S線上のテナ
えすせんじょうのてな
だから、聞かせて――――
あなたの「命の調べ(おんがく)」を
あなたと一緒に奏でたい
わたしたちの「命の調べ(みらい)」を
岬下部せすなによるストーリー漫画。略称はSテナ(えすてな)。
世界のあらゆる命を形造る『命の譜面(ソウル・スコア)』をめぐり、その「調律」をもって世界の命を守る使命を持つ「命の調律師」たちの活躍を描く物語。
タイトルにあるS線とは『命の譜面』(Soul Score)の事であり、またその譜面を構成するコード(ソウルコード:Soul chord)の事。転じて、登場人物たちの人生・生きざまの事を意味する。
芳文社の『まんがタイムきららフォワード』に連載された作品。単行本は「まんがタイムKRコミックス」(B6判)より全9巻。連載期間は2006年3月号(創刊号)から2010年8月号まで。
『きららフォワード』創刊時、まんがタイム系姉妹誌において『悪魔様へるぷ☆』(『まんがタイムきらら』『まんがタイムきららキャラット』連載)『えすぴー都 見参!』(『まんがタイムスペシャル』)などのストーリー4コマ漫画で人気を集めていた、岬下部せすなによる本格的ストーリー漫画で『きららフォワード』創刊時のキラータイトル(看板作品)として定められていた作品。そのため本作連載中、幾度も本作が当時の『きららフォワード』の表紙を飾った。
『きららフォワード』独立創刊時の表紙を飾ったのも本作である。
2009年にフロンティアワークスよりドラマCDが出された。
あらすじ
セカイは音楽で、できている―――
音楽教室の講師として日々を食い繋ぐ音楽家のタマゴである響恭介は、飛び出した子どもをとっさに助けて見舞われた交通事故がきっかけで周囲の人々の周りに五線譜と音符(いわゆる音譜)が見えるようになる。のみならず、その音符たちが奏でる音も聞こえるようになった。しかし恭介に見える音譜は他の人には見えず、聞こえる音も他の人には聞こえない。
そんな異常事態に悩まされる恭介の前に「命の調律師」を名乗る少女、テナー・フォルテシアン(テナ)が現れる。テナは「おとなしく私のモノになりなさい!」と不穏な言葉を放ち恭介に襲いかかり、恭介から音譜を顕現させる。自身からも音譜が飛び出てきたこと、さらにはテナがその音譜を操れる事を知り恭介は驚くが、テナもまた恭介が音譜を認識できている事に驚いた。
実は恭介が見ていた音譜は「命の譜面」(ソウル・スコア)と呼ばれる「存在を形造る、生命の設計図」のようなもの。恭介がこれを認識できるようになったのは件の交通事故の際「命の譜面」に異常を来す「コピーミスの音符」悪性音符に取り憑かれてしまったからだった。テナは「命の調律師」の総本部から「悪性音符」の回収にやって来た調律師だったのである。
「悪性音符」の回収は新鋭の調律師たちにとっては自らの力を示すチャンス。そのため多くの命の調律師が悪性音符を狙っていた。
一方で恭介に取り憑いた「悪性音符」は事故のせいで恭介自身の「命の譜面」にガッチリと取り込まれ無力化されており、テナの力では外す事ができない。そして恭介に食い込んだ「悪性音符」は無理に取り外してしまうと恭介の命を奪ってしまいかねないほど厄介な事になっていた。このままでは恭介は他の見境の無い調律師たちに殺されてしまうかもしれない。
そこでテナは恭介を「下僕」として「保護」する事を決め、ここにテナによる「悪性音符」回収のための凸凹コンビが(恭介の意思は無視して)結成されてしまう。
しかし恭介に「悪性音符」が取り憑いている事象はいかんともしがたく、結果として恭介の持つ音符を狙って調律師たちが集いドタバタが加速。しかも何の因果か集まってきた者たちがほぼテナの同期で競争相手の調律師であった。
ドタバタ騒ぎの結論として、結局テナは同期たちと協定を結ぶことを決意。ひとまず恭介の音符は共有という形をとる。
ところが恭介の存在は調律師本部の楽団員(回収作戦の本隊)の知る所となる。恭介を「貴重なサンプル」として「強制回収」(=本人の意思を無視した拉致監禁)に動こうとする楽団に対してテナたちは反発。叛逆の疑いを持たれた彼女らを救ったのは、テナの同期にして(一方的な)ライバルで名家出身の調律師アルン・スフォルツだった。
アルンは場を治めるために楽団に対しては恭介の譜面は自らの家が「保護」する形式を取り、自身もテナたちの協定に加わる。
そしてテナたちは状況の是正と打開を求めるため「命の調律師」の総本部へと向かう。
しかし総本部では「悪性音符」回収プロジェクトの裏で「強硬派」と呼ばれる調律師たちによって「調律師が全ての人間たちの頂点に立つ」ための陰謀が張り巡らされていた。
それは本来、世界の裏で人々のために動く調律師たちの本義には反する行為。陰謀に巻き込まれたテナたちと恭介は困難に巻き込まれながら、調律師の本義を信じて戦うことになる。
しかし、それは――――他ならぬ恭介自身の「隠された出自」と、それゆえの「因縁」に立ち向かう事であった。
命の調律師たちにまことしやかに囁かれる、全ての命の根源にして造物主となるべく生まれる「始まりの譜面」の存在。その事によって、かつて調律師の里にいたキタラ先生とその妻コルダ看護師という、全ての調律師たちに愛され祝福された夫婦に降りかかった悲劇。
「始まりの譜面」を持って生まれてしまったキタラとコルダの子と、その子どもを「大恩あるキタラ先生の忘れ形見」として命に代えても守ると誓いを立てたキタラの教え子たちの苦闘。
テナたちの戦いは、それら多くの因縁の「はじまり」に至るものであった。
登場人物
※CVはCDドラマ版のもの
- 響 恭介(ひびき きょうすけ)
- CV:杉田智和
- 本作の主人公。私塾の音楽講師。うだつの上がらぬ24歳。
- 交通事故をきっかけにして悪性音符に取り憑かれ「命の譜面」を見る事が出来るようになる。のち「命の譜面」を聞き分ける力がテナを凌ぐものである事が明らかになり、幾度となく彼女に利用されるハメに陥る。さらにのちには、なぜか「命の調律師」の能力(命の譜面の調整能力)を発動させた。
- テナに対しては第一印象が最悪だったが、その出自や努力を知って認識を改め、かけがえのない相棒として共に苦難を潜り抜けていく事となった。
- ちなみに物語が進むに従って「十代の少女たちに囲まれた(うち数人からは明らかに好意を向けられている)青年」という傍目にはハーレムものの主人公もかくやという状況にあるが、本人の好みのタイプは年上のグラマーな(できれば母性あふれる)女性である(琴子さんからはマザコンまで指摘される始末)ため、本人的には「ワガママ娘たちに振り回される保父でもやってる気分」である模様。
- テナー・フォルテシアン/テナ
- CV:田村ゆかり
- 悪性音符を追って恭介の前に現れた命の調律師。一応15歳だが、何をどう見たって12歳にしか見えない、完全無欠の幼児体型と見事なまでのまな板の持ち主。
- 元は孤児。命の調律師としての能力があった事から本部に「回収」され、以降は「生きるために」調律師としての腕を磨いた。その甲斐もあって調律師としては成績優秀なAAAクラスの実力の持ち主。が、その過去から頼れるものが何もなく、肩肘張って孤高に生きてきてしまった(命の調律師は名家出身の者が多い。手腕も歴代の蓄積が強くモノを言うため孤児出身では血筋の浅さから権限は弱い)ため、人に対する時には上段から見下し居丈高に接する事が多い。要はツンデレのコミュ障。特に一般人に対しては「わたしたち『命の調律師』が守ってあげている保護対象」という意識が強く下僕扱い。しかし恭介に対してあからさまに心惹かれている(周囲の人々にはバレバレ)が、本人がコミュ障であるがゆえに意地っ張りと照れ隠しからぼこり愛になってしまう事、多々。
- ちなみに作者はテナの事を「意地っ張り」で「イジけて」その結果として「いじらしい」醜態をさらし(周囲を含めて)「デレる」イジデレであり、ツンデレとは微妙に違う、と評している。
- 来日してから和菓子にハマった。特に恭介の作るみたらし団子が大好物になり、傍若無人な居丈高でありながら胃袋の主導権はガッチリ恭介に握られてしまっている。
- メゾンヌ・リチェルカーレ/メゾ
- CV:堀江由衣
- テナの同期で発明バカ。恭介を巡って敵対した際「命の譜面」を直接強制共振させるメゾ・バズーカを使いテナを足止めした……が、それでもテナがしぶとく動くものだからテナのぱんつを奪った。自分で「半端はキライ」と述べる通り、結構容赦がない。
- 調律師の名家リチェルカーレ家の次女。元々は学究の家だったが、調律師間の政治バランス調整や、これを利用した特許の簒奪と独占によって伸し上がってきた家。しかし本人はそうした政治の世界に辟易している。そんな中、同じく学究の一族であるビレー家の兄妹と出会いリチェルカーレ家とは正反対の「人々のために学問をして、その結果は広く門戸を開く」姿勢に感銘を受け、後に相方となるビレー兄妹の妹・ソプラと親友になる。しかしリチェルカーレ家は政治力を駆使し言うままにならぬビレー家を迫害。メゾはその実家のやり方を嫌い、ついに家出してビレー家に転がり込む事になった。
- ビレー兄妹の兄であるカンターを先輩と深く慕っており、ほぼベタ惚れ。紛れもなくビレー家にお嫁入りしたい勢いである。
- ソプラ・ビレー/ソプラ
- CV:能登麻美子
- テナの同期で研究バカ。上述の通りビレー家の娘で、メゾの相棒。恭介に対して研究対象(モルモット)として興味を持つ白衣のメガネっ娘。
- おっとりとした性格で大人しいが、存外と鋼メンタルで、本人は「望む研究ができればあとはどーでもいい」という、結構なマッドサイエンティスト気質の持ち主。この気質によって「恭介に同化した悪性音符の優先回収権はあくまでテナだが、恭介の『命の譜面』や悪性音符分離の研究はメゾとソプラが行う」という共有協定が成立した。この協定によりメゾとソプラも恭介の存在を本部から隠す必要性が生じ、そのために様々なアイテムを恭介に供与する事となった。
- アルン・スフォルツ/アルン
- デュオン・オルゲル/デュオン
- カンター・ビレー
- 学究一族ビレー家の当主代行。ソプラの兄でメゾの想い人。
- 研究の事しか頭に無い、ザ・変人。メゾの姉であるベルリラ・リチェルカーレとは(名家同士で年が近いため)幼馴染同然の間柄だが、政治大好きの彼女とは全くウマが合わず、ベルリラからの縁談のアプローチをされたもののゆえにこそ「くだらんな」の一言で豪快に切って捨てている(=メゾの姉をフッている)。結果ベルリラを怒らせ、それがビレー家没落のトドメとなった。
- コントラルト・ドゥドゥー・ガブリエル・ド・ラ・ジェローデル
- 音無琴子(おとなし ことこ)/コトコ・シンフォニエッタ
- 恭介が利用している音楽店「アダージョ」の店主。恭介の母の古くからの友人。恭介の母亡きあとはその遺志を継ぎ、恭介の後見人となる。
- その正体は、第2楽団(医療部隊)に所属していた元・命の調律師であり恭介の母コルダの腹心の部下。コルダの事は「先輩」と呼ぶ。実はテナと同じく孤児出身で、コルダを姉のように慕っていた。ゆえに子の事情で命の調律師を出奔したコルダに付き従った。
- 海影こだま(みかげ こだま)
- 恭介が運営する音楽教室の生徒。気が強く、すぐ手が出る。
- 月島ひかり(つきしま ひかり)
- 恭介が運営する音楽教室の生徒。純情。恭介とテナが事故で絡み合ってしまった現場を見た際には顔を赤くしてフリーズした。
- 空知なすの(そらち なすの)
- 恭介が運営する音楽教室の生徒。無表情で空気。
- 星子のぞみ(ほしこ のぞみ)
- こだま・ひかり・なすの3人娘の幼馴染。体が弱く入院している。3人組が病院でボランティアの演奏会をしたきっかけとなった少女。退院したら恭介に音楽を教えてもらう約束をした。
- 胡弓(こきゅう)
- テナ・メゾ・ソプラの調律師としての師。超偏屈で通っている女性で調律師の本部とはある程度の距離を置いて隠棲している。そのためテナたちが恭介の事で本部と対立してしまった際には真っ先に頼ろうとした。
- 見た目にはミドルティーンの少女だが、彼女自身も「肉体の成長老化の進行が遅い譜面」を持つ「保護対象譜面」の持ち主。江戸時代中期の日本の生まれで御年300歳。すなわちロリババア。江戸時代に、その譜面から迫害を受けて「命の調律師」に「保護」され、密かに国を逐電して以降、隠棲を続けていた事から明治維新を知らず、恭介からツッ込まれるまで徳川幕府が現在(平成)まで続いていると思っていた。
- のちにキタラの母かつコルダの義母(姑)である事が明かされ、ガチの意味で「ロリな見た目のお祖母ちゃん」だった事が判明する。