概要
戦後の日本において簡略化された字体。今日の日本で使われる漢字のほとんどはこれである。
新字体の多くはそれまで使われていた俗字・略字・筆写体が採用されている。
一方で固有名詞は別扱いである事から人名・地名などでは旧字体や異体字の使用が継続されている。こちらの漢字は「人名用漢字」として使用が認められている。
また戦前まで使用されていた漢字は新字体と対比して「旧字体」と呼ばれる。
発表までの経緯
第二次世界大戦後の1946年、当時日本を占領していたGHQの占領方針として漢字の廃止が政府決定された。廃止に向けて、それまで当面使用される1850字の当用漢字を定めた「当用漢字表」が内閣告示された。また3年後の1949年に内閣告示された「当用漢字字体表」で新字体が本格的に使用され始めた。
公文書や書籍、新聞などでは戦前から部分的に使用されていたが、1950年代以降はほぼ完全に新字体に切り替えられた。
漢字の廃止自体は後に撤回されたが、字形の切り替えが完了したため元に戻すことなく現在でも存続している。「当用漢字」も「常用漢字」として新たなスタートを切ることになった。
新字体の例
ここでは新字体の一例を示す。
一覧表はこちら → 新漢字・旧漢字対照表
旧字体 | 新字体 |
---|---|
學 | 学 |
發 | 発 |
鬪 | 闘 |
斷 | 断 |
圖 | 図 |
敎 | 教 |
醫 | 医 |
碎 | 砕 |
聲 | 声 |
國 | 国 |
簡略化の例外
新字体による簡略化は本来当用漢字または常用漢字のみに適用された為、「表外字」と呼ばれる常用漢字に含まれない漢字では現在でも旧字体が正式な物となっている。
例として「欅」「漿」「祓」が挙げられるが、これらは「挙」「将」「礻」といった既に簡略化された部分を含んでいるものの表外字である為簡略化は行われていない。
常用漢字の例
ただし、常用漢字でありながらも簡略化されなかった例外がある。ここでは、その一例を記載する。
- 旧字体の字形のまま採用された字
新字体 | 旧字体 | 簡略化された共通部分 | 新字体にて簡略化されなかった字 |
---|---|---|---|
竜 滝 | 龍 瀧 | 龍 | 襲 |
独 触 | 獨 觸 | 蜀 | 濁 |
仏 払 | 佛 拂 | 弗 | 費 沸 |
遅 逸 | 遲 逸 | 辶 | 遡 遜 |
- 画数を増やされた字
逆に画数を増やされた字も存在している。「步」に関しては構成が似ている「少」と共通させる為であろう。
新字体 | 旧字体 | 「簡略化」された共通部分 |
---|---|---|
歩 頻 | 步 頻 | 步 |
巻 圏 | 卷 圈 | 卷 |
常用漢字外の漢字の簡略化
常用漢字に含まれない漢字(表外字)も、時々簡略化されて書かれる事がある。特に新字体と同じ方法で簡略化された物は拡張新字体と呼ばれる。なお、朝日新聞では独自に表外字の簡略化を行っていた時期があった。この時の字体は「朝日文字」と呼ばれる。
新字体 | 旧字体 | 簡略化された共通部分 | 表外字 | 拡張新字体に当てはまる字形 |
---|---|---|---|---|
酔 砕 | 醉 碎 | 卒 | 倅 悴 | 伜 忰 |
国 | 國 | 或 | 摑 | 掴 |
売 読 | 賣 讀 | 賣 | 瀆 | 涜 |
縄 | 繩 | 黽 | 蠅 | 蝿 |
書き換え字(代用字)
「旧字体→新字体」の関係ではないが、簡略化した字や広く使われる字で書き改められるように方針が決められた字も存在する。
対象字 | 書き換え字 | 用例 |
---|---|---|
稀 | 希 | 希少(稀少)、希薄(稀薄) |
禦 | 御 | 防御(防禦)、制御(制禦) |
熔 | 溶 | 溶岩(熔岩)、溶接(熔接) |
讃 | 賛 | 賛美(讃美)、称賛(称讃) |
この他、「幅」を「巾」、「闘(鬪・鬬)」を「斗」と書き換える向きもあったが、浸透せずに終わっている(前者は道路標識などで採用されることがある)。
平成22年改定時の裁定
同年に改定された常用漢字にて196字が追加されたが、常用漢字制定時に新字体に改められるはずの字体の多くが改められず、そのままの形で採用された。
例:捗(旁が「歩」ではなく「步」のまま)、箸(下部が「者」ではなく「者」のまま)
これは、現在のPC、スマホ等の情報機器で採用されている字体をそのまま採用するという方針によるものである。
ただし、以前から拡張新字体として多用されていた「曽(←曾)」「痩(←瘦)」等については正式に新字体と定められた。
主な問題点
既存の字との衝突
簡略化した結果、元々あった別の字と全く同じ字形になってしまったケースがある。
批判の的としてよく槍玉に挙げられているのが「芸」で、「藝(ゲイ)」の新字体として採用されたが、「芸」は元々「ウン」と読み、「かりとる」という意味で、かたや「藝」は「うえる、わざ」という意味である。つまり全く逆の意味の漢字を新字体として採用してしまったのである。
高校で日本史を専攻した読者諸君は奈良時代に登場する図書館『芸亭』を何故「ウンテイ」と読むか疑問に思ったことだろうが、そのからくりは上記である。
この他、「欠(ケン)」と「缺(ケツ)」、「体(ホン)」と「體(タイ)」、「缶(フ)」と「罐(カン)」、「豊(レイ)」と「豐(ホウ)」、「灯(チン、提灯など)」と「燈(ドン、行燈など)」などがある。
字形の混同
完全同一ではなくとも近い形になってしまったため、混同が生じるケースもある。
例えば、「専」に「、」をつけたことで怒られた読者諸君は少なくないと思われるが、それもそのはず、元々は「專」と書き、「博」などとは別の字形を持つ漢字だったのを、新字体にするにあたって今の形にしてしまったために発生したのである。
この他、「発(發の新字体)」と「癸」なども字形が近く混同しかねない。
書きやすさ
活字を前提としたため、簡略化したわりに、草書体を参考にした簡体字ほどの書きやすさは無い。
文化の断絶論
これは新字体以上に現代仮名遣い自体を批判する場合が多い。
といっても旧字と歴史的仮名遣いを覚えても、その先に古文・漢文・くずし字という難関が待っている。