概要
アニメに限らず小説や映画・マンガなど世界にも「不死身」や「不死」という設定は珍しいものではなくなっているが、大抵この設定を持つキャラクター達は治癒能力が異常に高かったり、自らの力量・技量・能力で危機を突破する、本体が別に存在するなど、その不死性にはなんらかの理由が存在するのがほとんどである。
主人公が不死ならば、展開を盛り上げるために意図的に他の弱点が存在したり、悪役の場合はその不死性を暴くことが物語のカギになっていたりする。
また、設定として存在しなくとも主人公が死亡することは事実上その作品を終わらせることになってしまうので、製作側の都合上でも主人公補正として主人公が死ぬことは極一部を除いてほとんど無い。
このように不死身・不死の設定を持つ、もしくは死なない「お約束」のキャラクター達が溢れるなか、全く新しいタイプの設定が登場した。それが異能生存体である。
解説
「ご覧の通りだ。キリコは死にません」
異能生存体とは「装甲騎兵ボトムズ」に登場する架空の生命体、及びその定義。
絶対に死なない生物個体であり、名付けたのはレッドショルダー部隊最高責任者ヨラン・ペールゼン大佐。
またの名を「異能者」、「触れ得ざる者」。
まず、肉体の再生能力が極めて高く、異常なタフネスさを誇るため、これだけでも常人に比べればそうそう死なない。しかし、それで片付けることの出来ないレベルの死因に至るまで寄せ付けない。これこそが異能生存体の本質と言える。
具体的には「物理的・生物学的に死なない」のではなく、「九死に一生を得る確率が100%なので結果的に死なない」。
死に繋がる要因を寄せ付けない作用は、異能生存体自身に発生することもあれば、他人の肉体や精神・さらには自然現象などの生物が操作することのできない「環境」や「状況」に干渉して発生することもある。
ペールゼンはこの異能生存体を「死なないことが遺伝子的に保障された者」と発言している。
これは生まれつきの能力であり、後天的な訓練などによっては獲得できず、さらに本人にのみ限定され、自分の意思に全く関係なく発生する。
そのため、「死なない者」と言うよりは「死ねない者」と表現した方が正しい。
このような極めて特異な存在である異能生存体だが、精神は普通の人間と全く変わらない。また、異能生存体の能力は”生き残る”ということに終始したものであるため、驚異的な生命力を除けば他に超能力じみた力は何一つ持っていない。ある意味「悪運が桁外れに強いだけの人」とも言える。
また、異能生存体の能力がどのようなメカニズムで発揮されるのか、周囲で起こる事象のどれが異能生存体が起こしたものなのか、という科学的な解明はOVAでも一切明らかになっていない。
OVAを含め、シリーズを通して異能生存体と認識された人物はキリコ・キュービィーただ一人だけである。
OVAで明らかになった内容
ボトムズ世界において最初に発見された異能生存体は細菌である。
「いかなる致命的な傷を負わせても死なずに本来の姿へ復元する菌が存在する」という情報を発見したペールゼンは、「死なない菌が存在するならば、死なない人間もいるはずだ」という考えに至る。
調査の結果では、人間の場合は、遺伝確率250億分の1(1/25,000,000,000)で発生(誕生)するということであった。
数字上ではキリコ以外にも異能生存体が存在することになるため、ペールゼンはこのデータを元に「死なない兵士」を見つけるべく特殊部隊を設立した。これが悪名高いレッドショルダーである。
しかし、異能生存体かどうかを判別する為には実際に殺してみなければ分からないので、単に「運がいい」だけの者も異能生存体と誤解されてしまうこともある。
実際に「ペールゼンファイルズ」に登場したバーコフ分隊のメンバーは、全員が極端に生存率が高かった故に異能生存体と認識されていたが、キリコ以外はただ単に運が良かっただけの普通の人間達であった。
パーフェクトソルジャーは異能生存体の能力を人工的に再現すべく開発されたものである。
アニメ本編ではキリコにPS疑惑がかかっていたが、PSの発想の元がキリコだったので因果が逆である。
劇中の描写
例1
- 至近距離から顔に向けて銃を撃ったら、なぜか外れた。
- 数十センチにまで近付いて撃っても、また外れた。
- だったら機関銃でハチの巣にしてやると引き金を引いたら、暴発して銃が壊れた。
例2
- 敵に追い詰められた時に、偶然味方が来てくれた。
- 大多数の敵に囲まれ絶体絶命の時に、敵に攻撃中止の命令が下った。
- 至近距離で左胸を撃たれたが、わずかに心臓を外れて一命を取り留めた。
- 自分の意思で冷凍カプセルに入り、宇宙へ放出される(完全な自殺行為)が、偶然発見、回収された。
- 意識を失う寸前に持っていた銃を(狙いもつけずに)撃ったら、跳弾が敵の弱点に命中し殺される事態を免れた。
例3
- キリコが異能生存体で、Aはそうでない。
- 個体としての身体的・知的能力は、Aの方がキリコよりも遥かに優れている。(キリコ<A)
- この状況でキリコとA双方を同じ状況に追いやると、Aが死んでしまうような死地でも(能力が劣っているはずの)キリコが生き延びる。
逃れられない苦悩と悲劇
異能生存体は、これ程までに異常な存在である。
歩く生存フラグとも言える存在だが、その周囲で異能生存体を巡っての争いが起こるなどして大勢の死人が出るようなことが多く、それは異能生存体が自分を生存させるために無意識のうちに発生させている状況とも言える。
異能生存体本人は因果律をねじ曲げる力を自在に使うことは出来ず、異能を制御や解除することもできない。ただし、死にそうになると絶対に発動するので、それを自覚していれば意識的な発動は一応可能(『赫奕たる異端』で墜落中の宇宙船から敵を脱出させた上で自分は居残り、宇宙船は無事地表に激突・大爆発したがもちろん生還した)。
逆に言えば、死んだ方がマシと思えるほどの肉体的・精神的苦痛から自殺を選んでも死ぬことは出来ない。
異能生存体が「死なせたくない」と思う者でも異能生存体本人を生かす為に犠牲になってしまうなど、その力が悪い意味で作用することも非常に多い。
実際、劇中でキリコと親しくなった者は極一部を除いてほとんど戦死、死亡している。
つまり、普通の者にとっては近づいただけで生死に関わる存在である。
キリコはレッドショルダー時代、ペールゼンから「お前は異能生存体だ」と告げられているが、TV版本編では窮地に陥った時に本気で焦るなど、自身が異能生存体であるということにどこか半信半疑のフシがあった。
ところが、全ての能力が圧倒的に勝っているはずのパーフェクトソルジャー、イプシロンに勝利したこと、そしてイプシロン本人から「お前はPSだ」と言われたことで、自身の特異性に戸惑い始める。
そして終盤、ワイズマンから「神の後継者」を告げられたことで、その疑いは完全に確信へと変わった。
当初は無口で無愛想、根暗と言われたこともあったキリコだが、仲間と行動することが多く、時に笑顔を見せ、時に若さゆえの生意気さを見せることもあった。
しかし、自身が異能生存体だと気づいた後(TV版後のOVA作品)は哀愁漂う暗い性格へ変わってしまい、無愛想というより無表情に近い顔つきになっている。
また、「自分と一緒に居ると戦いに巻き込まれるから」と、人と関わることを避ける、自分から危険な状況に飛び込んでいくなど、自暴自棄と言えるほど人が変わってしまった。
このように異能の力は本人を生かし続けるが、それは生物が本来持っている「生き残るために戦う」という本能を否定し、「戦うために生きる」存在にさせるものでもある。