所が指定されていた。その場所に行くと、霧の魔人であり下級生の担当教諭であるパブロが、いつもと変わらない笑顔で待っていた。
「PTA」の黒幕であるかと尋ねると、パブロは悪びれずに生徒と自分と生徒の保護者だけの密かな企みであると白状した。だが、戦争を起こすことが目的なのかと問い詰めると、パブロは驚く。「PTA」の組織とは何のことか、「PTA」とは自分の名前「パブロ・トマ・アダン」のことなのだと。
成績表が生徒や保護者に好評であることを喜々として語るパブロをよそに、一行には気まずい空気が流れた。そして、芽生えたのは「まあ、いいか」という精神であった。
「パブロくん、これも仕事のうちだよ。」
ということで、一行はパブロと戦い勝利した。
かくして、女学院に暗躍する「PTA」は始末された。黒猫の魔法使いはフォローする。先生、また明日、と。それに応えて、パブロは霧となった(何度でも甦るよ)。
「どうやら今回は間違いだったが、次こそは。」
「ええ、戦争で失われる多くの笑顔のためにも、私たちが戦わないといけないですね。」
「今回は間違いだったけど。」
彼らの戦いはまだ続くようだ。願わくば、尊い犠牲はこれが最後であってほしい。
そもそも、魔界にそんな物騒な争いがあるのかどうかは、大いに疑問である。
その後、黒猫の魔法使いは「たぶん」「おそらく」「万が一」元の世界に帰れる魔法陣で、仕方なく魔界を旅立っていった。翌朝、黒猫の魔法使いが教室にいないことが確認され、物語は終幕を迎える。