概要
JR東日本が仙台地区で運用する、老朽化が進みラッシュ時の運用にも難があった455系電車・50系客車の置き換え用として1989年に投入された近郊形電車。1M1Tの2両編成が基本のステンレス車両で、外見は211系5000番台に近似しているが、側面の窓配置は異なっている。帯の色はイラストにあるように緑と赤。座席はセミクロスシートだが、クロスシート部分が「集団見合い型」とよばれるものになっているなど、かなり独特の配置をしている。
機器類は電機品は阿武隈急行の8100系と同系のサイリスタ位相制御タイプ機器を使い、モーターはMT61など当時最新のものを採用した一方、基本番台の台車はコストダウンのためDT32/TR69といった廃車発生品を転用している。
この結果、基本番台においては軽量ステンレスの車体と旧式の重量級の台車というアンバランスな組み合わせが仇となり、車輪の空転が特に勾配区間で多発した結果、運用面に大きな制約を生じることとなった。また、製造後の運用の変化から投入された仙台地区で運用上の不都合が目立ったこと(後述の余談参照)に加え、東日本大震災によってMT61を代表とする直流モーターの消耗部品が枯渇したこともきっかけとなり、製造後20数年とさして老朽化が進行しないうちに置き換えが始まることとなる。
2016年11月にE721系の追加増備(1000番台新製)が始まったことで0番台の運用は激減。急速に廃車が進んだ結果、2019年3月改正以降、仙台支社管内の定期運用は東北本線仙台〜岩沼間、および常磐線岩沼~浪江間のみとなった。なお仙台~原ノ町間は早朝と深夜の出入庫運用の1往復のみでこれ以外は全て原ノ町~浪江のみの運用であった。
2020年3月14日のダイヤ改正にて常磐線が全線で運転再開したことに伴い、0番代は全編成が定期運用を離脱した。
仙台支社での運用以外では、事故で運用を離れた701系の代走および保安装置更新に伴う車両不足の解消を目的に、2編成4両が秋田支社管内で運用についていたが、こちらも2019年11月に運用を離脱している。
また、廃車されたうちの1編成は仙台近郊の訓練施設にて車籍のない訓練機械に転用されている。
一方で標準軌対応の5000番代はまだまだ現役で、奥羽本線の福島〜米沢の運用は全てこの車両である。
番台区分
0番台
0番台は、全盛期には東北本線黒磯-利府・一ノ関間、仙山線仙台-山形間、磐越西線郡山-会津若松・喜多方間と広範囲で運用されていた。
台車をはじめとする部品は451系・453系や485系などの廃車発生品を一部流用している。製造当時は鉄道車両内での喫煙がまだ可能だった時期のため、クモハ方のみ内装にところどころ灰皿の跡が残っているのが特徴。
また、磐越西線用の編成は帯色が赤と黒の2色であり、マスコットキャラのあかべぇが描かれていたほか、パンタグラフ・排障器(スカート)が異なる構造だった(パンタグラフ・スカートが異なり帯色が従来のもの、という編成も存在)。この「あかべぇ色」の名で親しまれた編成は2019年8月に全廃となった。
2017年になって前述の理由から磐越西線用の4両が秋田支社に転属。帯色が前面黒、側面ピンクに変更され、奥羽本線院内〜追分間で2年間運用された。
5000番台
5000番台は山形新幹線開業に際して、標準軌に改軌される奥羽本線 福島-山形間(現在は 福島-新庄間 通称「山形線」)用にJRグループ初の標準軌車両として新製された。走行機器などが標準軌・耐雪仕様になっており昇降用ステップがないなど、内装・設備が微妙に異なる。台車はDT50系列をベースに標準軌仕様で新造されたため、基本番台のような重量的ミスマッチはあまり問題になっていない。帯の色も赤の部分がオレンジ(山形の県花であるベニバナをイメージしたもの)になっている。一部編成はワンマン運転用に改造され、運転台後部の座席が撤去され少ない。
700番台「フルーティア」
2015年4月から行われる「福島デスティネーションキャンペーン」に合わせて0番台1本がジョイフルトレインに改造され、新たな区分である700番台となった。
「フルーティアふくしま」として主に磐越西線郡山-会津若松-喜多方間を週末中心に運転されている。当初は定期列車に併結されての1日3往復の運転だったが、0番台の置き換えに伴い2019年より1往復のみの単独運転となった。
うち1両はカフェカウンター車両として、「クシ」の記号が付く。但し、この列車は全ての座席をスイーツセット付きの旅行商品として発売する。
余談
- 本系列は全て2両1編成であるが、基本番台は比較的利用客が多い仙台地区で運用されているためワンマン運転対応はなされていない。そのため1994年の701系電車投入以後は全て4-8両編成での運転であり、2007年3月の磐越西線への導入以前は定期ダイヤでの2両編成での運転は存在しなかった。磐越西線でもほとんどが4両編成以上での運転であり、基本番台を2両で1編成とすることへの意義が失われていた。このことがE721系の増備車が4両固定編成で投入される要因となる。
- この形式のデビュー前年まで、これもラッシュ時への対応を目的に455系の一部が717系電車に改造されており、前述の部品流用から、見ようによっては「717系の追加投入」と見ることもできる。113系と211系、415系の0番台と1500番台のような関係、と考えればわかりやすいだろう。顔も似ていることだし。
- 717系が廃車となってから10年後の2017年、運用を外れた719系はその大半が廃車まで留置されることとなったが、その主な留置先が、奇しくもかつての717系と同じ陸前山王駅であり、「大量の車両が駅構内に留置される」という10年前と同じ光景が見られた。投入の目的から廃車の手順、置き換えで投入された車両(いずれもE721系)まで、ほぼ一致してしまったことになる。
- ちなみに本形式の廃車回送には機関車ではなく、稼働中の同系列の車両が使用された。この点は717系などとはやや異なるところ。
- なお、本形式の廃車は同じ制御機器を使用している阿武隈急行8100系電車の車両メンテナンスにも影響を与えており、結果として同社は新型車の導入を当初の予定より数年早めることとなっている。やはりと言うべきか、こちらの新型車もE721系の派生型である。
- 標準軌用の5000番台の検査は当初仙台の新幹線車両センターに送って行われる予定だったため、その牽引車としてクモヤ143を交流・標準軌化改造した、新幹線区間も走行可能な車両であったクモヤ743が用意されたが、実際には701系共々山形で検査を済ませてしまうことになったため、落ち葉掃きや構内入れ替え程度の活用にとどまり、2014年に廃車となった。
- 前述のように構造上の理由から0番代は勾配区間での運用に難があったため、仙山線からは置き換えが始まる前の2013年に撤退している。
- 導入当初は砂撒き装置がなく尚更空転が多発しやすかったため、遅延が常態化する原因となっており、このため急遽設計変更または改造により砂撒き装置が取り付けられている。
- 逆に奥羽本線の701系5500番台はあまりにも軽量に過ぎ、結果的にこちらも勾配区間での空転がひどいため、通常は板谷峠区間で運用は行われない。(仙台支社の701系についても、同様の理由から仙山線での運用は僅かとなっている)