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「俺、音を嫌いになりたいわけじゃない。

本当は、ずっと探してるんだ、あの音を」


CV:志尊淳

概要編集

渋谷を拠点に活動しているバトルクールチーム「ブルーブレイズ」のエース。

年齢は17歳(小説版、14ページ)。パルクールの技術をはじめとする優れた身体能力を持つ一方で、幼いころから特殊な聴覚に悩まされており、いつも遮音のためのヘッドホンを装着している。また、自身の辛い生い立ちゆえに他者と関わることを拒絶しており、ひとりきりで孤独な日々を過ごしている。


物語の5年前に起こった降泡(こうほう)現象の際、『タワー』の展望台にいたヒビキは、無数に降り注ぐ泡のなかにハミングを奏でる水色の泡を見つけ、展望台の窓越しにその泡と触れ合っている。続いて起こった大爆発によってヒビキは意識を失い、東京も首都機能を放棄してゴーストタウンと化してしまうものの、『タワー』で聞いた泡のハミングが忘れられないヒビキは廃墟となった東京でバトルクールに興じる一方で、かつて聞いたそのハミングの正体を探し出すために何度も『タワー』の登頂に挑んでいる。


人物編集

容姿編集

額から流れる柔らかな黒髪や通った鼻筋、薄い瞼(まぶた)を縁取る長い睫毛(まつげ)など、クールで繊細な顔立ちが目を引く少年(小説版、13ページ、93ページ、『バブル』オフィシャルブック、93ページ)。その両耳は常に遮音のための白いノイズキャンセリングヘッドホンに覆われており、『泡の声』を聞きとるなどの相当の理由がない限りは滅多に外すことはない。(小説版、17ページ、34ページ、『バブル』オフィシャルブック、62ページ)

また、彼の肢体には日頃の入念なトレーニングによってうっすらと筋肉のラインが見てとれ、バトルクールの勝負に臨む際にはその上に水色のパーカーと緑のライフジャケット、ストレッチ素材の黒のパンツを着用している。(小説版、14ページ、41ページ)


性格編集

他者と馴れ合うことに必要性を感じず、いつも一匹狼を気取ってうらぶれている無愛想な性格の持ち主。仲間意識やチームプレイなどといった自身を束縛する言葉にわずらわしさを覚えているために、「ブルーブレイズ」のメンバーたちからの語りかけに対してもしばしば無視したり素っ気ない対応を返すなどしている。(小説版、22〜23ページ、57ページ、65ページ、107ページ)

また、チームの勝利のために協調性や団結を追求するリーダーのカイとは対照的に、個人の技術や実力のほうに重きを置いており、「勝つために協力が必要だという言い分は、裏を返せば勝てるのならばわざわざ他人と協力する必要がないということではないか」といった持論から、彼の持つ淡々とした合理性をうかがい知ることもできる。(小説版、42ページ)


独りになったほうが上手くいく」というような、自ら進んで孤独な道を選ぼうとする彼の意識の奥底には、彼がこれまでに歩んできた辛い身の上による影響が色濃く表れ出ており、「期待しなければ裏切られない。現実に打ちのめされることもない。辛くたって平気だ」や「独りだが、きっとそれでいい。独りでいさえすれば、大切な誰かを傷付けてしまうこともないのだから」などと、すべてを諦め、遠ざけながら生きていくことが自分自身の『普通』なのだと思い込むようにしながら寂しい日々を過ごしている。(小説版、67ページ、98ページ、176〜177ページ、242〜243ページ)


なお、ヒビキの声を演じた志尊淳は、収録を通してヒビキの「普段の自分を出さない、出せない」という不器用な面に共感するとともに、ふとした瞬間に見せるチャーミングな表情にも魅力を感じていたことを明かしている。(『バブル』オフィシャルブック、53ページ)


その他編集

  • 『令洋』内でヒビキが使っている青色のマグカップには、『H・A』という自身のイニシャルが書かれている。(小説版、32ページ)
  • 本を読むことは「ひとりで楽しめる娯楽」として嫌ってはいないものの、どちらかといえばパルクールのように外で身体を動かすほうが性に合っていると感じている。(小説版、162ページ)

身体能力編集

バブル


アスリート級の優れた運動神経とパルクールの高度なスキル、そして豊富な経験に裏づけられた正確な状況判断能力を備えており、バトルクールの勝負においては並び立つ者がいないほどの鮮やかな活躍を見せている。コース上の障害物を跳び越える際のアクロバットじみた手際のよさはもちろん、特筆すべきは宙に浮かぶ泡が発する微弱な響きを聞き取り、そこから踏んだ際の反発力を読み取ることができる才能であり、浮遊する泡の反発力を最大限に活かして空を跳ぶようにしながら進んでいく彼の走りは、他の追随を許さない圧倒的な速さを誇るものとなっている。(小説版、17ページ、51ページ、『バブル』オフィシャルブック、60ページ、63ページ)


そのような彼の活躍を支えているのは地道なトレーニングと基礎スキルの反復の積み重ねであり、バトルクールの勝負に際して常に100%のパフォーマンスを引き出すために、毎朝欠かさず筋力トレーニングやパルクールの基本動作の確認を行なっている(小説版、41ページ、99〜100ページ、103〜104ページ)。また、泡の反発力を読み取る力のほか、ゴールまでのルートの最短距離や安全性の瞬時の把握、敵と味方の位置関係とそこから打つべき次の一手の思案など、走りや跳び越えの一瞬一瞬で高度な判断を同時並行的に行なっており、「これならミスはしない、確実にできる」という見極めによって走りや跳躍などの動きをより正確かつ大胆なものにしている。(小説版、49〜50ページ、66ページ、82ページ、206ページ、209ページ)


経歴編集

幼少時代編集

妻帯者の男とのあいだに生まれたヒビキは、OLとして働く母親の女手ひとつで育てられてきた。しかし、ヒビキには生まれつき聴覚過敏の傾向があり、東京の街中の雑音の騒がしさに苦しみ、しょっちゅう耳を塞ぎながらしゃがみ込んで母親を困らせていた。ヒビキの母親は彼の聴覚を治すために彼を連れて病院を転々とするものの、どんな治療を試しても彼の聴覚は一向に治らず、ヒビキを普通の子供にするための解決策が見いだせない母親は次第に追い詰められていった。(小説版、95〜98ページ、171〜172ページ、『バブル』オフィシャルブック、63ページ)

そして小学生だった当時のある日、ヒビキは母親によって聴覚異常を抱える子供たちが集まる施設に預けられる。母親との別れを受け入れたヒビキは、彼女に対して寂しさや悲しさ、腹立たしさを覚えたものの、それらと同時に「自分のせいで母が苦しまないのなら、それが一番いいと思った」というような諦めからくる安心感も抱いていた。(小説版、172〜173ページ)

また、施設にはヒビキと同じく聴覚異常を抱える同じ年頃の子供たちが多くおり、ヒビキは彼らと少しずつ時間をかけて仲良くなりながら新しい生活環境に慣れていった。


12歳になったヒビキは、あるとき施設の遠足で皆と一緒に『タワー』の展望台を訪れていた。その際に、ヒビキは東京の街に降り注ぐ無数の泡を目にするとともに、泡の奏でる特徴的なハミングを耳にしている。その発生源を探したヒビキは無数の泡のなかに混じる小さな水色の泡を目に留め、「この歌は、君?」と展望台の窓に触れながらその泡に問いかける。すると、その水色の泡はヒビキのもとへとやってきて窓越しに彼の手に重なると、先ほどと同じようにハミングを奏でる。そのハミングに合わせて泡と一緒にメロディを口ずさんだヒビキは、「今というこの時だけは、自分は独りぼっちじゃない」と幸せな気持ちを実感していたものの、直後、泡たちの起こした大爆発に巻き込まれて意識を失ってしまう。(小説版、174〜175ページ、287〜289ページ)


そののち、『タワー』から離れた治療エリアで意識を取り戻したヒビキは、病院の個室でひとりきりの療養生活を続ける。ほどなくして、ヒビキは『タワー』で起こった爆発から生き延びた人間は自身を除いてほかに誰もいなかったことや、職員の大半を失った施設はそのまま閉鎖されてしまったことなどを知る。そうしてふたたび独りぼっちになってしまったヒビキは、仲の良かった施設の友達のことを思い出して「どうして自分だけが生き残ったんだろう」とやるせない思いに苛(さいな)まれたり、初めから期待しなければ裏切られることもないといった諦めの気持ちを自身の心の芯に据えるようになっている。(小説版、175〜177ページ、242〜243ページ)


現在編集

病院で療養生活を送っていたヒビキは、あるとき居住禁止区域に指定された東京都内でバトルクールの勝負を仕切っていたシンから身元引き受け人の話を申し出され、療養生活を終えたのち彼のように東京都内に不法滞在することになる(小説版、18ページ、24〜26ページ、『バブル』オフィシャルブック、63ページ)。ヒビキはそのなかで渋谷を拠点とするバトルクールチーム「ブルーブレイズ」のメンバーとなり、泡の反発力を味方につけることができる才能を活かして活躍を見せるものの、自ら進んで孤独であろうとする姿勢のためにほかのメンバーとの折り合いはあまりいいものとは言えず、事あるごとに居心地の悪さを実感している。(小説版、22〜23ページ、39〜42ページ、56〜57ページ、63ページ)

チームの拠点である『令洋』での集団生活に嫌気が差していたヒビキは、とある廃ビルの屋上にある放棄された庭園(通称『浮島』)を自身の秘密の隠れ家にするようになり、バトルクールの戦利品に混じっている花の種をこっそり頂戴して花壇に植えて育てたり、重力変動の影響で屋上の一角に漂着したバスのなかを物置がわりにするなどしている。誰にも干渉されず、草や花々がそよぐ自然の音に包まれたそのプライベートな空間は、ヒビキ自身をして「ここは音が優しいんだ」と安らぎを覚えるような場所となっている。(小説版、165〜171ページ、『バブル』オフィシャルブック、21ページ)


また、ヒビキは『タワー』での爆発事故が起こって以来、爆心地である『タワー』を取り巻く積雲のなかから発せられる特徴的な『泡の声』を耳にするようになっている。かつて『タワー』の展望台で水色の泡と触れ合ったことが忘れられないヒビキは、その思い出に駆られるようにしてこれまでに何度も『泡の声』の正体を探るために『タワー』の展望台への登頂を試みているものの、ルートの難しさや道中の異常な重力場による阻みもあって一度も到達したことはない。(小説版、28〜29ページ、70〜71ページ、177ページ)


主要キャラクターとの関係編集

ウタ編集

バブル見ました


『タワー』から落下して溺れていたヒビキを助けた不思議な少女。

ヒビキはウタのことを「ウタ」と呼んでおり、対するウタは「ヒビキ」と呼んでいる。

ある夜、『タワー』の展望台を目指して登っている最中にバランスを崩してそのまま海中に落下したヒビキは、荒れ狂う水流に呑まれて溺れているなかで人魚のようにこちらに泳いでくる少女の姿を目にするとともに、彼女から酸素を吹き込まれて一命を取り留めている。そののち、地上に助け上げられて意識を取り戻したヒビキは、人間の言葉がわからないらしい彼女を一緒にシンのボートに乗せ、自身の拠点である『令洋』へと連れて帰る。


『令洋』の船内で好奇心による破茶滅茶な行動を巻き起こす少女に、ヒビキは当初「彼女の行動にいちいち付き合っていたら身が持たない」などとこめかみを押さえたくなるような思いを感じていたものの(小説版、109ページ、111ページ)、少女が『タワー』から聞こえてくる『泡の声』に合わせて歌っている姿を見たことで「コイツにも『泡の声』が聞こえるのか」と興味を抱くようになる(小説版、102ページ)。それからしばらくして、少女に名前がないと不便という話になった折に、命名を任されたヒビキは『泡の声』に合わせて歌っていた少女の姿から「ウタ」と名づけることを決める。

名前をつけてもらったことが嬉しいウタから懐かれてしまったヒビキは、はしゃいで駆け回る彼女を「目の届かないところにいると落ち着かない」などと気にしたり、熱心に自身のことを見てくる彼女に根負けしてパルクールの技術を教えるなどしている(小説版、141ページ、153〜154ページ)。また、ウタが『人魚姫』の物語を気に入ってヒビキのことを「おうじさま」と呼んだ際には、彼女から口移しで酸素を吹き込まれたことを思い出して恥ずかしさのあまり赤面している。


そのような日々が続いたあるとき、ヒビキは自身の秘密の隠れ家『浮島』にこっそり忍び込んでいたウタの姿を見つける。追い返すのも億劫(おっくう)で、『浮島』のことを秘密にすることを条件に彼女を迎え入れたヒビキは、海から流れ着いた貝殻を紹介するなどふたりきりの穏やかな時間を過ごすなかで、「ウタならいいや」という不思議な安らぎを実感している(小説版、167〜171ページ)。ヒビキはその流れのまま、これまで誰にも話さなかった自身の生い立ちをウタに打ち明け、その結びに「初めてだ、こんなふうに誰かに話したの。ごめんな、暗い話で」と心からの気持ちを明かしている。

そののち、自身の気持ちを乗せて歌ったウタから一緒に走ろうと誘われたヒビキは、彼女と並んで宙に浮かぶ泡や瓦礫を跳び回るなかで「手加減なんてしなくていい。がむしゃらに走っても、ウタとならどこまでも一緒に進んでいける」という爽やかな高揚感を覚えるとともに、彼女と目と目が合った際の嬉しさや辛さを分かち合えることの心強さから「見つけた。欠けていたパズルの最後のピースが嵌まったような、そんな感覚。孤独だった自分の唯一の理解者が、ここにいた」と、彼女の存在を唯一無二のものとして強く惹かれるような思いも実感している。(小説版、178〜179ページ、243ページ)


マコト編集

都外にあるNPO法人から派遣された現地調査員の科学者。

ヒビキはマコトのことを「マコト」と呼んでおり、対するマコトは「ヒビキ」と呼んでいる。

『令洋』を拠点に泡の観測をするかたわら「ブルーブレイズ」のメンバーを対象に調査と教育を行っているマコトのことを、ヒビキは「調査員と調査対象」という割り切った関係のもとに見ており、その一線は踏み越えるべきではないと認識している(小説版、31ページ、66ページ)。しかしながら、ときおり彼女のほうから一線を越えてちょっかいをかけてきたりプライベートなところを突いてくることがあり、ヒビキはその都度「大人はズルいと思う」などとムキになったりしている。(小説版、65ページ、68ページ)

また、マコトがシンに対して憧れを募(つの)らせていることもよく知っているヒビキは、しばしば「分かりやすい大人だ」などと呆れ混じりに彼女を見ることもある。(小説版、128〜129ページ)


カイ編集

バトルクールチーム「ブルーブレイズ」のリーダー。

ヒビキはカイのことを「カイ」と呼んでおり、対するカイは「ヒビキ」と呼んでいる。

事あるごとにチームとしての団結を求めてくるカイに対して、ヒビキは「別に好きでも嫌いでもない」という無関心のスタンスをとっており、彼から投げかけられる苦言に無視を決め込んだり素っ気ない返事を返すなどしている。(小説版、22〜23ページ、39ページ)

なお、カイの持つ優れたリーダーシップについてはヒビキも高く評価しているものの、それを彼に知られてしまうのは癪(しゃく)なため、彼への称賛や張り合いの意識は絶対に口に出さないように努めている。(小説版、107ページ、195〜196ページ)


ウサギ編集

バトルクールチーム「ブルーブレイズ」の最年少メンバー。

ヒビキはウサギのことを「ウサギ」と呼んでおり、対するウサギは「ヒビキ」と呼んでいる。

いつもわいわいと賑やかに振る舞うウサギに対して、騒がしいのが苦手なヒビキは口を噤(つぐ)んで立ち去ったりするなど、最低限の関わりしか見せていない(小説版、28〜29ページ)。また、ウサギがバトルクールの勝負中にしょっちゅう無茶なプレイをすることをよく知っているヒビキは、彼に対して「できないことをやろうとするな、ちゃんと怖がれ」などといった淡々としたアドバイスを授けることもある。

普段はそのようなドライな関わりのもとに過ごしていたものの、ウタが『令洋』で暮らし始めるようになって以降は、ヒビキ自身が角が取れて丸くなったこともあり、一緒にボートで物資回収に出かけたりするなどの親しげな一幕を見せるようにもなっている。(『バブル』オフィシャルブック、20ページ)


シン編集

バトルクールの立案者で、同ゲームの審判人を務めている男性。

ヒビキはシンのことを「シンさん」と呼んでおり、対するシンは「ヒビキ」と呼んでいる。

物語の5年前に起こった降泡現象に伴う災害ののち、療養生活を送っていたヒビキは身元引き受け人を名乗り出たシンと顔を合わせている。その際に、ヒビキは彼の軽薄な振る舞いや小綺麗に整った身なりなどから「よくわからない大人」というような胡散臭さを感じ取っている。(小説版、24〜26ページ)

現在では、バトルクールの審判人を務めるかたわら『令洋』を訪れてヒビキに会いにくるシンに対して、自身の身元引き受け人になってくれたことからくる負い目を感じており、自身の勝手な行動をたしなめられたことでばつが悪くなって顔を背けたり、反発したいと思う感情を理性で押さえつけられるようなむず痒さを覚えたりしている。(小説版、80〜81ページ、116ページ、132ページ)


関連タグ編集

バブル(2022年の映画)

ウタ(バブル) - 『タワー』から落下して溺れていたヒビキを助けた不思議な少女。

カイ(バブル) - バトルクールチーム「ブルーブレイズ」のリーダー。


パルクール ヘッドホン


参考文献編集

  • 武田綾乃『小説 バブル』 集英社文庫 2022年4月30日発行 ISBN 978-4-08-744376-9
  • 『バブル オフィシャルブック』 集英社 2022年4月28日発行 ISBN 978-4-08-102413-1

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