概要
人物
九州編の登場人物。大老・北の桃井の一人息子。戦を嫌い、画家を目指している。浅葱によると、絵は結構売れているが、あくまで「大老の息子の絵」としての価値が大きい様子であり、実質的にはすねかじりである。だが、絵の才能は本物である。
国王側・タタラ軍のどちらにも荷担しない中立的な立場をとっていたが、新聞作りをしていた恋人・廉子が父親の桃井に捕えられた際、自身もまた画家の命である両腕に大怪我を負う。両手が不自由になっても廉子を助けに来るが、父親の命令で殺される寸前の所をタタラ達に助けられる。廉子と一緒に逃げようとしたが、桃井が討たれそうになった際、かつて那智に言われた「いざっちゅう時、一人息子が味方しちゃらんかったら、親父かわいそうちゃうんか」という言葉が頭に浮かび、廉子にすぐ戻る事を告げて父親に元に行き、赤の王の兵士に弓を向けられている父親を見て、咄嗟に彼を庇って死亡した。その際に暴力に抗う為に暴力に頼らざるを得ない人々の気持ちを理解している。
桃井の息子であるが、自身の平和への願いと廉子への愛を口に銜えた筆で描いた絵で表現し、それが蘇芳の町の人々に伝わったのか、彼の死の直後、赤の王の兵士達から同情が籠められた言葉が見受けられる(少なくとも父親とは違うと理解されている)。廉子が捕らえられて拷問を受けているのを見るまで父親の事を「まともな人」と信じていたらしく、ある意味で現実を甘く見ていた様である。3月17日生まれ。
備考
作中で誰も指摘しなかったが、彼のタタラ軍に対する言動は自分の立場を弁えていないという印象を受ける読者も存在すると思う。圧政を行っている側の人間でありながら武力で政権に抵抗するしかないタタラ軍の境遇を理解し、彼らの様な人々を減らす事が出来る可能性が高い立場にありながら「自分には関係無い」という態度で行動しない、こういう人間ばかりだったから作中世界が戦乱で覆われる様になったと言える。作中世界は基本的に生まれついた家柄で人生が決まる階級社会であり、こういう社会を成り立たせるには上流階級の人間は多かれ少なかれ義務を果たさないと成立しないのである。現実世界にもいそうな人間である。
作中終盤で更紗と朱理が国王に「あなたが悪いのは各地に不満が溢れても何もしなかったからだ」と批判したが、彼にも当てはまるだろう。
余談だが、彼の父親の桃井は母親を人質に取られ、朱理への反乱に協力したサカキや沖縄を守る為に自分と裏取引をした運天への態度から視野が狭くて他人の背景を考慮しない言動が多い人物と描写されている。そういう意味では親譲りだったのだろう。