概要
ハインラインの小説『宇宙の戦士』(Starship Troopers)に関するタグ。
1960年のヒューゴー賞受賞作品。
内容的には発表当初より帝国主義的だのファシズムだのと毀誉褒貶が激しいのだが、実際は少年が軍隊に入り、様々な経験を重ねて成長していく青春小説であると共に、「故郷をより良くしていけるのは、自分達しかいない」というテーマが描かれている。
原作あらすじ
人類が銀河全体に植民を始めている未来世界。主人公、ジュリアン・リコ(通称ジョニー)の一人称で語られる小説である。
高校の卒業を控えたジョニーは、親友が軍隊に志願する様子を見て「このままじゃ俺は、社長の息子ってだけの存在なのかもしれない」と感じて軍隊に志願する。ジョニーの新兵適性チェックの結果は、面白半分で大量に書き込んであった希望配属先に適性が無く、最後にオマケで記していた機動歩兵に配属される事となった。
オンナといえば野生ウサギしか居ない地獄の荒野、新兵訓練地アーサー・キューリー・キャンプで徹底的に鍛えられていくジョニー達。彼らを罵る恐怖の鬼教官ズイム軍曹どの。訓練中に戦死していく仲間。上官への反抗者を糾弾する軍事裁判。相次ぐ落伍者達。だが退役軍人であった高校のデュボア教師による激励もあり、やがてジョニーはカプセル降下機動歩兵として成長していく。キャンプ卒業後、久しぶりに街に出てみると、もう自分が民間人ではないという事を痛感するのであった。
それと並行して、世界では「クモ野郎」と呼ばれる宇宙生物アレクニドとの全面戦争が勃発していた。宇宙船ロジャー・ヤングから出撃するラスチャック愚連隊での実戦を乗り越えていくジョニーは、戦友の勧めで士官学校に志願し、職業軍人として生きる事を決断する。
ジョニーは、学校の授業で学んだ道徳観念を何度も思い出して自問自答する。軍隊とは何なのか?本作は「体罰の鞭打ち・暴力の肯定・軍隊の肯定」として議論を呼ぶ内容だが、作中で描かれてる世界観は、フィクションの中で描かれる理想的な軍事国家の姿であり、「大昔の愚行」として現代アメリカ軍の在り方すらも批判されたりしている。
機動歩兵の武装であるパワードスーツに関する描写は少なく、戦闘シーンよりも軍隊生活の描写や、軍隊肯定思想の方が圧倒的に多い内容である。だって超光速推進理論なんて専門外だし、宇宙拠点の座標とか軍事機密だと思うし、政府のお偉方が何考えてるのか軍人は知らないもんね。この作風は、「二等兵物語に宇宙服を着せただけ」と批判されたり、表紙&挿絵目当てで読み始めて挫折した人も多いらしい。
機動歩兵
パワードスーツを着込んだ機動歩兵は、敵惑星の衛星軌道上に侵入した母艦から、大気圏突入カプセルに包まれて打ち出される。歩兵の入ってない空カプセルも大量に撒き散らし、敵軍の警戒網を混乱させる。大気圏突入の熱でカプセルが割れていく中から飛び出した機動歩兵は、敵地で集合して総攻撃を行う。武器弾薬を使い切って、スーツ動力やジャンプ推進剤が尽きる前に、撤収用HLVが着陸した場所へ集合し、生存者全員で母艦へと撤収する。運用としては空挺兵に似ている。
本作は「人間が乗り込んで戦う人型兵器」の元祖的作品として扱われており、1977年に発売されたハヤカワ文庫版『宇宙の戦士』の挿絵(デザインはスタジオぬえの宮武一貴、作画は加藤直之が担当)に描かれた機動歩兵スーツ(メイン画像)は『機動戦士ガンダム』のモビルスーツのデザインに強い影響を及ぼしたと言われているが、これは日本限定の話であり、アメリカ本国では「戦闘用の宇宙服」といったデザインで挿絵が描かれている。
とはいえ『HALO』シリーズなど、本作に強い影響を受けたSF作品は数多い。
ガンダムの元ネタ
「機動戦士ガンダム」の企画当初は「十五少年漂流記」をヒントにした宇宙船での逃避行を題材にする予定だったが、高千穂遙からこの小説を勧められた後に、「あのパワードスーツみたいなメカ(軍用の人型量産兵器)を登場させよう」という方針が決定付けられた。この結果、「ガンダムの誕生に寄与したSF小説」としても知られている…その一方で、高千穂遙は「もしかして挿絵しか見てなかったの?」とも感じて、ガンダムを批判する立場になったりしていた。
普通のノリの良い青年が戦争と直面し、軍曹に鍛えられ、愛機に惚れ込んで、戦争の愚かさを全て理解した後、職業軍人という生き方を選択する、という本筋のストーリーは「機甲戦記ドラグナー」にも似ている。
映像化作品について
後に日本ではアメリカ本国での映像非公開という条件付きで映像化の権利取得に成功し、1988年にOVA作品としてサンライズ&バンダイビジュアルよりリリース(全3巻・計6話)。
1991年初頭にはテレビ東京にて放送されている。
原作の思想的な描写は抑えられ、主人公・リコが母の反対を押し切って地球連邦宇宙軍に入隊し、軍隊内でのしごきや仲間との軋轢、そして親しい人の死を乗り越えて心身ともに成長していくストーリーが描かれた。当時人気があった映画「トップガン」の影響も強い。
なお、1997年に公開されたポール・バーホーベンによる映画版『スターシップ・トゥルーパーズ』は、ストーリー自体は似てるのに「頭の悪そうな戦意高揚プロパガンダ」といった誇張演出が行われ、むしろ軍隊を批判する思想が強く現れている。
俳優の顔を隠してしまう「機動歩兵スーツ」も登場しないが、CGアニメ版は(比較的)原作に忠実で、実写映画三作目においては人型の歩行兵器「マローダー」が登場した。