概要
『漫画アクション』(双葉社)にて不定期連載された。『星守る犬』『続・星守る犬』の全2巻。
村上たかしの作品としては高い知名度を持ち、『ナマケモノが見てた』と並び代表作として扱われている。
不景気による失業を機に家族を失い家も失った男が、唯一残った愛犬と共にあての無い旅に出て二人とも孤独死するまでを描いた表題作「星守る犬」を中心に、彼らと関わった人々の人間模様を描く。
映画化され、2011年に公開された。
物語(映画版)
序章
北海道・富良野市の役場に勤める奥津京介はある日、山林の中で放置されたワゴン車から見つかった中年男性の白骨死体と秋田犬の死骸を目の当たりにする。
すでに犬は他の職員の手によって埋められており、犬の名前はキーホルダーから「ハッピー」だと解ったものの、ナンバープレートも免許証も身分証明書も何も所持していなかったため、遺体の身元は特定できずに終わった。
結局無縁仏として処理される事になったが、わずかに残っていた領収書を頼りに男は東京から福島・岩手・青森へと北上、最後に北海道まで辿り着いて死を遂げた事が判明。
奥津は彼の真意を確かめるため、途中で出会った家出少女の川村有希と共にその足跡をたどる旅を始める。
第二章
東京の多摩に溶接工として働く男がいた。彼には家族がおり、後に一人娘が拾ってきた幼犬ハッピーも加わって、平穏な生活を送っていた。
しかし、時が経つにつれて夫婦の間に溝が生まれ、娘も成長と共に素行不良を繰り返すようになる。
やがて不景気による失業を機に離婚し、家族も家も失った男は、唯一残ったハッピーと共にあての無い旅を始めた。
当初は旅館に泊まったり海水浴を楽しむなど余裕があったが、次第に所持金が底をつき、職も見つからず、持病の発作に苦しめられる過酷な旅となる。
岩手で全ての所持品を質に出そうとするも上手くいかず、さらにハッピーが尿道結石に侵されてしまう。一命は取り留めたものの保険がなかったため、男は莫大な治療費を支払う事を強いられた。
かろうじて所持品を全て売り大金を工面、妻の故郷でもある青森へたどり着くも、幸せに生きている妻子の様子を見てそのまま静かに立ち去る。
そして、そのまま北海道まで北上するも、とうとう職は見つからずガソリン代の値上げや餌代などで次第に追い込まれ、無一文となり精魂尽き果てた男は林に囲まれた野道を走り続け、ガソリンが切れると同時にそこで旅の終点を迎えた。
運良くその場所の近くにはキャンプ場があり、夏場はキャンプ客が捨てた残飯でなんとか食い繋ぐ事ができたが、夏が過ぎればキャンプ客はいなくなり、食材も手に入られず、どんぐりやキノコなどで凌ぐ生活を強いられる。
持病の発作はますます悪化し、外にもまともに出られなくなり、食糧も見つける事が出来ず、冬を迎えると同時に徐々に衰弱していく。そんな自分に対する終活として免許証等の身分証明書を全て焼き捨て、ナンバープレートも取り外して遺棄する男。
とうとう男は栄養失調により失明し身動きすら取れなくなってしまう。それでもハッピーは街に出てゴミを漁り、食料を懸命に集め続けた。
しかし、そんな努力も実らず、男は遂に最期の時を迎える。
ある冬の夜、自分の死期を悟るとハッピーに「今までありがとな」と別れを告げ、そのまま満点の星空を見上げて、「沢山の星の声が聞こえる」と呟き、そのまま静かに息絶えた。
けれども、当のハッピーは飼い主の死を受け入れず、男の屍から離れず町や畑や川などで食糧を漁り続けた。
そんな生活が一年ほど続いたある夏、ハッピーはあのキャンプ場を訪れていた。
キャンプ客を見たハッピーは昔懐かしかったあの頃の家族の姿を思い浮かべながら近づいていく。
だが、その時のハッピーは毛むくじゃらで身体中泥だらけの野犬でしかなかった。その姿を見た家族はハッピーが襲ってきたと勘違いして大量の薪木を投げ付けてしまう。
体中傷だらけとなったハッピーはよろめきながらも男の屍の下へ帰る。するとどこからともなくある声が聞こえてくる。
「それハッピー。がんばれ、がんばれ。もう少しだ」
それは幼犬だっだ頃の自分がいつも聴いていた飼い主の声だった。
その声を頼りに歩き続け、ようやく飼い主の元に辿り着いた。
「よく頑張ったなハッピー。もう、ゆっくり休んでいいんだぞ」
飼い主の声を聞くと、ハッピーはそのまま動かなくなった。
後に二人が奥津らに発見されたのはそれから間もなくだった。
最終章
彼の旅道と最後の人生を悟った奥津は、火葬の際に骨壷に入り切らない分を持ち帰り、それをハッピーの墓と一緒に埋める。そして、
「よかったなハッピー。これでずっと飼い主さんと一緒に居られるぞ」
と言い残しその場を去って行った。
墓の周辺には向日葵が咲いていた。
その茂みの中にあるワゴン車の上に飼い主とハッピーが座り、いつまでも二人仲良くその景色を眺めていた。