「ヒビキ、おうじさま。
ウタ、にんぎょひめ!」
CV:りりあ。
概要
『タワー』から落ちて溺れていたヒビキを助けた、青い髪をした不思議な少女。
コラージュ(切り貼り)を思わせるような奇妙な格好をしており、言葉が話せないながら見るものすべてに強い好奇心を寄せている。また、ヒビキと同じく『泡の声』を聞くことができ、しばしば『タワー』の方を向いてハミングを口ずさんでいる。
助けたヒビキとともに彼の生活拠点である『令洋』を訪れたウタは、最初は野生動物のような動きを見せて『令洋』の面々を困惑させていたものの、彼らとの生活を通して次第に言葉や知識、感情といった人間らしさを学んでいく。また、『令洋』に暮らしている科学者・マコトに読み聞かせてもらった『人魚姫』の物語を強く気に入り、自身の境遇やヒビキとの出会いを人魚姫と王子様になぞらえるようにもなっている。
人物
容姿
軽やかに跳ねる明るい青色のショートヘアと、長い睫毛(まつげ)に縁取られたアメジストのような瞳を持つ、わんぱくそうな印象を振りまく小柄な体躯の少女。その頭髪は、眉を隠す程度に切りそろえられた重めの前髪や頬に沿ってまっすぐに伸びるサイドの髪など、活発さのなかに大人しそうな雰囲気も織り交ぜている。(小説版、77〜78ページ、243ページ)
彼女の普段の服装は一見するとセーラー服のようなまとまりで見えるものの、そのトップスやスカートはボーダーやチェック柄などさまざまなデザインや色合いの生地を重ねて作られており、右足に黄色のニーハイソックスと水色のスニーカー、左足に赤と紺色のボーダーソックスとオレンジ色のスニーカーをそれぞれ履いている。それらのさまざまな要素が合わさって構成された風変わりな出で立ちは、彼女と初めて出会った際のヒビキをして「出来の悪いコラージュみたいだ」「海の下で見かけた看板にあった人間の写真やイラストをすべてごちゃまぜにしたらこんな感じになるかもな」と思うような、奇妙な印象を抱かせるものになっている。(小説版、77〜78ページ)
また、「ブルーブレイズ」の拠点である『令洋』で暮らすようになってからは、ウタの右手に生じていた泡ぶくれを気にかけたマコトから片方だけ残った白いレースの手袋をプレゼントされており、以降はその手袋をつけて右手の泡ぶくれを隠すようにしている。
余談だが、作品のキャラクターデザインの原案を手がけた小畑健は、ウタの服装を考案するにあたって「(初めて人間の姿になる際に)地球の常識を知らずまねたので、組み合わせや着方にチグハグ感がある姿にしてほしい」という荒木哲郎監督からのリクエストを参考にしている。(『バブル』オフィシャルブック、92ページ)
性格
見るものすべてに強い好奇心を寄せる純真無垢な性格の持ち主で、新しい事物に出会うたびに喜色満面に破顔したり、まん丸な両目を爛々(らんらん)と輝かせながら興味を示している。
キャッキャと無邪気に笑いながら自由奔放に駆け回ったり、褒められることを期待して得意げに胸を張るその姿は、善悪の判別や生きるうえでの知識を何も知らない幼い子供のようであり、それらの屈託のない振る舞いによってしょっちゅうヒビキやマコトをはじめとする『令洋』の面々を振り回している(小説版、105ページ、125〜126ページ、154ページ)。なお、ヒビキたちと暮らし始めた当初は好奇心のおもむくままに動く様子が目立っていたものの、彼らと生活をともにしたりマコトから勉強を教えてもらううちに、次第に人間の持つ感情や思考を学ぶようになっており、やがては自分自身の意志に基づいた行動を起こすまでに成長を果たしている。
その他
- ヒビキによって『ウタ』と初めて名前をつけられた際に、マコトから記念に彼女専用のカップをプレゼントされている。アルミ製の取っ手がついたそのピンク色のカップには、マコトの字で『ウタ』という名前が書き込まれ、その隣に猫のイラストが添えられている。
- しばしば誰も見ていないところで、ひとりで泡を宙に浮かべて手遊びのように戯(たわむ)れることがあり、生み出した泡を自身が目にしたさまざまなものの姿に変えて楽しんでいる。(小説版、142ページ)
身体能力
ちぐはぐな印象を与える奇妙な見た目とは裏腹に、人間離れした抜群の運動神経をその身に宿している。
ヒビキとともに『令洋』を訪れた当初、彼女は自身の食料漁りを止めようとするカイの手をバク転の要領で避けると同時にそばにあった柱を蹴って室内に逃げ込んだり、ヒビキから奪い取ったヘッドホンを口にくわえたまま船のアンテナ柱を軽々とよし登ったりするなど、野生動物のような身のこなしによって『令洋』の面々を驚かせている(小説版、86~87ページ、101~102ページ)。そののち、バトルクールの勝負に向けてパルクールの技の練習に励むヒビキの姿を目にしたウタは、興味本位で彼の動きをそっくり真似てみせ、その動きの器用さや滑らかさをカイやウサギといった「ブルーブレイズ」のメンバーやバトルクールの審判人であるシンから評価されることになる。(小説版、133ページ、154〜155ページ)
そうして「ブルーブレイズ」のエースであるヒビキから直接パルクールの動きを教わったウタは、持ち前の野生動物じみた運動神経をハイレベルなパルクールの技術へと昇華させ、建物や鉄骨のみならず宙に浮く泡や人工物さえも足場代わりにして跳び移るほどの活躍ぶりを見せるようになっている。
経歴
『タワー』から落下して溺れていたヒビキを助けたウタは、彼の命の恩人として彼が所属するチームの拠点である『令洋』へと招かれる。彼女はそこで人間の暮らしぶりを初めて目の当たりにし、即席ラーメンの袋を噛みちぎって開けようとしたり、鶏の飼育小屋に勝手に入って卵を割ったりするなど、興味本位でさまざまな騒動を巻き起こしている。
また、『令洋』にやってきた当初、ウタは人間の言葉がわからずコミュニケーションがとれなかったものの、ヒビキやマコトをはじめとする『令洋』の面々と暮らすうちに次第に人間の言葉を理解し、簡単な単語を並べて意思疎通が図れるようになっている。あわせて、マコトの部屋に置かれていた本や彼女との勉強会を通して、自然や宇宙の成り立ちや構造、人間の歴史や物語を知るようにもなっており、マコトに読み聞かせてもらった童話『人魚姫』の絵本に始まり、図鑑や教科書、専門書など、次から次へと読破して言葉や知識をぐんぐんと吸収・蓄積している。(小説版、234ページ、236ページ、『バブル』オフィシャルブック、20ページ)
主要キャラクターとの関係
ヒビキ
バトルクールチーム「ブルーブレイズ」のエースとして活躍している少年。
ウタはヒビキのことを「ヒビキ」と呼んでおり、対するヒビキは「ウタ」と呼んでいる。
物語の5年前、東京に降り注いだ無数の泡のうちのひとつとしてハミングでほかの泡と交信していたウタは、『タワー』の展望台で泡たちのハミングに興味を示していた幼いヒビキの姿を見つける。彼から「この声は、君?」と呼びかけられたことが嬉しくて、「彼の声を聞いていたい。手の平にそっと触れてみたい」という純粋な欲求のもとに展望台のガラス越しに彼と触れ合ったウタは、その直後に起こった泡たちの大爆発からヒビキを包み込んで守り、『タワー』下部の安全な場所まで下ろしたのちに彼のもとから離れている。(小説版、250〜251ページ)
それから5年後、『タワー』の鉄骨に身をひそめて展望台への登頂を試みる少年の姿を見守っていたウタは、その少年が『タワー』から落下して溺れているところを助けようとした折に、彼が5年前に出会ったヒビキ本人であったことを知る。ウタは「まさか、再び彼に巡り合えるだなんて!」という強い喜びを覚えるとともに、ヒビキの呼気に含まれていた生体情報をもとに人間の姿になり、絶対に助けるという意志のもとに彼に酸素を吹き込んで救出している(小説版、11〜13ページ)。そうしてヒビキを無事に地上まで運び上げたウタは、彼の身体に触れると自身の身体が泡に戻ってしまうことを知る。このことで彼女は「彼に触れてはいけない」ということを悟るものの、しかし同時に彼の顔立ちに心をときめかせていたために、「触りたくても触れない」というもどかしい想いを抱くようになる。(小説版、94ページ、179ページ、『バブル』オフィシャルブック、75ページ)
ヒビキとともに『令洋』で暮らすことになったウタは、彼から『ウタ』と名前をつけてもらった嬉しさから、彼のあとをひよこのようにぴったりとくっついて回るような好意を見せている。また、マコトに読み聞かせてもらった童話『人魚姫』の物語に自身の境遇をなぞらえて、ヒビキのことを「おうじさま」と屈託なく呼ぶようにもなっている。
そのような日常を送るなか、ウタはヒビキのプライベートな空間である浮島をこっそりと訪れる。根負けしたヒビキから「ここのことは二人だけの秘密な」と念を押されて迎え入れられた彼女は、海から流れ着いた貝殻を紹介されたり、彼の辛い過去の話を打ち明けられたりしている。5年前に降泡現象が起こって以来、ずっと泡のハミングの正体を探し求めていると告げたヒビキに、ウタはたまらなくなって手を伸ばそうとするが、その気持ちをこらえて浮島の端まで駆けていって歌詞のないメロディを歌い出す。それにつられてやってきたヒビキを軽やかなステップで誘ったウタは、彼と一緒に空の上に浮かぶ泡や瓦礫を跳び回り、込み上げる嬉しさや楽しさをパルクールを通して共有している。
マコト
『令洋』内で生活をしながら降泡現象の調査にあたる科学者。
マコトはウタのことを「ウタ」と呼んでいる。
ウタが初めて『令洋』を訪れた際、興味本位で熱湯に入れた右手をマコトにつかまれて冷水に浸されており、何の熱さも感じないウタはそのまま右手で彼女の頬にペタペタと触れて戯れている(小説版、88〜89ページ)。そののち、ウタの右手に生じていた泡ぶくれを火傷の痕と勘違いして手袋を渡されたり、寝る場所のない彼女のために自室のソファを譲ってくれたりするなど、ウタが人間の言葉を話せなかった当初から手厚く面倒を見てくれている。
マコトの自室で生活をするようになったウタは、寝る前にマコトから『人魚姫』や『かぐや姫』といった絵本を読み聞かせてもらったり(小説版、161ページ、237ページ)、ソファの上で毛布にくるまりながら添い寝してもらったりするなど、自身に親身に寄り添ってくれる存在として彼女に甘えるようになっている。
関連イラスト
セーラー服
パーカー&ライフジャケット姿
関連タグ
ヒビキ(バブル) - バトルクールチーム「ブルーブレイズ」のエースとして活躍している少年。
カイ(バブル) - バトルクールチーム「ブルーブレイズ」のリーダー。
ウタ(ONEPIECE)……同年公開映画の同名人物。
参考文献
- 武田綾乃『小説 バブル』 集英社文庫 2022年4月30日発行 ISBN 978-4-08-744376-9
- 『バブル オフィシャルブック』 集英社 2022年4月28日発行 ISBN 978-4-08-102413-1