概要
「デュマレスト・サーガ」とは、SF作家エドウィン・チャールズ・タブによる、長編スペース・オペラのシリーズである。
1967年に1巻が発刊。以後、全33巻が刊行された。
日本では、東京創元社の創元推理文庫から、1982年7月に、文庫本の第1巻が刊行された。ただし、31巻と32巻の間にかなりのブランクがあるためか、32巻以降は未訳で日本では刊行されていない。
作風は、ハードボイルドタッチ。日本語版は「〇〇の惑星××」という邦題で統一されている。
あらすじ
人類が宇宙に進出して幾年月。
既に母なる星・地球の事は忘れ去られて久しくなっていた。地球(アース)という言葉は、ただの土を意味する単語になり、惑星テラ(地球)も、伝説として語り継がれている。それでも各惑星では人々が入植し、人々は生活していた。
そして、この失われた星・地球を求める男が居た。彼の名はアール・デュマレスト。
彼は10歳の時、地球の過酷な状況から逃れようと、偶然にも地球を訪れていた宇宙船に密航する。
子供であっても、密航者は宇宙に放逐されるのが宇宙船乗りの掟。しかしその船の老船長は、デュマレストを受け入れ、宇宙の旅を続ける事に。
やがて時は経ち、船長は他界。人体の代謝を遅らせたり、人工冬眠を繰り返したりして、なおも長い年月を旅して過ごし、銀河の中心へと向かって行った。
だが、彼は地球から離れすぎてしまった。大人になり望郷の念にかられたものの、地球は既に伝説の存在となり、誰もその位置を知らなかった。惑星上の座標も、当然その帰路も、手がかりや糸口すらも見つからない。
誰一人、地球を知らない中、それでもデュマレストは故郷へ戻らんと試みる。
大宇宙の中、彼の孤独な、果てしない旅が始まった。
登場人物
- アール・デュマレスト
主人公。地球を求めただ一人旅をする男。
非常にタフで、生存本能も高い。様々な修羅場をくぐってきたため、戦いや荒事には慣れている。愛用のナイフを常に所持している。
途中の惑星(カリーン)で、ソリスという女性から「精神共生体の遺伝子暗号の組み合わせ順序」を偶然に知ってしまう。そこから、「サイクラン」に追われる身になってしまう。
登場組織
- サイクラン
全宇宙にネットワークを有する巨大な組織。
頭脳集団で、全宇宙の支配を企んでいる。
各惑星の政財界に精通し、クライアントに雇われ、与えられた情報から状況を判断。適切な助言を与える事で報酬を得ている(政治や経済活動に対し、どう活動すれば思い通りの結果になるかを、パーセンテージで回答する)。
それゆえに、各惑星の統治者や権力者、富裕層は、サイクランなしでは立ちいかない状況になっている。
しかし、この方法では全宇宙支配に時間がかかり過ぎる為、精神共生体を用いようと試みる。が、研究所からその遺伝子組み合わせデータが盗まれ、デュマレストにそれが受け継がれてしまった。
ここから、デュマレストを確保するためにエージェント「サイバー」を宇宙各地に差し向けている。
- サイバー
サイクランのエージェント。紋章付きの真紅のローブを羽織り、頭髪は剃っている。思春期に脳下垂体を切除し、感情を捨てているために、人間の持つ愛や感情の類を持たない。自らの状況分析が正確だった場合にのみ、喜びを感じ、それのみが許されている。
最果ての惑星に存在する、脳ユニットの集合体である「中央知性体」とリンクが可能。
- 中央知性体
最果ての荒野の惑星の地下深く、堅牢な岩盤に囲まれたサイクラン本部に存在する。
脳ユニット集合体であり、各惑星に赴いたサイバーたちと、ホモコン素子による超時空間通信「サマチャジの相」でリンクが可能。
その脳ユニットは、元サイバー。認められたサイバーから選出され、摘出された後に組み込まれている(これはサイバーにとっても誇り)。いわば超巨大データベース兼サーバーのようなものだが、近年脳ユニットの一部が発狂する事件が多発。サイクランは原因究明を急いでいる。
なお、デュマレストが望む「惑星地球の現在位置」も、知性体内にデータがある事は確実ではあるが、アクセスする事はあまりに危険なためにデュマレストは試みていない。
- 宇宙友愛教会
宗教団体。惑星ホープを本部とし、全宇宙に教会を有する。完全なる友愛を及ぼすことが、すべての苦痛、絶望への解答を握ると主張している。
人間の攻撃的感情や猜疑心を取り除く「浄福灯」というライトを用い、懺悔を行う。この懺悔の後には、滋養に溢れた濃縮ウエハースが無償で与えられる。これだけを目当てに懺悔を受ける者が後を絶たないが、教会側はそれでも構わないと考えている。
なお、デュマレストは「浄福灯を浴びたら戦いが出来なくなる」事から、懺悔は受けていない。
用語
- 低速代謝剤
投薬する事で、人間の基礎代謝速度を遅くする薬剤。
周囲から見ると投薬された人間は、彫像のように動かない。逆に投薬された側は、周囲が『目にもとまらぬ速さ』に見える(原語の「QuickTime」はこれに由来)。医療現場などで利用され、病状の進行を遅くしたりするのに用いられる。
- 高速代謝剤
投薬・服用すると、基礎代謝を早くする薬剤。上述の薬剤と、反対の効力を持つ。服用者は周囲が非常にゆっくりに見える(原語では「SlowTime」)。
服用する事で、一時間が一日に感じられ、驚くべき速さでエネルギーを消耗する。多量に服用すると、エネルギー不足に注意しないと落命の危険もある。これもまた医療現場において、治療を施した後にブドウ糖とともに点滴する事で、自然治癒速度を高めるのに用いられている。
- 宇宙旅行
「下等」「中等」「特等」の三種類がある。
この世界では、宇宙船に乗って各惑星間を移動する。
宇宙船は超高速移動が確立しているが、やはり旅行中はかなりの時間がかかり、なおかつチケット代もそれなりにかかる。
そのため、「特等」では、乗船中の膨大な時間を快適に過ごすため、低速代謝剤を投与する事で、主観的な時間がそれほどかからないと思わせる処置を施す。
しかし、惑星間の距離がそれほど離れていない、或いは高額ゆえチケット代が支払えない場合は、代謝剤なしの「中等」を選ぶ選択肢もある。これは、宇宙船の船員たちも同様で、基本的に乗組員も代謝剤は投与しない。ただし、長旅になると代謝剤を用いて交代する事もある。
「下等」は家畜運搬用の棺桶内に入り、低速代謝剤を投与した上で冷凍し仮死状態になる事で、旅行を安く済ませるやり方。しかし死亡確率は15%で、皮下脂肪がなく体力がない状態で乗船すると、確率は上昇する。デュマレストも旅行代を節約するため、たびたびこのやり方で旅行していた。
- 基本食(ベーシック)
劇中に登場する食料。
流動食で、食欲を刺激するように、科学的に調合されたかすかな芳香が立上っている。外観はブドウ糖の薄色がつき、ビタミン味がして、プロテインでねっとりとしている。宇宙船乗り(スペースマン)ならば「一日120ccのベイシックで生きていられる」との事。その原料は、惑星サカウィーナで採れる海草。
ちなみに劇中には、普通の食事や飲料も存在する。ベーシックはあくまでも「人間が生きるのに必要な栄養素を、手っ取り早く摂取」するだけの食料であり、基本的な栄養は摂れるが、食事における満足感などはその限りではない。
なお、富裕層や上流階級はご馳走や豪華なワインを口にしている様子。
- ホモコン素子
暗黒世界の不定形生物から作られる素子。
時空を超えて瞬時に交流・交信を可能としており、サイバーたちの頭蓋に内蔵されている。普段は休眠しているが、サイバーがサマチャジの相に入る事で活性化。中央知性体へのアクセスを可能とする。
- サマチャジの相
サイバーたちが中央知性体にアクセスし、リンクするための精神統一状態。
いわば瞑想に近く、サマチャジの相の状態に入る事で五感は全て消え去り、純粋に脳のみの状態になる。この状態で内蔵されたホモコン素子を活性化する事で、宇宙のどこに居ようと、サイクラン本部の中央知性体とのアクセスが可能となり、リンクして助言や情報を得る事が出来る。
各巻タイトル
1巻:嵐の惑星ガース
The Winds of Gath (1967)
2巻:夢見る惑星フォルゴーン
Derai (1968)
3巻:迷宮惑星トイ
Toyman (1969)
4巻:共星惑星ソリス
Kalin (1969)
5巻:キノコの惑星スカー
The Jester at Scar (1970)
6巻:聖なる惑星シュライン
Lallia (1971)
7巻:科学惑星テクノス
Technos (1972)
8巻:植民惑星ドラデア
Veruchia (1972)
9巻:幻影惑星トーマイル
Mayenne (1973)
10巻:誘拐惑星オウレル
Jondelle (1973)
11巻:流血惑星チャード
Zenya (1974)
12巻:テクノ惑星カモラード
Eloise (1975)
13巻:秘教の惑星ナース
Eye of the Zodiac (1975)
14巻:虚像の惑星バラドーラ
Jack of Swords (1976)
15巻:悪夢の惑星ホーガン
Spectrum of a Forgotten Sun (1976)
16巻:野望の惑星ハラルド
Haven of Darkness (1977)
17巻:死霊の惑星ザキム
Prison of Light (1977)
18巻:希望の惑星アス
Incident on Ath (1978)
19巻:砂漠の惑星ハージ
Web of Sand (1979)
20巻:刺客の惑星ヒアカーヌ
The Quillian Sector (1978)
21巻:空想惑星エスリン
Iduna's Universe (1979)
22巻:秘薬の惑星エリシウス
The Terra Data (1980)
23巻:異形の惑星クルディップ
World of Promise (1980)
24巻:天翔ける惑星ザブル
The Terridae (1981)
25巻:女帝の惑星ジュールダン
The Coming Event (1982)
26巻:真珠の惑星サカウィーナ
Nectar of Heaven (1981)
27巻:鳥人の惑星ヘブン
Earth Is Heaven (1982)
28巻:超能力惑星バーツ
Melome (1983)
29巻:遊民の惑星ライカン
Angado (1983)
30巻:生命の惑星カスケード
Symbol of Terra (1984)
31巻:最後の惑星ラニアン
The Temple of Truth (1985)
32巻(未訳):
Return (1997)
33巻(未訳):
Child of Earth (2008)
ゲームブック
1巻:巨大コンピューターの謎
2巻:惑星不時着
著:安田均 グループSNE・TTG。
創元推理文庫「スーパーアドベンチャーゲーム」レーベルより発売されたゲームブック。
時系列は、原作の1巻と2巻の間の出来事で、知識惑星アンフォルムのデータベースに地球の位置を確認しに来たデュマレスト(1巻)、およびカジノ惑星ハスラーに向かう途中で最寄りの惑星に不時着したデュマレスト(2巻)の活躍を描いている。
日本オリジナルの作品であり、読者(プレイヤー)はデュマレストになって選択し、ストーリーを進めていく。
3巻が出る予定だったが、実際には出ていない。
詳細はこちらを参照。