概要
史実の釈迦本人に由来する部分があるとみられる「アーガマ」(パーリ語経典や漢訳阿含経として現存)と、大乗仏教運動で生み出されていった「大乗仏典」がある。
初期の経典
初期仏教の経典集が『アーガマ』、漢訳で『阿含経』である。日本にも伝わったが重要視されなかった。
口伝を文章化したとみられるが、当時のインドでは文字文化や年月日の概念が希薄で、成立過程には謎が多い。釈迦の真意があるとすればアーガマの中にしか無いだろうが、後代の創作も混じっていることゆえ、それがどれなのかは分からないし、56億年後ぐらいまで分からない。
東南アジアに残る上座部仏教では「アーガマ」のみを仏説として認めている。
大乗仏典
釈迦滅後から長い時間が経過し、仏教も宗派分裂が起き、現在の日本で主流の大乗仏教が生まれた。
大乗仏教徒がいかなる動機で在世時の釈迦の説法という体で経典を編んだかは不明である。自身を経典創作者と名乗る大乗仏教徒による証言は残っていない。
信徒共同体や教団の中で伝承されてきたものが後代に書物にされたのか(その場合、教団内では「歴史的事実」にである事もありえる)、個人か数人がその場で作成したのか、今となってはどの経典がいずれのケースに当てはまるのかを特定するのは不可能である。
いずれにせよ、アーガマより遅れて編纂され、そしてアーガマにない特徴や登場人物が加えられた大乗経典には釈迦本人が説いたにしては不自然な点が生じる事になった。
- 同じ仏説なら部派仏教も伝承しているはず。
- 観世音菩薩など大乗仏典にしか登場しない菩薩衆の存在。(菩薩が仏弟子と対話したり同席する記載がある以上、菩薩の存在が報告されないのは不自然)
- 成立した(編纂された)年代がアーガマと大乗経典とではズレがある。
- インドでの流通やサンスクリット語版が確認されていない経典がある。
大乗非仏説論は大乗仏教発祥当時からあったようで、大乗仏教側は
- 「大乗仏典が捏造されるって釈尊は言ってない」
- 「悟ってる人物が説いたのなら同じ」
- 「異教徒が捏造したという批判があるが、それにしては教えが高度」
- 「対煩悩に役立つ」
- 「言ってることが真実なので仏説」
等の弁明を行ってきた。
大乗仏典の出所については、
- 般若経典を竜宮にあったものとしたり
- 金剛頂経などを南インドの鉄塔の内部に隠されていたのを取り出したとされたり
- ヒンドゥー教のヴェーダのように聖者によって感得されたものとしたり
- 天台智顗の「五時八教」のようにガチで歴史上の釈迦が言ったこととしたり
様々な説明がなされてきた。
西域(中央アジア)や中国や日本でも釈迦の直説と称する新しい経典が作られ、どんどん膨れ上がって現在に至る。
中世の伝統宗派のいずれの祖も、大乗経典を「創作」とは全く思わず、彼等にとっては釈迦の直説であり、釈迦やそこに連なる祖師たちが伝えた教えに基づいて解釈するものであった。
大乗経典が二次創作だったことは、近代の研究で初めて確定した。これを「大乗非仏説」という。日本でも明治時代にはまだ抵抗があったが、現代では学説としては当の宗派・伝統教団も受け入れており、仏教系の教育機関でも教えられているが、法話などではうまくオブラートに包むので一般にはあまり知られていない。
また日本の大乗仏教の多数派である鎌倉仏教は基本的に鎌倉時代の新興宗教といってもいいぐらい開祖(祖師)が崇拝対象なので、問題になることは少ない。実際に今日の日本の最大勢力である浄土教は、興福寺、延暦寺、明恵、日蓮などから猛烈に批判され、今で言う新興宗教のような扱いをされていた。
逆に近代になると浄土教は仏教を換骨奪胎して偉いという逆説的な褒め方をされるようになっている。
宗派単位で拒否のスタンスを示しているのは日蓮正宗くらいだろう。同宗では平成に入った後にも信徒機関誌『大白法』で大乗非仏説を「破折」する文を掲載している。
法華経には党派争いが多発していることに嫌気がさしているような記述が多くみられ、当時から対立が激しかったようだ。
密教では説法場所を地球上ではない神話的な場所にしたり、説法相手を神々や菩薩衆に限定することで、アーガマや史実の釈迦像とあからさまには矛盾しない構造になっている。大日如来が金剛法界宮で説いたとされる『大日経』などがこれにあたる。密教では、教えるべきでない相手に伝える事すら越法罪という大罪に相応する。
論争をすれば圧倒的に不利な大乗側であるが、上座部圏と大乗圏の人口差に加え、合わせてもそれほど多くない状況で争っている場合でもなく上座部圏ではそれよりもイスラムとの対立が激しいため、今のところ大規模衝突には至っていない。
宗派
「宗派によって重要視する経典が違う」という点が大乗仏教の大変ユニークな特徴である。
- 浄土宗・浄土真宗…浄土三部経
- 天台宗・日蓮系…法華三部経
- 真言宗…大日三部経
- 禅(曹洞宗、臨済宗、黄檗宗など)…文字を超えた所に真理をみる「不立文字」の立場をとるが、論書では経典を参照し、勤行などで経文や陀羅尼を読経する。
- チベット仏教各派…インド仏教の最終形態である後期密教を含む大乗経典
般若心経のように多くの宗派で読まれるものもある。
ご利益
書き写したり、読み上げたり、持っていたり、その内容を教え広めることでご利益がある、と説く経典が多数存在する。
何語で読み書きしろとは書いてないので、現代語で読み書きしても良い。マントラは一応翻訳せずサンスクリットをそのまま読んでいる…のだが日本語訛りになっている。J-POPの英語と同じである。
保存目的にとどまらず、信仰実践や供養、精神修養のため多くの写経が行われてきた。
pixivにもイラストと経文を組み合わせた作品が投稿されている。