海底軍艦
かいていぐんかん
「海底軍艦」というタイトルの元祖であり、押川春浪によって発表された日本SF小説である「海島冐險奇譚(かいとうぼうけんきたん) 海底軍艦」のことを指す。
発表は1900年と古く、現在は青空文庫で読むことも出来るが、その完成度は「日本SFの草分け的存在」と評され、後日の日本SFに大きな影響を与えている。
序盤のロビンソン・クルーソーを思い出すサバイバル、謎の島に潜む海軍の軍人というミステリー、彼らと協力しての秘密兵器建造という科学ロマン、そしてその海底軍艦と悪役との戦いのアクション、こういったまさに「男のロマン」が満載となっている本作は当時の少年たちを虜にし、不動の人気を獲得し、続編が何本も作られるまでになった。(これらの続編は青空文庫化されていないため、読むには冊子を買う必要がある。)
続編のひとつ「東洋武侠団」は1927年に日活で映画化され(内田吐夢監督作品)、浅岡信夫・広瀬恒美の2大スター共演で大ヒットした。
派生作品として「空中大飛行艇」シリーズがあり、これは日本のSFにおける空中戦艦の嚆矢といわれている。
ちなみに押川春浪氏はこれを大学生時代に発表しているのだが、惜しくも1914年に肺炎によって38歳という若さでこの世を去ってしまった。
あらすじ
全世界を舞台とせる奇々怪々なる大冒険譚は現はれたり、 本編の主人公は雄風凛々たる日本海軍士官! 其部下には慓悍決死の水兵あり、 鰐魚は印度洋に眠り、 獅子は大陸の巌を噛み、 海賊剣を舞はす処美人跳梁する処神州快男子の鉄拳飛ぶ、 紅顔の勇少年あり、 変幻の軽艇に乗じて千尋の海底を駛り、 洒落の壮士あり、 奇異の鉄車を進めて万峰の頂を踰ゆ、 寂寞たる孤島に不思議の響きあり、 人外の異境に大日本帝国軍旗翻る、 奇絶! 怪絶! 又壮絶!(当時の広告文より)
世界漫遊旅行の最中であった主人公の「私」はその途中で再会したかつての学友からその妻子を日本まで送り届けることを依頼され、共に日本への帰路につく。しかし、その道中で旅客船は海賊の襲撃を受けて沈没し、「私」は子供とたった二人でボートによる脱出になんとか成功した。漂流の果てに辿り着いたのは絶海の孤島であったが、なんとその島は無人島ではなかったのだ。大日本帝国海軍大佐:桜木大佐を名乗る怪人物と彼らは接触し、その秘密に迫る。
果たして、桜木大佐の目的とは、そして彼らが建造をすすめる超兵器「海底軍艦」とは・・・?
余談
今日において海底軍艦といえば東宝特撮映画である「海底軍艦」とその主役機である「轟天号」を指すことが多いが、押川春浪の小説における海底軍艦の名前は「電光艇」であり、轟天号は登場しない。しかし轟天号の元ネタとあって、空こそ飛ばないものの並列式旋回魚雷発射管を装備し毎分78本の魚雷発射が可能、12種類の薬品の化学反応というなんかよくわからないけど凄い動力炉、そして最大のロマン「艦首の回転式衝角(ドリル)」と男のロマン満載のインパクト絶大な超兵器となっている。
そして第1作発表当時は潜水艦自体がようやくホランド型が就役したくらいという黎明期であり、海中を自在に航行する戦闘艦そのものがロマンの塊であった。
1963年12月22日に公開された東宝特撮映画であり、今日においては「海底軍艦」というとこちらが真っ先に出てくる人が多いほどの知名度を誇る。
押川春浪の海底軍艦を原作としているが、「大日本帝国海軍大佐が少人数で絶海の孤島で超兵器を作っている」という点以外はほぼ完全オリジナル展開である。
オリジナルを無視した映画と思うかもしれないが、そんなことはなく、今も語り継がれる名作として仕上がっている。
というのも、脚本を担当した関沢新一氏はオリジナルの海底軍艦をかつて読んで育った少年世代の人物であり、大ファンであった人物である。
そのため、映画化に際して原作に見られた時代背景を伴う実写化には無理な部分(原作での敵対勢力は原作当時の時局を反映しロシア帝国だった)の改正やより娯楽性を追求し、子供の時自分が受けた「ロマン」の衝撃を今風に直すにはどうするべきかといった部分に大きく改変を入れることで本作を発表から60年以上経った時代でも通用するSF特撮映画に仕上げることに成功したのである。また、関沢氏が太平洋戦争中に南方戦線で経験したことを背景に含んでいるため、それらを踏まえた骨太なストーリーも楽しむことができる作品になっている。
本作の特撮も例によって特撮の神様円谷英二氏が担当し、迫力満点の特撮に仕上がっているが、当時の東宝の撮影スケジュールのデスマーチとそれら全てを円谷英二氏が指揮していたということで特撮には難航が予想された。
が、そこにかつて円谷英二氏と袂を分かったはずの特撮監督・川上景司氏を特撮監督の一人として参加させることで過密なスケジュールに対応して特撮の撮影期間を二ヶ月に抑えることに成功した。
川上氏はこの後円谷プロに参加することになっていくが、この一連の出来事は円谷英二氏の面倒見の良さ、度量の広さを語る上での有名なエピソードの一つになっているという。
あらすじ
日本の土木技師が行方不明となる事件が相次いでいる中、事件の現場に居合わせたカメラマンの旗中と西部の二人は被写体として追いかけていた光國海運の専務:楠見の秘書の神宮司真琴が楠見と共にムウ帝国工作員23号と名乗る怪人物に誘拐されようとするのを阻止する。
後日、彼らのもとに一本のフィルムが届く。それは、かつて地上全土を支配し、海底に沈んだというムウ大陸の末裔たちが海底に築いていた「ムウ帝国」からの全地上人類に対する脅迫フィルムであった。
彼らはかつて支配地であった地上全土の再支配と今は亡き真琴の父にして、元・大日本帝国海軍大佐:神宮寺八郎大佐が建造中の「海底軍艦」の建造中止を脅迫していた。
この脅迫により世界はパニックに陥り、アメリカやソ連はムウ帝国へ原子力潜水艦による攻撃を開始するが、圧倒的な科学力の差からムウ帝国に手傷一つ負わせることはできなかった。
そんな中でかつて神宮寺大佐の上官の技術少将であった楠見は衝撃の真実を暴露する。「神宮寺大佐は死んでおらず、終戦直前に潜水艦伊403にて反乱を起こし、消息を絶ったのだ」と。
それに呼応するかのように、彼らのもとに神宮寺大佐の使い・天野兵曹が現れる。神宮寺大佐の招待により、彼らは南の絶海の孤島「轟天建武隊基地」へ向かい、そこで神宮寺大佐と出会う。
かつての上官と部下、父と娘、様々な再会と出会いがある中で神宮寺大佐は海底軍艦「轟天号」の性能を見せつける。
しかし、神宮寺大佐は未だに大日本帝国再建の夢を抱いており、この轟天号こそが大日本帝国と海軍の再興の要であり、ムウ帝国との戦いには決して参加しないと楠見達の要求をはねのけ、すれ違いを生んでしまう。
果たして、ムウ帝国に対して人類は勝利をつかむことは出来るのか、神宮寺親子の絆を取り戻すことは出来るのか、そして超兵器「轟天号」の真の性能とは・・・。
出演者
余談
本作のプロデューサーであり、ゴジラの生みの親でもある田中友幸氏は神宮寺八郎大佐が大のお気に入りの名前となり、自身のペンネームとして使っていたという。
また、本作に登場する爆発シーンのきのこ雲は記録映像などではなく特撮を用いたものである。これは円谷英二氏の有名なエピソードである「味噌汁をかき回したときにきのこ雲の撮影を思いついた」というエピソードに基づく水槽に絵の具を垂らすという手法で撮影された。
この映画の撮影された1960年代初頭は日本軍で佐官級の将校であった者たちが自衛隊などの治安維持組織を再建して間もない時期であった。
そのため作中で登場する戦後日本の治安維持関連部署の首脳陣は戦時中に将官であった楠見を少将、もしくは閣下と現役時代の階級とそれに相応しい敬称で呼んでいた。
これは戦後の治安組織の黎明期の首脳陣は戦中は佐官以下の階級にあった軍人だったからで、戦中に将官であった者たちが戦後の自衛隊に影響力を持っていた事実を鑑みても、的確な描写である。
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