概要
ヴォイニッチ手稿(Voynich Manuscript;ヴォイニッチ写本、ヴォイニック写本とも)とは、1921年、イタリアの寺院にて発見された書物。200ページ超えの長編。
発見者であるポーランド人古本商人ウィルフリド・ヴォイニッチ(Wilfrid Voynich)にちなんで名付けられた。
世界中はおろか歴史上のどこにも存在しない正体不明の文字で書かれた本であり、内容の解読に成功した人間がいない謎めいた本。
図鑑にも載っておらず、絶滅種にも該当しない不思議な植物や、魔方陣めいた記号などが挿絵として描かれており、誰が何のために制作した書物なのかを巡って現在でも議論が交わされている。
一切の解読を受け付けないその不可思議な内容はホラー小説の大家、H・P・ラヴクラフトにインスピレーションを与え、ネクロノミコンの着想に繋がったと言われる。
解読の試み
暗号解読の天才ウィリアム・F・フリードマン(理論的に解読不可能と言われた日本軍のパープル暗号を解読したことで知られる)も解読に挑戦したものの失敗に終わり、「ヴォイニッチ写本は、ア・プリオリなタイプの人工的もしくは普遍的言語を作成しようとする初期の試みである」という見解を残している。
この場合、その人工言語のテキストが他に存在するか、対訳テキストでも現存していない限り、解読の見込みはほとんどない。
また、仮にそうであるとするならば、ヴォイニッチ手稿はまさしくオーパーツと言える。
挿絵から内容を推測する試みもなされてきたが、描かれている植物のようなものは図鑑にも載っていない意味不明なものであり、また人物も多くが裸で描かれているため、服飾から時代考証の手がかりを得ることも難しい。挿絵が示す状況も理解不能であり、挿絵からの解読も失敗し続けている。
いつまで経っても正体が掴めないことから「適当な文字や絵を書きこんで作られた、解読不可能なイタズラではないのか」という意見が出たこともあったが、内容の解読を試みた者によると「文章には一定の法則性が見受けられ、でたらめに考えた文字列ではありえない」として否定されている。
※「手稿」という訳語について
日本の在野のヴォイニッチ手稿研究者である高橋健は、「写本」という日本語は何らかの原本から書き写されたもの、というニュアンスがあるため、それさえも不明であるこの書物を表現するのに、写本ではなく「手稿」という訳語を推奨している(下記外部リンク参照)。