概要
一般には「技名を叫ぶこと」と言われ、この行為を名詞化した概念は定着していないが、記事名は名詞であることが望ましいので、ここでは「技名呼称」としておく。
日本の漫画・アニメ・特撮などのフィクション作品で、特にバトルもの(場合によってはスポーツものなども)では当たり前のように定着した演出である。ある種の様式美といってよい。
その歴史は長く、起源については諸説があるが、梶原一騎の「巨人の星」(1966年連載開始)の大ブームで一般化し、1970年代に「仮面ライダー」(ライダーキック)「マジンガーZ」(ロケットパンチ)などが定着させた、というのがおおまかな流れ。
海外の人々から見ると奇異に映ることもあるらしく、「日本のキャラはなぜみんな技名をわざわざ叫ぶのか?」とツッコミを入れることも少なくない。
なぜ叫ぶのか?
中には巨大ロボットで武器・技の使用に音声入力システムを採用しているとか、「魔法の呪文」に類するもので技名を言わなければ発動しないなど、技名を叫ぶことに必然性を持たせている作品もある。スーパー戦隊などの集団ヒーローの場合、技名を叫ぶことによってメンバー間の連携を取りやすくする「号令」としての意味を持っている可能性もある。
だが大多数のケースでは戦術的には無意味、あるいは敵にこれから仕掛けようとしている攻撃方法を教え、対処しやすくしてしまう点ではむしろ逆効果な行為とさえいえる(「来ると解っていても防げない」からこそ必殺技の名に値するともいえるが…)。稀にはこれを逆手に取って、叫んだ技名とは別の技を繰り出すフェイント戦法が使われることもある。
とはいえ「技名を叫ぶ」からこそカッコいいと感じる読者・視聴者が多いのも事実である。例えば、平成ライダーでは従来のシリーズの伝統を排して名称を叫ばない必殺技が当たり前になったが、これに当初、違和感を覚えたファンも少なくなかった(後にはベルトなどのアイテムがライダー自身に代わって発声するなどの要素も導入されたし、技名を叫ぶ作品も作られるようになったが)。
単に掛け声でも良いのだろうが、そのキャラが技の使用に当たって技名を叫ぶことで気魄を込めている、という意義が少なからずあるからだろう。技名を叫ぶことに理由がある作品でも、むしろ「叫ばせたい」からこそそれに説得力を持たせる設定を採用しているとも解釈できる。
その延長で、この行為が中二病の典型的な症状として扱われることもある。そのせいか、その行為だけで、公式にはそういう設定は無いにもかかわらず、二次創作で中二病呼ばわりされがちなキャラもいたりする。
メタ視点で見れば、「ここで特定の技を使っている」ということを視聴者・読者に解りやすくするという意義もある。「出た延髄切り!」「一本背負い!」「上手投げ!」といった格闘技の実況を、キャラ自身に代行させていると考えればよい。漫画の場合、映像作品と比べても絵だけで「特定の技である」ことを印象づけるのはいっそう難しいから、なおさら台詞で技名を言わせる演出が好まれるともいえる。
永井豪も技名を叫ばせた理由を「プロレス実況のように、自分で実況させた」としている。
作品の主対象が児童層の場合、「ごっこ遊びのしやすさ」ということも考慮に入れられているかもしれない。他系統の作品の影響なのだろうが、大部分は技名を叫ばない(例外はある)ウルトラシリーズのごっこ遊びにおいても、ちびっ子たちが「……光線!」と叫ぶというのも、ありがちな光景である。
さらに穿った見方をすると、日本古来の「言霊」の観念との結びつきも指摘できるかもしれない。技名をいわば「言挙げ」することによってこそ必殺技の効力が生まれる、という考え方である。
そもそも「必殺技」の概念自体が日本独自のものとされるが、この事情とも切っても切り離せないだろう。