概要
『非現実の王国で』(正式名称:非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語)とはアメリカの掃除夫であったヘンリー・ダーガーによる小説、及びその挿絵である。
小説の本文は15145ページ、全15巻に及ぶ。そのため世界最長の長編小説と呼ばれることもある。
挿し絵の方は物語がある程度完成してから作られたようで、雑誌や新聞の記事の絵や写真からの切り抜き、コラージュ、トレース、水彩画などによって作られた数百枚の絵が残っている。
あらすじ
子供を奴隷制を敷く国家「グランデリニア」と、カトリック国家「アビエニア」の戦争を中心に、7人の「ヴィヴィアン・ガールズ」の冒険が描かれる。
数十年に渡って子供奴隷制度が続いていたカルヴェリニアで、子供奴隷アニー・アーロンバーグが反旗を翻したことで戦争が始まる。
登場人物
- ヴィヴィアン・ガールズ
主人公の七人姉妹。名前はそれぞれ、ヴァイオレット、ジョイス、キャサリン、へティ、デイジー、エヴァンジェリン。アビエニアの総司令官ロバート・アンジェリック・ヴィヴィアン皇帝の娘たち。スパイとして働き、戦局を大きく左右することになる。大人顔負けの銃の腕や乗馬の技術を持ち、変装技術も高い。グランデリニアの兵士に幾度も捕まるが、そのたびに機転を働かせて逃げ出す。
- ジャック・エヴァンス
アビエニアの勇敢な青年将校。アビエニア側における主な指揮官であり、数千の騎兵隊を指揮する。ヴィヴィアン・ガールズの窮地を何度も救う。彼が幼い頃に妹はグランデリニア人に誘拐され、大嵐で両親を失い、孤児院で育つ。聖ジョゼフ病院で雑用係をしながら大学に進学、その後軍に入隊するとめざましい成果を見せ司令官にまで上り詰める。幼い頃に生き別れた妹は、実はアビエニア皇帝の妻になっており、ヴィヴィアン・ガールズの産みの親であることが明らかになる。つまり姉妹たちとは伯父と姪の関係。
- ヘンリー・ダーガー(Henry Darger)
著者自身。敵味方を問わず兵士として、時には従軍記者としても登場する。同一人物というわけではなくそれぞれが別人。
- ヘンリー・ジョセフ・ダーガー大尉
シカゴ出身の合衆国軍人。ジャック・エヴァンスに招かれ戦争に参戦し、スパイとして活躍する。児童保護協会《ジェミニ》の創設者。
- ジョセフ・H・ダーガー
神への不信からグランデリニア軍に入隊した軍人。
その他、アンジェリニア軍のヘンリー・J・ダーガー将軍、新聞記者H・J・ダーガー、更に物語を書いている著者自身も登場する。
- ブレンギグロメニアン(Blengigomeneans)
子ども達を守る架空の動物たち。略してブレンゲンとも呼ばれる。体重数トンを超える巨大な竜のようなものから、犬と猫の頭を交互に付け替えるもの、少女の身体に羊の角を持つものなどがいる。そのいずれにおいても奇妙な尻尾を持つ。ブレンギグロメニアンたちは子ども達をとても深く愛しており、子どもを傷つける者はいかなる国籍であろうとも許さない。
- アニー・アーロンバーグ(Annie Aronburg)
子供奴隷の少女。子供奴隷を率いて奴隷主に反抗したが、殺される。彼女の死が戦争の引き金になった。物語を通して彼女の写真の紛失について度々語られる。物語の中でダーガー自身やヴィヴィアン・ガールズ達の前に幽霊として姿を表す。
モデルはおそらく現実世界で誘拐され殺人された5歳の少女エルシー・パールバック(Elsie Paroubek)。著者のダーガー自身が彼女の新聞記事の写真を紛失したことが物語に強く影響を与えている。
- 子供奴隷たち
グランデリニアで奴隷として扱われている子供たち。過酷な労働を強いられ、生きながら四肢を切断されるなど異常なほどの暴力の対象にされている。挿絵においては、全身をバラバラにされた死体が磔にされるなどその傾向が更に強調されている。
用語
- 物語の舞台
物語の舞台は地球よりも数千倍も巨大な惑星。地球が月として存在するという。そのためか数千万の騎兵隊や4億の兵隊など現実離れした人数が頻出する。とはいえ、作者自身はあまり細かいことは気にしていないらしく、シカゴに住むヘンリー・ダーガーの元に召集令状が届き、汽車と船を乗り継いで戦地へと向かうといったシーンもある。
- アビエニア(Abbieannia)
カトリック国家。子供奴隷制を巡ってグランデリニアと戦争している。ヴィヴィアン・ガールズの母国。総司令官はロバート・アンジェリック・ヴィヴィアン皇帝。
- その他のキリスト教国
アンジェリニア、アビシンキル、プロテステンティアなどの国々が登場。カルヴェリニアはグランデリニアに占領されている。
- グランデリニア(Glandelinia)
子供を奴隷として扱っている国家。無神論者の国。子供奴隷に対する暴力や拷問を繰り返す残虐非道な国家として描かれている。物語を通しての敵国として扱われているが、子供への暴力を望まない良識的な将校も少数ではあるが存在する。国王はグランディン。
- 復活祭の日曜日の嵐
物語冒頭、カルヴェリニアを襲った大嵐。この嵐によりジャック・エヴァンスは両親を失い孤児になる。
日本語で読める資料
- ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で 作品社
ハードカバー。小説と絵画を収録。ダーガーの研究者ジョン・マクレガーによる小説本文の抜粋と研究が収録されている。
- HENRY DARGR'S ROOM 851 WEBSTER インペリアルプレス
ハードカバー。ダーガーが住んで創作をしていた部屋を撮影した写真集。
- ヘンリー・ダーガー 非現実を生きる 平凡社
ソフトカバー。小説と絵画を収録。それぞれのトピックに分かれて収録されており、非常にわかりやすい。
関連イラスト
外部リンク
アメリカン・フォーク・アート博物館の詳細な目録
https://folkartmuseum.libraryhost.com/repositories/2/resources/12