キャンディ・キャンディ
きゃんでぃきゃんでぃ
正式なタイトル表記は『キャンディ♥キャンディ』(キャンディの間にハートマークが入る)
原作:水木杏子(名木田恵子) 作画:いがらしゆみこによる少女漫画。
「なかよし」にて、1975年4月号から1979年3月号にかけて連載。
第1回講談社漫画賞少女部門の受賞作品である。
ちなみに原作者(プロッター&シナリオライター=設定および物語の構築者)である名木田恵子は本作以降、のちに『ふーことユーレイシリーズ』『ヴァンパイア・ラブストーリー シリーズ』『シャンプー王子シリーズ』などで知られるようになった上『赤い実はじけた』で作品が教科書収録されたほどの児童文学界の大御所であり、漫画原作者としても水木・名木田のほかに「加津綾子」「香田あかね」などの複数名義を持って作品の提供を行っている大作家である。
東映動画(現在の東映アニメーション)によりアニメ化され、1976年10月1日から1979年2月2日までNET→テレビ朝日系列で全115話が放送され、女児を中心に社会現象となり、その後、世界中でヒットした。
なお、現在においては後述する一連のトラブルのため『キャンディ♥キャンディ』という名称は基本的に東映アニメーションの登録商標となっている。
のちに作者二人によるキャラクタービジネスを巡るトラブル(のち著作権帰属問題に発展)により2001年以降、原作は絶版した。さらにアニメ版も再版・再放送ができない状態になっている。(後述)
概要
20世紀初頭のアメリカ中西部およびイギリスを舞台に、明るく前向きな孤児の少女キャンディ(キャンディス・ホワイト)が、様々な逆境や偏見に決して負けず、人々の愛情を受けて力強く成長する過程を描く。
作品のアイコン的存在である「丘の上の王子さま」の「おチビちゃん、笑った顔の方がかわいいよ」という台詞(cv:井上和彦)や、いじめっ子キャラの代表格的存在である縦ロールのイライザ&ヘタレのニール姉弟などの濃いサブキャラは特に有名。
ラストのドラマティックなどんでん返し(というか伏線の完璧な回収エンド)に至るまで、冒頭からまったくダレることがない大河少女漫画の傑作なので、中古で入手する機会があれば是非読んでみよう。
幻のアニメリメイク版
1992年に東映アニメーションは、きんぎょ注意報!の次番組に本作のリメイクアニメ版の導入を目指したが、テレビ朝日から「新鮮味が無い」等の理由で敢え無く潰える。正直、だいたいこのあたりからテレビ朝日は番組編成ジャンルの平衡化(アニメ枠の削減)を全面的に打ち出すようになったので、まさに時期が悪かったとしか言えない。
92年春の東映アニメフェアでキャンディ・キャンディの総集編が公開されたのはリメイク版放送前の予告編を想定した事は察しが付く。
なお、このお詫びにバンダイはいがらしゆみこにムカムカパラダイスの原作を提供するが、其れが下記の出来事の遠因になるとは当時は思いもしなかっただろう。
契約外の商業活動に関する問題/著作権裁判
発端
1995年に漫画担当のいがらしゆみこと日本アニメーションの間でリメイクの話が浮上する。当時の日本アニメーションの社長といがらしが北海道出身の同郷者であった縁から機知を得ていて出てきた話であり、日本アニメーションは世界名作劇場でフジテレビと深い繋がりがあったことからフジサンケイグループが全面的なバックアップをする事で企画が始動した。
原作者の水木杏子は、いがらしに説得されて「リメイク」という事で前向きな検討を始めたが、企画が進むにつれて日本アニメーションの上層部が「リメイクでは視聴者に与えるインパクトが乏しい(東映アニメーションとの権利関係の調整と整理で費用もかさむ可能性も出た)ので、続編ができないだろうか」と打診を始める。しかし水木は作品を守る立場から「すでに完結した作品である」(前作で円満に解決した物語を続編と言う形で再び動かすことは、前作を最後まで応援し結末に涙まで流して喜んでくれたファンに対する裏切り である)として続編の執筆依頼を断る。結果、東映側との権利交渉も暗礁に乗り上げ、日アニ版リメイクの話は企画段階で立ち消えとなった。
そして、このリメイク話が持ち上がった際、いがらし側の主導のもと講談社に委託していた著作権管理契約を解除させ(この契約の解除により東映動画が講談社と交わしていた版権契約も同時解除となった)作品を「水木といがらしの共同管理」として両作者契約の管理下に置いたことが、問題の発端となる。
この講談社との版権契約解除を知った東映アニメーションは大慌てで水木・いがらしの両名に別途、新体制での作品利用契約を結ぼうとしたが、いがらしが日本アニメーションでのリメイク企画の浮上を理由に東映側との再契約を拒み、結果、上述した東映アニメーションによる再放送やリメイクの目が完全に潰えた。(しかし東映側は自身が製作したアニメ版の権利を守る関係から商標登録を手放さなかった。この商標登録が前述した日本アニメーション側が苦労した上でリメイクを断念した権利関係の大きな原因といえる。なお『キャンディ♥キャンディ』の商標登録は1999年に下記の一連の騒動より東映版の権利を守ることを目的として水木より正式に東映アニメーションへと管理を委託許諾されている)
また両作者契約においては「キャンディの著作権管理を行う会社を水木・いがらしの共同で設立する」という事になっていたが、契約を取り仕切る顧問弁護士との間で契約トラブルが発生し、管理会社の設立が暗礁に乗り上げる。そして、業を煮やしたいがらしは、水木に無断で一方的に自分だけの管理会社を立ち上げるとともに、日本アニメーションリメイク企画に携わった各社に対して「この会社に水木もかかわっている」と吹聴するようになった。(実際には、この会社はいがらし側の単独経営であり水木は運営はおろか設立にすら関わっていなかった)
作画者の暴走と原作者の必死の説得
その後、いがらし側(と、その周辺業者)が水木の了承を得ずに(いわば事後承諾を前提としており、いわゆる「外堀を固めさえすれば原作者だって文句は言えまい」という皮算用パターンでの商業展開を目論んだ)キャラクター商品や翻訳版などを発売し続ける。最終的にはプリントもののイラストを限定高級版画と偽って販売するなどのビジネスに対しても許可を出すという事態に陥り、これに対して一部のファンから疑問の声が上がるようになり、そうした人々が水木に対して作品の置かれた窮状を訴えるようになった。
これに対して水木が慌てて、いがらしに対して事態の是正と状態の復帰(いがらし側が勝手に始めた「商売」の一時停止と被害者への説明)を求める。
だが、いがらし側は地方の業者や団体を巻き込む商法を展開し、巻き込んだ業者に対しては「原作者には商売の条件を必ず呑ませる。裁判も行われていない(あるいは係争中に過ぎない)のだから違法ではないので頑張って作品を使ってやってほしい」として強硬に商売を続行する。この、いがらし側の活動に巻き込まれた業者・団体は、一説には日本全国津々浦々にまでおよび、その数50団体以上に(単純に考えれ47の各都道府県1箇所に必ず1団体以上はある計算になる。まぁ海外の団体もあるので、話はそう単純でもないが)も上るとされる。さらに、いがらし側は水木に対して、いがらし側が企画した各種商売を無条件で追認するよう迫る。が、水木側が「商売の『実態』や『本質』がクリアになっていないものを追認などできない」とし、改めて「とにかく状況をクリアにしてほしい」と、いがらし側に説明を求めると、いがらし側は水木に対して「1995年に両者間で交わした作品利用契約を破棄する」と一方的に通告する。
両者の主張はどこまでも平行線をたどり、最終的には水木側がいがらし側を提訴する裁判にまで発展する事となった。本来この裁判は、いがらし側の「商売」は水木と交わした契約を逸脱した行為であるという事を確認させ、本作の商業展開を講談社との契約解除直後時点でのゼロベースに戻す(いがらし側の勝手な商売を止めさせる)事を目的としたものだった。
著作権の帰属問題へと発展
ところが、いがらし側は「絵自体の著作権は作画者にある」(水木の主張は前提から破綻している)と主張したため、著作権の帰属をめぐる裁判に発展してしまった。(このため水木側は「いがらし側の詐欺行為に対して起こした裁判であったが、著作権の主張によって裁判の趣旨がすり替わってしまった」と語っている)
さらに、いがらしは裁判において最終的に「原作には参考程度に目を通しただけで、殆ど自分が描いた」(ストーリーだっていがらしが自分で考えたもので、水木は原作者と言うのもおこがましい担当編集と同程度あるいはそれにも劣る程のアドバイザーでしかない)とまで主張する。
しかし裁判では水木が書き溜めた膨大な原作メモの存在や、それを元にして講談社から発刊(のち復刊ドットコムから復刻)された小説版の存在、そして他ならぬ講談社なかよし編集部と当時の担当編集によって「本作の原作者、すなわち設定やストーリーを考えた人物は、あくまでも水木であり、いがらしは単に水木の物語に絵を充てて描いただけである」という主張がなされ、これらを根拠として2001年10月に原作者である水木の勝訴が確定する。
最高裁の判定結果とその後
この判決により「キャンディ・キャンディ」の原作は
「水木のみが著作権を持ち、漫画は原作の二次的著作物である」
ことが再確認されることとなった。
すなわち本作は現在「原作者の水木(名木田恵子)の同意なしに、営利目的での作成、複製、又は配布をしてはならない」ことになっている。
これ自体は講談社が『キャンディ♥キャンディ』連載時に行っていた代理著作権処理と全く同じであり、上述の通り講談社自体が裁判ではそのように証言した。
しかし、裁判が確定してなお、いがらしによる本作のネームバリューを主眼に置いた「商売」は長らく止む気配を見せず(そのたびに水木側が弁護士経由で関係各所に質問状や警告書を釣瓶打ちする事態になった)結果いがらしに対する水木の怒りと猜疑と警戒心は(同時に「商売」を邪魔した水木に対するいがらしの怒りも)とことん大きくなり、両作者ともに完全に信頼が破壊された絶縁状態にあるため、今後も絶版および再放送の禁止は続くものと思われる。
もうひとつおまけに述べれば、いがらし側は2001年7月、東映アニメーションに対して商標登録無効裁判を起こしている。有体にぶっちゃければ作画者が東映にケンカを売ったことになる。
なお、前述の商標管理の委託許諾において、水木は東映アニメーションに対して「東映アニメーションが望むタイミングで再放送をしてよい」としている事を公言している。
アニメ版の再放送や他番組に対する映像使用の禁止が続いているのは、水木といがらしの関係悪化もさることながら、いがらし自身と東映アニメーションの関係の悪化も多分に影響していると言える。
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