概要
フォード・モーターが製造・販売しているアメリカンスポーツカー。別名「ムスタング」とも。
シボレー・カマロやダッジ・チャレンジャーなどと並ぶマッスルカーの代名詞的存在。
安価なスポーツタイプの中型車で、そのサイズ感から「ポニーカー」との愛称が戴いている。2ドアのクーペボディで4、5人乗り。
リー・アイアコッカ副社長の指導下で、第二次世界大戦以降に出生した「ベビーブーマー」世代向けに開発された。
若年層にも手が届き易い価格設定とほど良いサイズ感、若者受けするカーデザイン、マッスルカーの名に恥じない走行性能から大人気車種となり、初代の誕生から半世紀を経た現在でも根強い人気を誇っている。
歴代モデル
初代(1964年-1968年)
「フォード・ファルコン」がベース。
魅力的なスタイリングや「フルチョイスシステム」※を用意したことで幅広い層に受け入れられ、アメリカ自動車史に残る大ベストセラーとなった。
※オートマチック・トランスミッションやビニールレザーシート、横の部分を白く塗った、あるいは白いゴムを使用したホワイト・リボン・タイヤなど多彩なオプションを用意した。
2代目(1969年-1973年)
初代に比べ大型、高級化された。これらの要素が先代のファンに受けず、またオイルショックも追い討ちをかけ販売が低迷した。
1969年と1970年モデルにホモロゲーション・モデルの「BOSS302」と「BOSS429」がある。「BOSS302」は「トランザムシリーズ」向け、「BOSS429」は7リットル(429立方インチ)のHEMIエンジン(V字形の給排気バルブ配置とセンタープラグの半球型燃焼室を持ったクロスフローOHV方式のハイパフォーマンスエンジン)が搭載されている。
ハイパワーモデルの「Mach1」も追加された。
1971年モデルでは、「BOSS」シリーズは「BOSS351」のみとなる。「Mach1」シリーズには7リットルのコブラ・ジェット・エンジンを搭載。
1972年モデルでは、「Mach1」シリーズは5,751ccエンジンのみとなる。
3代目(1974年-1978年)
「マスタングII」が正式名称となる。販売不振だった2代目の反省や、当時の消費者の低燃費、小型化志向を受けてボディサイズも大幅に縮小された。
4代目(1979年-1993年)
小型化は継続され、FOXプラットフォームを採用した前輪駆動車となる。通称「FOXマスタング」。
しかし、1980年代前半には好景気でハイパワー指向が復活してきた。1980年代後半にモデルチェンジの予定だったが、フォードの社内事情(後述)により1993年まで生産された。
5代目(1993年-2005年)
※前期型
※後期型
引き続き、FOXプラットフォームを改良して使用。
1999年に登場した後期型は、前期型からかなりデザインが変わっている。また、この代からデザイン面での初代回帰が垣間見え始める。
6代目(2005年-2014年)
※前期型
※後期型
DC2プラットフォーム(2004年の「北米国際オートショー」で発表)をベースに初代を意識したデザインを採用し、5代目で問題視された衝突安全性の不備が改善された。
ドリフト仕様として評価が高く、フォーミュラDにはフォードワークス製を含む数台がエントリーしている。
初代をリスペクトした秀逸なカーデザイン等から、歴代の中でも上位に入るほど大人気の世代でもある。また、初代に次いで認知度も高く、マスタングと言われたらこの6代目をイメージする人も少なくない。
7代目(2015-)
※前期型
※後期型
サイズを大きくして車高を下げた。アメリカ本国以外での販売も視野に入れており、マスタングとして初めて右ハンドル仕様が採用された。また、これまでの5リットルのV8エンジン以外に、2.3リットルのエコブーストエンジンが選択可能になった。
カーデザインは先代同様、初代をオマージュしたものとなっている。
2018年にマイナーチェンジが施され、後期型が登場。フロントデザインがより初代に近い造形へと変化した。
後述の通り、フォードが2016年で日本市場から撤退したため、日本国内に正規輸入販売されたマスタングは同世代の前期型が最後となる。
日本での販売
1994年、フォード・ジャパン・リミテッドにより正規輸入が開始され、廉価版グレードは200万円台前半の車両価格で投入され、話題になった。また、東京で夏の渋滞時にエアコンテストを行うなど、日本市場を大きく意識していた。
しかし、2016年下半期でフォードが日本市場から撤退し、日本国内における販売は終了した。
もっとも、アメリカ本国から並行輸入を行なっている業者も存在するため、日本で新車のマスタングを購入できなくなったわけではない(正規輸入ではないため、業者の良し悪しは消費者自身で判別する必要がある)。
余談
- 1960年代にシェルビーによるカスタム車のベースとなった。2005年には「2007シェルビー・GT500」が発表された。
- 1967年モデルは映画『ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT』に緑色に白のストライプバイナルで登場。1968年モデルは映画『ブリット』に登場している。2001年には、『ワイルドスピード』仕様車が北米限定で発売された。これは劇中で使用された外装をヒントに作られたもの。
- 1971年モデルが映画『007・ダイヤモンドは永遠に』のボンドカーに採用された。
- 1973年モデルが映画『バニシングin60″』で主役の「エレノア」として採用された。
- 漫画『名探偵コナン』に登場するFBI捜査官・赤井秀一は、6代目ベースの赤いシェルビーを愛車としている。また、劇場版『天国へのカウントダウン』ではパーティーのカウントダウンゲームに(偶然)成功したおっちゃんへの景品としてオープンモデルの5代目が登場したが、最後は水没しておじゃんになってしまった。
- ハリウッド映画『トランスフォーマー』シリーズに登場するディセプティコンの斥候・バリケードはマスタングベースのパトカーに変形(擬態)している。第1作では6代目ベースのサリーン・S281、第5作『最後の騎士王』では7代目モデルの姿をとっている。
- 1973年、JA共済連栃木から栃木県警察に「Mach1」モデルのパトカーが寄贈され、高速取締用車両として1984年まで使用された。現在は鹿沼市の免許センターに展示されている。
- フォードとマツダが共同開発し、1988年に製造・販売されたプローブは、もともと当時の新型マスタングとして企画・開発されたものだが、FFな上にV8エンジンが搭載されてないという仕様からマスタングファンの猛反発が予想されたため構想は頓挫、FOXマスタングのロングモデル化に至った。
- 2007年、光岡自動車が6代目のコンバーチブルをベースに「ガリューコンバーチブル」を製造している。