箱根駅伝
はこねえきでん
概要
大学駅伝のひとつ。正式名称は東京箱根間往復大学駅伝競走。
東京都千代田区(読売新聞社本社前)から神奈川県足柄下郡箱根町(芦ノ湖湖畔)までの往復。往路(1月2日)と復路(1月3日)では少しコースが違う。1区21.3km、2区23.1km、3区21.4km、4区20.9km、5区20.8km、6区20.8km、7区21.3km、8区21.4km、9区23.1km、10区23.0kmで往路107.5km、復路109.6km、往復合計で10区間217.1km。
1920年から戦時中の中断を挟み2022年の大会を以て第98回を数える。「箱根から世界へ」をコンセプトとし、オリンピックのマラソンや長距離トラックの出場選手の数々を生み出した。
位置づけはあくまで大学駅伝のうち関東地区チャンピオンを決定する地方大会である(関東学連に所属する大学に参加資格がある)。だが開催時期が正月ということもあり、山梨放送以外の地方局でも、テレビでは日本テレビ系、ラジオではNHKラジオ第一や文化放送などNRNの一部局で2日間にわたってほぼ完全中継され、(裏番組はほぼ再放送しかないので)視聴率も関東ではプロ野球をはるかに上回る25%を超えるため、知名度は全国的と呼んでも過言でないほどやたらに高い。日本全国の大学が出場し全国チャンピオンを目指す駅伝は別に「全日本大学駅伝」という競技会があるのだが(後述)。
CMに切り替わる際のBGMに『ネバーエンディングストーリー』の曲(喜びの飛行)が使われていたのも有名である。
(※ちなみに、現在では久石譲作曲のメインテーマに変更されている)
知名度が高すぎるゆえ、10月に開催される「予選会」も放送されるほか、関東の大学とそれ以外の大学との実力の差が激しく(これについては後述)、全日本大学駅伝ではサブのメンバーだけで上位シードが独占されてしまうケースが多い。
ちなみに、第90回記念大会は東洋大学が往路・復路・総合いずれにおいても優勝となり、特に復路では第88回大会で出した復路新記録を東洋大学自体が更新するというある意味快挙を成し遂げているが、第91回のコース変更ですべて「参考記録」にされてしまった。
91回大会では青山学院大学の神野大地が(参考記録ではあるが)柏原竜二の記録を上回り、3代目山の神としてたたえられ、初優勝に貢献した。また、この大会で史上初となる10時間50分切りを果たした。しかし93回のコース変更で再び参考記録にされてしまう。
コースの見所
全10区間で争われるが、なかでも「ごぼう抜き」が定番の『花の2区』、数々の伝説と有名選手を生んだ山登りの『5区』が大きな見所である。かつて5区は82回大会から92回大会までは全区間最長距離であったが、選手への負担や5区の総合成績に対する貢献度が大きすぎることから93回大会からは現行の20.8kmに短縮された。しかし今でも日本の全駅伝コースのなかでも間違いなく最難関レベルであることは変わりなく、活躍した選手は「山の神」として讃えられる。また、92回大会からは函嶺洞門を迂回するバイパスの開通に伴い、函嶺洞門が通行禁止となった。
また、その真逆となる山下りの6区は、陸上競技の知識の少ない者には『楽』なコースと思われがちだが、この急激な下り勾配のコースは膝への負担が半端なく大きく、このコースを走った選手はしばらく休養を余儀なくされるので、5区以上に走りたくないという選手は多いそうである。
また、復路の戸塚、鶴見中継所では駅伝におけるみんなのトラウマでもある無念の繰り上げが毎年起きているのが(悪い意味で)恒例である。
ちなみに、沿道には各大学の応援、駅伝にはよくある沿道住民の歓声や併走しようとする人のほか、知名度の高さから、全国からファンが集まってきたり、テレビ中継に出たいがために目立つ看板や格好をした人が出没したりすることでも有名(特に有名なのは、6区のリラックマと7区のフリーザ様と2018年のアンパンマン号)。ただ、目立つ看板の中には意味のあるものもある。(例として、復路二宮チェックポイントの「○_○」の看板はVHSやカセットテープの形から来ており、「巻き返せ!」という意味らしい)
問題点
高校野球にも言えることだが、近年ではその知名度の高さゆえ大学の宣伝代わりになってしまう部分もあり、それに伴う「負」の部分も浮上している。実際、東京国際大学など偏差値基準では人気を得られない大学が箱根本戦に出場したことで志願者数が増えていたりする。
また、陸上競技のひとつに過ぎない駅伝の出場に特化し過ぎた「駅伝偏重」部の存在、上記の通り、関東限定の地方大会ゆえに他地域からは出場できない仕組みになっているため、全国の長距離有力選手が関東に集まってしまい若手選手層の国内格差が拡大している。駅伝偏重問題においては全国大会である出雲駅伝および全日本大学駅伝の開催により、解決を目指そうとしてはいるものの、箱根駅伝の前哨戦として捉えられてしまい、未だに問題解消に至っていない。
オリンピックにおける日本の長距離走競技の成績に関しても、メダリスト候補と目される有望な日本人選手が女子選手に比べ男子にはなかなか現れないという現実についても、しばしば箱根駅伝の高人気が原因のひとつとして挙げられ、各所で議論になることも珍しくない。
曰く、「駅伝とマラソンではトップレベルで競うための練習方法が異なり、転向が簡単ではないから」、「学生の長距離走選手は箱根が最大の目標になっている者が多く、箱根後は気力や体力が燃え尽きてしまうから」などなど。
使用シューズについてもNIKE製ヴェイパーフライが登場した2010年代後半以来、過去に類を見ないほどのハイスピードレースと化している。現に96回大会では10区間中7区間が区間新が出るなど前人未踏の好記録ラッシュが続き、優勝した青学が10時間45分23秒と過去最速タイムを叩き出している。また、その2年後の98回大会でもさらに2分近く縮める10時間43分42秒で制覇した。気象条件さえよければ今後優勝タイムが10時間40分台が当たり前の世界になってしまうだろう。なお、98回大会で1区、9区の区間記録が更新され、8区を除く9区間が2020年代の区間記録となった。
区間記録および大会記録
区間記録
1区 1時間0分40秒 (98回 吉居大和 中央大)
2区 1時間5分49秒 (97回 Y.ヴィンセント 東京国際大)
3区 59分25秒 (96回 Y.ヴィンセント 東京国際大)
4区 1時間0分30秒 (96回 吉田裕也 青山学院大)
5区 1時間10分25秒 (96回 宮下隼人 東洋大)
6区 57分17秒 (96回 舘澤享次 東海大)
7区 1時間1分40秒 (96回 阿部弘輝 明治大)
8区 1時間3分49秒 (95回 小松陽平 東海大)
9区 1時間7分15秒 (98回 中村唯翔 青山学院大)
10区 1時間7分50秒 (98回 中倉啓敦 青山学院大)
大会記録
往路 5時間21分16秒 (96回 青山学院大)
復路 5時間21分36秒 (98回 青山学院大)
総合 10時間43分42秒 (98回 青山学院大)
余談
ここ数年、出場選手のオタク化が激しいことも取り上げられるようになってきた。
長距離持久走という競技の特性上、各練習種目に常に競技場が必要というわけではないのが遠因といえる。つまり、選手たちは専用の練習用トラックでの練習が終わり、施設が閉まった後でもロード練習に切り替える長い練習を行う。練習が終了し、夕食や入浴、洗濯などが重なると自由時間が深夜になり、寮生活唯一の娯楽であるテレビでは、一般的なアイドルや女優が出演する番組が少なく、深夜アニメの放送時間に直撃してしまったという経緯がある。
ほかの競技の選手は雑誌などで取材される際、好きな女性などを尋ねられると、女優やグラビアアイドルなどを答えることがほとんどであるが、箱根駅伝出場選手の多くは声優やネットアイドル、そしてアニメキャラクターそのものと答えている。
挙句の果てにはとあるアニメキャラと結婚し娘まで生まれたと宣言した選手まで現れている...その名前は...
そして山の神の一人である柏原竜二が、大好きな声優と共演まで果たしたことで多くの選手に夢を与えて、以降自重することが無くなった模様。