ミリタリーSF
みりたりーえすえふ
ミリタリーSFとは、SFのなかでも軍事描写に重きを置いた作品のサブジャンル・俗称のこと。
現代人にとって常識となった物理法則とは異なる当時の常識(光速の限界が無い、太陽系の各惑星に住人が居る等)を元に描かれたスペースオペラや「宇宙戦争」等の架空戦記との境界は曖昧である。
ライトノベル等では、主人公が軍人などの戦闘員ではなく民間人であるなどより広い範囲を扱っている場合には戦争SFと呼ばれて区別される場合もある。
代表的な作品は機動戦士ガンダムシリーズとなる(ロボットアニメだが、戦争を中心とした作品である為)。
1871年にイギリスで出版された『ドーキング会戦』(英:The Battle of Dorking)がその嚆矢とされる。
その内容は英国版本土決戦というべきもので、普仏戦争で勝利したプロイセン(=ドイツ)がフランスを降した余勢をかって英国本土へと侵攻。イギリス海軍はある種の超兵器で無力化されてしまう。旧態依然としたドクトリンと練度未熟な新兵や民兵といった数々の問題を抱えるイギリス陸軍は首都ロンドン郊外のドーキングで大敗北を喫することになり、最終的に大英帝国は崩壊。世界中の植民地も失陥し、プロイセンから多額の賠償金を課せられる結末をたどる。
(ベルサイユ条約の逆パターンを約40年前にやらかすとは…)
作者のジョージ・トムキンス・チェスニーは当時現役の工兵士官で、社会啓発を目的にこれを執筆したとされる。英国敗北というショッキングな内容は、後にドイツ帝国を形成するプロイセンの危険性をとにかく世間に印象づけるためで、言論や議論だけではインパクトが足りないと思ったらから、らしい。
よーするに、(ボーッとしてたらナポレオン3世のフランスみたいに大敗北からの国家滅亡という屈辱を味わうぞ)と、プロ目線で言いたかったらしい…この当時のフランス、ナポレオン1世の甥っ子が皇帝として統治していたのだが、件の普仏戦争でよりによって皇帝本人がプロイセン軍の捕虜になってしまい、国家としては相手に多額の賠償金と領土割譲を強要され、その国家が皇帝を見捨てるというメチャクチャ極まりない状態にあった。小説は、出版の前後に見捨てられた皇帝一家がイギリスへ亡命してくるという社会情勢も内容へ多分に影響を及ぼしている。
ミリタリーSFの始まりは、社会批判を根底にした近未来小説にしてディストピア物であったのである。
『ドーキング会戦』以降
この結果、内容のショッキングさや現役軍人によるガチめの軍事記述が話題を呼びチェスニーの目的はある程度は達成されたが、何よりもある種の娯楽小説として認知されたことがこの作品の立場を決定させた。『ドーキング会戦』以降、「非現実的な、あるいは独自の世界観で展開される戦記作品」が多数執筆されるようになっていったからだ。
同じイギリスにて、1898年に「SFの父」H・G・ウェルズが名作『宇宙戦争』を発表したのだが、なんとこの作品には当時のイロモノ兵器であった水雷衝角艦が火星人が操るトライポッドを次々に薙ぎ倒して最後には刺し違えて沈むというミリオタならば興奮してやまないであろう名シーンが登場した。
●火星人のトライポッド VS 体当たりと魚雷だけが武装の水雷衝角艦『サンダーチャイルド』
恐らくは最古の地球なめんなファンタジー描写であると同時にミリタリー要素がスペオペ系統にも波及した瞬間でもあった。これ以降、他のサイエンティフィックな作品でも軍事描写が多く取り入れられたストーリーが多くなり出す。
既にこの段階でジュール・ヴェルヌが世界初の科学小説『月世界旅行』を1865年に発表している。
そして、漠然と空想科学小説等と称されることの多かったこれら科学考証やSF考証を組み込んだ作品は、1926年以降にアメリカでSF小説誌「アメージング・ストーリーズ」と「アスタウンティング」が創刊されSF(=サイエンス・フィクション)という概念が確立すると軒並みこれへと包括されることになり、『ドーキング会戦』や『宇宙戦争』の系統もこれに含まれることになった。
ちなみに、サイエンス感溢れるガチSFがハードSFと定義されたのは時代がさらに下った1957年のアメリカ人作家P・スカイラー・ミラーの発言とされる。(ややこしいなァおい……)
主なテーマは風刺であったり、男のロマンの追求であったりと様々だが、星間戦争やサイエンス、歴史改変といった多様な要素が組み込まれるにつれてバリエーションを増やしていった。
欧米では軍事関係者(退役軍人など)が自身の経験をもとに本格的な戦闘・戦略描写を綴るケースが多く、かなり活発なジャンルとなっている。
日本では、第二次世界大戦の敗北の影響もありしばらく停滞していたが、ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』等の諸作品や映画『スター・ウォーズ』等の影響を受けたクリエーターが『宇宙戦艦ヤマト』(松本零士作)や『ガンダム』シリーズ(富野由悠季ほか)、『銀河英雄伝説』(田中芳樹作)といったスペオペ系の大作を発表し、再び人気ジャンルとなっている。
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