リンフォン
じごくのもん
アンティーク店巡りが趣味の投稿者は、彼女とともにあるアンティークショップに赴き、そこで置物めいたものを発見する。
それは、正20面体のオブジェらしきもの。
それを購入しようと、店の老主人の元に持って行くが、態度がややおかしい。
奥に引っ込み、妻と思しき老女と言い争う声が聞こえた後、黄ばんだ説明書を手にして戻ってくる。
説明書によると、それは「リンフォン」という玩具。おにぎりを握るように撫でまわす事で、その立体の一か所が飛び出してきた。それを押したり引いたりする事で、全体の形が徐々に変形していき、色々な形になる、いわば立体パズルのような玩具なのだという。紙には見つけた時の正20面体の絵に『RINFONE(リンフォン)』と書かれており、『熊』への変形、次に『鷹』に、最後に『魚』に変形する経緯が、イラストで描かれていた。
一万円を6500円にまけさせて購入。
後日、彼女が興奮しつつ『熊』の半身ができたと写メールで伝えてくる。写真には、リンフォンが『熊』の頭部と腕を形作っているのが映っていた。
次の日の写メールには、彼女は徹夜して『熊』を完成させたとの事。彼女の元に向かうと、確かに見事な熊がそこにはあった。
そして次の日の深夜。今度は彼女は『鷹』を完成させていた。写メールの『鷹』も、それは見事なもの。
残るは『魚』のみ。しかし、次の日の夜。
投降者が自宅で風呂に入っていると、彼女から連絡が。
「5分ほど前から、30秒感覚くらいで着信が来る」
「通話押しても、何か街の雑踏のザワザワみたいな、大勢の話し声みたいなのが聞こえて、すぐ切れる」
「着信見たら、普通なら番号が表示されるか、『非通知』か、『公衆』とか出るが、それらの着信見たら、『彼方(かなた)』としか出ない」
混線か何かだろうと、その場は返答する投稿者。彼女も電源を切って今日は寝るという。
ちなみにリンフォンの『魚』は、大体出来上がっていた。
次の日、投稿者は昨日の事が気になって、彼女の元に向かった。
彼女が言うには、会社の昼休憩時に電話が入り、今度は普通に『非通知』だったので出たところ、
「『出して』って大勢の男女の声が聞こえて、それで切れた」
との事。
リンフォンの『魚』は難しく、あとは背びれや尾が形作られれば完成だが、今回は中々完成しなかった。
その日は、彼女の家に泊った投稿者。
その日に嫌な夢を見た。
暗い谷底から、大勢の裸の男女が這い登ってくるので、投稿者は必死に崖を登って逃げる。後少し、後少しで頂上に辿り着くその時、女に足を捕まれた。
「連 れ て っ て よ ぉ ! !」
そこで目が覚めた。
次の日は土曜だったので、彼女の携帯を見てもらいに行ったが、異常は無し。
気晴らしにと占い師に占ってもらおうとアポを取ると、明日の日曜に予定が取れた。
が、日曜になって行ってみると、玄関先で「帰って下さい」と追い返される。占い師の飼っている猫たちも、警戒している。
抗議した投稿者と彼女だが、気になって、玄関先で彼女の元に届いた妙な電話と、自身が見た夢を語ると、
「彼女さんの後ろに、動物のオブジェの様な物が見えます。今すぐ捨てなさい」
「お願いですから帰って下さい、それ以上は言いたくもないし見たくもありません」
食い下がり、あれは何かと尋ねると、
「あれは凝縮された極小サイズの地獄です!!地獄の門です、捨てなさい!!帰りなさい!!」
そう言って、占いの料金も取らず、そのまま玄関から追い返された。
彼女の家に戻った投稿者は、そのままリンフォンを説明書ごとガムテープで巻いて、ゴミ捨て場に捨てた。
以後、何もおかしなことは起こっていない。
しかし彼女は、数週間後に気付き、言った。
「リンフォンって、『RINFONE』の綴りだよね。これを並べ替えると『INFERNO(地獄)』とも読めるんだけど…」
呪物を手に入れ、奇怪な体験をした、というタイプの怪談。
投降者とその彼女は、最後に捨ててしまい、それ以後何も起こらない……というオチになっているが、『RINFONE』が『INFERNO(地獄)』のアナグラムで、下手をしたら地獄の門を開けてしまっていたのでは……と思わせ、事態が解明されずに終わっている。そのため、後を引く読後感をかもしている。
考察では、『魚』はイエス・キリストを表し、ローマ時代に弾圧されていたキリスト教徒が、弾圧者たちを地獄に送るため、リンフォンを作ったのではないか……という書込みも為されていた。
なお、一部ブログなどでは、「占い師は投稿者の彼女からリンフォンの事を聞き、『それが原因だ』と教えてくれた」「投稿者、またはその彼女は、この事件後。旅行先の古びた土産物屋で、別のリンフォンを見かける」という記述も見られる(ネット怪談のバージョン違いと呼ぶべきか)。
大きさはソフトボール大の、正20面体の置物。
複雑な仕掛けが施され、おにぎりをにぎるように両手で包んで撫でまわす事で、面の一部が隆起。それを押したり引いたりする事で、全体を様々な形に変形させていく……という玩具。
その変形は、一度行ったら夢中になってしまい、徹夜してまでも完成させたいと思ってしまう。
付属の説明書には、『熊』『鷹』『魚』への変形の仕方が記され、その完成図イラストも一緒に描かれていた。
また、それと同時に、投稿者たちには読めない文字も書かれていた(ラテン語らしい)。
しかし、『魚』への変形は難しく、簡単には完成できない。
さらに『魚』の完成に近づくと、所有していた投稿者の彼女、ないしはその携帯電話へ、奇妙な電話がかかってくるようになる。
『魚』が完成する前に、投稿者によって捨てられた。そのため、完成していたら具体的にどんな事態が発生したかは不明。
店で発見した時は『どこかの玩具会社が発売した、何らかの製品』といった様相をしており、投稿者たちはそのように思い込んでいた。
店主の老人、およびその妻らしき老女は、販売する時に何か口論していた。そのため、何らかの事情を心得ているものと思われるが、詳細は不明。
2023年5月17日放送回にて、「リンフォン」の事が取り上げられ、番組中で元ネタとなった怪談の内容の再現ドラマが放送された。
ドラマ中にもリンフォンが登場。元ネタ同様に、正20面体の立体物として造形されている。『熊』『鷹』、そしてなかば『魚』に変形したリンフォンも劇中に映っていた。
内容も、元ネタの怪談を概ね網羅し再現している。相違点としてドラマ内では、占い師のくだりが
- 「中に招かれはしたが、占い師が飼っている数匹の猫が、警戒し近寄らない」
- 「その後で、リンフォンや悪夢の事を知らせた後、占い師がリンフォンを持つ彼女に『それは凝縮された地獄の門』だと警告し、追い返す」
という内容になっている。
ちなみにリンフォンの正体が明かされるシーン、この時明らかに場違いであろうホラーぶち壊しのBGMが使用されているが、ツッコんではいけないように。
ヘルレイザー:物語の発端が、立方体のパズル『ルマルシャンの箱』であり、それが重要なアイテムとなる点が共通している。解くと、「地獄を開く」点も似ている。
コトリバコ:ネット怪談、またはその怪談内に登場する呪物の小箱。地獄の門ではないが、強力な呪物である点は同じ。開けずとも、存在し所有しているだけで強力な呪いが発生するため、こちらの方が厄介とも言える。
怪異症候群2:上述のコトリバコに関わる事件の際禁后と共にこの単語が出てくるシーンがある。ただしリンフォンそのものは登場することはなく登場人物からもこの怪異が言及されることはなかった。
ルービックスネーク:スネークキューブ、マジックスネークとも呼ばれる立体パズル玩具。一本に連結された24個のパーツによって構成されており、並び替えることで多面体(正20面体ではない)のボール型からコブラや金魚など様々な形状へと変形する。リンフォンと似た要素から「元ネタでは?」と推測されたり、イメージ映像として使われることも。
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