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十羅刹女の編集履歴

2021-01-07 22:46:29 バージョン

十羅刹女

じゅうらせつにょ

十羅刹女とは『法華経』に登場する十人の羅刹女である。

概要

大乗仏教経典法華経』の「陀羅尼品」という章に登場する羅刹女(ラークシャシー)たち。


『法華経』を持ち、あるいはいち章句でも覚えたり、読み上げたり、理解したり、修行を実践して完成させ、また数多のブッダたちを供養する信徒たちには大きな福徳がある、と説く釈迦如来の前に現われる様々な菩薩や超自然的存在たちが、『法華経』の信徒たちを護る陀羅尼(呪文)を釈迦に贈る、というのが「陀羅尼品」で描かれる情景である。

そこで十羅刹女は鬼子母神と共に登場する。鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』、闍那崛多・達磨笈多共訳『添品妙法蓮華経』と異なり、現行サンスクリット本では鬼子母神もまとめて羅刹女扱いされている。竺法護訳『正法華経』において「陀羅尼品」に相当する「總持品第二十四」には「十羅刹女」の表記は無いがメンバーについては言及がある。


十羅刹女と鬼子母神の誓い

十羅刹女と鬼子母神は釈迦に対し、『法華経』の信徒を護ると誓い、そのための陀羅尼を説明した。


そしてその陀羅尼によって、以下の文で列挙される存在たちが、法師たちを悩ませないように、と説かれる。

夜叉ヤクシャ)、羅刹ラークシャサ)、餓鬼(プレータ)、富単那(プータナ、臭餓鬼とも漢訳される、熱病を起こす鬼)や、吉蔗(クリティヤ、起屍鬼とも漢訳される、死体に取り憑いてゾンビのように動かす死霊)や、毘陀羅(ヴェータラ)や、犍馱(ガンダルヴァ)や、烏摩勒伽(ウマーラカ、鬼の一種。改心した個体が青面金剛の従者となっている)や阿跋摩羅(アパスマーラ、「無知」を意味する名を持つ鬼)、鳩槃茶(クンバーンダ)や、また夜叉吉蔗や人吉蔗(夜叉や人に取り憑いたクリティヤ、あるいはそうした妖術や術士か)にも悩まされないように、と説かれる。

一日や二日、数日や連日にわたって熱病に苦しまないように、男や女、少年や少女の姿をしたものが夢に現われて悩まさないように、とも説かれる。

そして偈文の形で、もし自分たちの陀羅尼の呪文を聞いてなお、従わずに説法者を悩ませるなら、その頭は破れて七つに分かれ、その様は阿梨樹(アルジャカ)の果実が裂ける(漢訳『妙法蓮華経』では「その枝が分かれるかのように」のニュアンス)かのようになる、と苛烈な意志が示される。

その罪は親殺しに匹敵するものであり、壓油殃(ごま油絞りの事。当時の製法では胡麻を突いて汁を出して発酵させるプロセスがあるがその際に虫が混じってしまい、死なせてしまう。)や秤欺誑人(秤で誤魔化し人を騙すこと)や調達破僧罪(破僧罪とは僧侶の集まりであるサンガの秩序を乱す罪。調達とはその罪を犯したと伝えられる僧デーヴァダッタのこと)のようでもあるという。

さらに『法華経』を受持し、修行する者を護り、安穏を得させ、患いと諸々の毒を消し去る決意を改めて語った彼女達に対し釈迦は祝福の言葉を述べ、彼女達に護法者としての任務に励むように告げる。


メンバー

サンスクリット語名『妙法蓮華経』での表記『正法華経』での表記
①ラムバー藍婆(らんば)有結縛(うけちばく)
②ヴィランバー毘藍婆(びらんば)離結(りけち)
③クータ・ダンティー曲歯(こくし)施積(せしゃく)
④プシュパ・ダンティー華歯(けし)施華(せけ)
⑤マクタ・ダンティー黒歯(こくし)施黒(せこく)
⑥ケーシニー多髪(たはつ)被髪(ひほつ)
⑦アチャラー無厭足(むえんぞく)無著(むぢゃく)
⑧マーラー・ダーリー持瓔珞(じようらく)持華(じけ)
⑨クンティー皇諦(こうだい)何所(かしょ)
⑩サルヴァ・サットヴァ・オージョーハーリー奪一切衆生精気(だついっさいしゅじょうしょうげ)取一切精(しゅいっさいしょう)

『法華経』には姿についての記述は存在しない。何名かは名前から想像できる程度である。彼女達の姿についての情報は『法華十羅刹法』のような他の仏典において記載されている。記載からいくつかのデザインが起こされている(仏像図彙の例)。


家族関係

十羅刹女の家族関係については経典には記述がない。


日蓮が『日女御前御返事』で彼女達のことを鬼子母神の娘だちだとしている。御書(日蓮の著作)には直接言及はないものの、日蓮宗系の鬼子母神信仰では鬼子母神の夫を半支迦大将(パーンチカ)とする説が支持されることが多い。この場合は彼が父親ということになる。

安土桃山時代から江戸時代初期の絵師・長谷川等伯(信春)が40代以前に描いた『鬼子母神・十羅刹女画像』では「南無妙法蓮華経」を挟んで向かって左側に半支迦、右側に鬼子母神が描かれ、その下に十羅刹女が描かれている。


信仰

日蓮による大曼荼羅(法華曼荼羅、題目曼荼羅)では鬼子母神と共に名が記される。御書『経王殿御返事』では題目(「南無妙法蓮華経」の字句およびそれを唱える事)を持つ者たちを鬼子母神と共に守護すると語られている。彼は同書において十羅刹女の中でも皐諦女(クンティー)の加護を特に強いものとしている。


『法華経』において八歳龍女の成仏が描写され「女人成仏」説の典拠とされる章「普賢菩薩勧発品」で『法華経』を護持すると誓った普賢菩薩と共に描かれる「普賢十羅刹女像」の構図が平安時代後期から登場している。


神仏習合の時代には神社にも祀られ「十羅刹女社」とも呼ばれていたが、明治時代の神仏分離令により社名と祭神を変更することを余儀なくされた。


本地

日本において十羅刹女それぞれに様々な本地仏が設定された。その先駆けとなったのが『妙法蓮華三昧秘密三摩耶経(法華三昧経)』である。この経典は不空訳とされるが、偽経である可能性が高いとされている。

このほか、『定珍抄』七下八、『五十巻鈔』第一二「本身事」、『白宝抄』「法花法雑集下」にある記載と付き合わせると以下のようになる。


十羅刹女『法華三昧経』『定珍抄』『五十巻鈔』『白宝抄』
①藍婆上行菩薩阿閦仏東方宝幢如来東方阿閦
②毘藍婆無辺行菩薩宝生仏あるいは花開敷仏南方花開如来南方宝生
③曲歯浄行菩薩阿弥陀仏あるいは薬上菩薩西方阿弥陀如来西方弥陀
④華歯安立行菩薩不空成就仏北方天鼓音如来北方釈迦
⑤黒歯釈迦如来大日如来中央大日如来、不動大日または不動
⑥多髪普賢菩薩普賢あるいは地蔵菩薩普賢菩薩普賢
⑦無厭足文殊菩薩無能勝(弥勒)文殊師利菩薩無能勝菩薩
⑧持瓔珞観世音菩薩観音あるいは無尽意菩薩弥勒菩薩観音
⑨皇諦弥勒菩薩文殊あるいは普賢観世音菩薩文殊
⑩奪一切衆生精気多宝如来大自在菩薩荼吉尼大自在天または捺吉尼

伝説

中世の伝説においては須佐之男の娘とされた。ただし「十人の女性」という形ではなく「一人の女神」という表現である。島根県石見地方の伝説では「胸鉏比売(むなすきひめ)」という個人名を持つ。

ヴァリアントにおいて、神代の時代に岸に流れ着いた彼女はやがて育ての親に天照大神との誓約(うけい)のシーンで誕生した宗像三女神のひとり田心姫が自身の正体であると明かす(俗説ではスサノオが龍女と契って産まれた娘とする)。

「十羅」は父神と縁深い出雲の国を攻める国の名前となっている。彼女はそこに帰り「十羅の賊」を打ち倒した事で「十羅刹女」の称号を与えられる。

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