「───── 80年は人間にとって相当長い時間らしい。」
人を殺す魔法
人を殺す魔法(ゾルトラーク)。
奴の開発した史上初の貫通魔法。
魔王軍の中でも屈指の魔法使いとされるクヴァールの開発した魔法で、人類の防御魔法はおろか装備の魔法耐性をも貫通し、人体を直接破壊する。
ある地方では冒険者の四割、魔法使いの七割がゾルトラークによって殺されたといわれており、ゾルトラークは「人を殺す魔法」と呼ばれていた。
しかし、あまりに強すぎたことと、人類でも理解し扱えるほど、洗練された術式構造であったことが災いした結果、勇者ヒンメル一行がクヴァールを封印して以来、大陸中の魔法使いがゾルトラークを攻略しようと積極的に研究し始めることに繋がる。魔族リュグナーによると特にフリーレンがその研究解析に大きく貢献したという。
フリーレンは解析を得意としており、七崩賢・不死なるベーゼの結界魔法を突破した過去もあった。
最終的にゾルトラーク解析の結果、「攻撃魔法に同調し威力を分散させる」という新しい防御術式による強力な防御魔法が開発され、装備による魔法耐性も格段に向上し、同時に、ゾルトラークの術式にも様々な改良が施されるようにもなった。
デンケンは「防御魔法と対をなすように改良に改良を重ねた、半世紀に及ぶ激動のゾルトラークの探究」と評している。
これらの研究により、ゾルトラークは「人を殺す魔法」ではなくなり、実際、クヴァールの放ったゾルトラークをフェルンはなんてことない「一般攻撃魔法」と認識した。
リュグナーも17話にて「魔族はゾルトラークなど半世紀以上前に克服している」と評している。
魔族は基本的に人類の扱う魔法は使用しないが、作中では人類の魔法を研究しているソリテールおよび彼女から教わったマハトも一般攻撃魔法としてゾルトラークを使用している。
なお当のクヴァールは、弱まっていた封印を解かれた直後にこの事実を知らされるが、動揺も反論もせず至極冷静に受け入れ、一瞬で現代の防御魔法を再現する天才ぶりを披露していた。
彼がもしその後も生き残っていれば、現代以上の更なる改良と発展を実現したであろう事は想像に難くない。
……また、皮肉なことにフリーレンらの解析で「一般攻撃魔法」と呼ばれるように人類の魔法の主流となった結果、ソリテールの話によれば南側諸国の戦争では最も人を殺した魔法と言われるほどまでになったとのこと。
他ならぬ南側諸国の戦争で両親を失った戦災孤児がフェルンである。
魔族を殺す魔法
あの魔法は魔族を殺すことに特化した改良が施されていた。
最早あれは“人を殺す魔法”と呼べる代物ではない。
“魔族を殺す魔法”だ。
「一般攻撃魔法」と呼ばれ防御魔法も確立したゾルトラークだが、その有効性は今もなお確かなものであり、解析に大きく貢献したフリーレンはこの魔法を更に改良。
フェルンはフリーレンの指導のもと、貫通力・射程距離・速射性をそれぞれ高めたゾルトラークを修行し習得。
デンケンもまた貫通性の高い圧縮ゾルトラークを習得している。
フェルンは改良版ゾルトラークのスピードと射程距離を生かし、飛行魔法で飛んで相手を視認した後魔族の魔力探知範囲外から一撃で仕留めるというスナイパーじみた戦法を扱えるようになった。
これにより魔力量では格上の魔族・大魔族相手にも不意をついて勝利している。
ただしゾルトラーク対策のために開発された防御魔法は、魔法耐性が優れていた反面物理耐性はそこそこだったことや使用における魔力消費が大きいため、対人戦を想定した現代の攻撃魔法は魔力消費が少なくて済む自然物を利用したものが主流となっている。
フェルンの戦い方は、本人の優れた才覚や魔族退治の専門家であるフリーレンに鍛えられたことも大きい。
余談
この魔法を一言で表すなら情報戦である。
現実世界でも第一次、第二次世界大戦において敵勢力の戦闘機などの兵器の解析、現代においてもプラグラム、技術、材質、設計などあらゆる解析が企業や国家で行われている。
故にクヴァールの自身の遅れた情報を冷静に見直し現代の情報を取り入れアップデートする精神を皆、評価するのだろう。