概要
ミリタリーSFとは、SFのなかでも軍事描写に重きを置いた作品のサブジャンル・俗称のこと。
スペースオペラや架空戦記との境界は曖昧で、重複している部分も多く、同一視されてしまうこともしばしば。
歴史
1871年にイギリスで出版された『ドーキング会戦』がその嚆矢とされる。
その内容は英国版本土決戦というべきもので、普仏戦争で勝利したプロイセン(=ドイツ)がフランスを降した余勢をかって英国本土へと侵攻。イギリス海軍はある種の超兵器で無力化されてしまう。旧態依然としたドクトリンと練度未熟な新兵や民兵といった数々の問題を抱えるイギリス陸軍は首都ロンドン郊外のド―キングで大敗北を喫することになり、最終的に大英帝国は崩壊。世界中の植民地も失陥し、プロイセンから多額の賠償金を課せられる結末をたどる。
(ベルサイユ条約の逆パターンを約40年前にやらかすとは…)
作者のジョージ・トムキンス・チェスニーは当時現役の工兵士官で、社会啓発を目的にこれを執筆したとされる。英国敗北というショッキングな内容は、後にドイツ帝国を形成するプロイセンの危険性をとにかく世間に印象づけるためで、言論や議論だけではインパクトが足りないと思ったらから、らしい。
よーするに、(ボーッとしてたらナポレオン3世のフランスみたいに大敗北からの国家滅亡という屈辱を味わうぞ)と、プロ目線で言いたかったらしい…この当時のフランス、ナポレオン1世の甥っ子が皇帝として統治していたのだが、件の普仏戦争でよりによって皇帝本人がプロイセン軍の捕虜になってしまい、国家としては相手に多額の賠償金と領土割譲を強要され、その国家が皇帝を見捨てるというメチャクチャ極まりない状態にあった。小説は、出版の前後に見捨てられた皇帝一家がイギリスへ亡命してくるという社会情勢も多分に影響を及ぼしている。
ミリタリーSFの始まりは、社会批判を根底にした近未来小説にしてディストピア物であったのである。
『ド―キング会戦』以降
この結果、内容のショッキングさや現役軍人によるガチめの軍事記述が話題を呼びチェスニーの目的はある程度は達成されたが、何よりもある種の娯楽小説として認知されたことがこの作品の立場を決定させた。
『ド―キング会戦』以降、「非現実的な、あるいは独自の世界観で展開される戦記作品」が多数執筆されるようになっていったからだ。
主なテーマは風刺であったり、男のロマンの追求であったりと様々だが、星間戦争やサイエンス、歴史改編といった多様な要素が組み込まれるにつれてバリエーションを増やしていった。
欧米では軍事関係者(退役軍人など)が自身の経験をもとに本格的な戦闘・戦略描写を綴るケースが多く、かなり活発なジャンルとなっている。
日本では、第二次世界大戦の敗北の影響もありしばらく停滞していたが、ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』等の諸作品や映画『スター・ウォーズ』等の影響を受けたクリエーターが『宇宙戦艦ヤマト』(松本零士作)や『ガンダム』シリーズ、『銀河英雄伝説』(田中芳樹作)といったスペオペ系の大作を発表し、再び人気ジャンルとなっている。
なお、pixivでは半ば『戦闘妖精・雪風』(神林長平作)の専用タグと化している。