ゆうえんち-バキ外伝-
ゆうえんちばきがいでん
概要
『ゆうえんち -バキ外伝-』は、板垣恵介による漫画作品刃牙シリーズの公式外伝小説。2018年から2021年にかけて、本編『バキ道』と同じく週刊少年チャンピオンで連載された。週刊少年漫画誌上での小説連載という異例の形式での展開となった。
単行本は全5巻。
作者は、数多くの格闘小説を手掛け、特に『餓狼伝』で板垣とのコラボ経験もある夢枕獏。挿絵は『ミドリノユーグレ』の藤田勇利亜が担当している。
タイトルが示す通り第2部『バキ』との関係が深く、「最凶死刑囚編」の前日譚に当たる。
主人公の葛城無門をはじめ、新キャラながら刃牙シリーズのメインキャラと密接な関わりを持つ人物が多く登場し、刃牙シリーズの世界を大きく深く広げる物語となっている。
さらに、夢枕作品である『餓狼伝』『獅子の門』のキャラクターもゲスト出演しており、両方を追っているファンにはなお楽しめる夢のコラボ作品である。
また、漫画誌での連載というフォーマットのためか、通常の小説作品と比べて挿絵が非常に多い。
著者の夢枕は、小説でもなくマンガでもなく、かといって絵物語でもない新しいフォーマットを志向しており、今作独自の形態としての「コミック・ノベル」を標榜している。
週刊少年チャンピオン2022年16号よりコミカライズ版連載開始!(月一形式)
あらすじ
類まれなる身体能力と格闘の才能を持ち、誰よりも強くなりたいと願う少年、葛城無門。
寄る辺もなく放浪していた彼は、かつてあの地下闘技場で戦っていた経験を持つ松本太山に見いだされ、たくましいグラップラーとして鍛えられた。
しかし鍛錬の日々からの「卒業式」の日、無門の前に現れた太山は、胸を深くえぐられて致命傷を負っていた。
卒業式──自らが鍛えぬいた弟子との初めての真剣勝負をかろうじてやり遂げた後、彼は無門の目の前で息を引き取る。
わずかな手掛かりを頼りに、太山の死の真相を追う無門。マスター国松や久我重明といった闇の住人達をたぐるうちに、師を取り巻いていた謎の正体が徐々に明らかになっていく。
東京ドームの地下とは別に存在する闇の闘技場、「ゆうえんち」。
師の胸に空けられた穴とよく似た傷跡を残す殺法、「空掌」。
そしてその無二の使い手である最凶の殺法家、柳龍光……。
登場人物
葛城無門
主人公。
あるサーカス団の花形スターの子供として生まれ、類まれな運動能力と観察眼、格闘センスを生まれながらに備える。
9歳の頃にサーカスを出奔し、その後ホームレス同然の生活を送っていたが、太山と出会い、3年にわたって彼の格闘技術を叩き込まれて一流のグラップラーへと成長する。
太山の死後は、彼の死の謎を解き明かすべく奔走する。
愚地克巳の実兄にあたる人物で、愚地独歩が聞きつけた天才サーカス少年の噂も実は克巳ではなく無門のものであったが、独歩が克巳に会いに来る前の時点で団を出奔していた。
また、ライオンに食い殺されたとされる克巳の父は実は血縁上の父親ではなく、花形スター・葛城渡流こそが無門と克巳の実父であることも今作で明らかにされた。
松本太山
無門を見出して鍛えたグラップラー。娘の名前を冠した屋台「ラーメンこずえ」の店主。
身長190cmを超え、肩幅と同じ厚さの胸板を持つ、規格外のマッチョマン。格闘技術も一級品で、あの東京ドーム地下闘技場に選手として参戦していた過去がある。
一方、その見た目とは裏腹に非常に家族思いで子供好き。屋台で無銭飲食した無門に対しても、怒るどころかその境遇に同情し、食事の世話をするとともに格闘技を伝授して、彼の師匠となった。
本編で一度だけ言及があったきり容姿さえ不明のままで、長らくファンの考察の的となっていた、松本梢江の父親その人。病気に侵されていた娘の治療費を稼ぐべく「ゆうえんち」へと参加したが、何とか目的の金額は稼ぎ出したものの致命傷を負い、無門の目の前で息を引き取った。
柳龍光
後に本編の「最凶死刑囚編」にその一角を担う凶悪犯として登場する殺法家。
本作時点ではまだ死刑囚になっておらず、市井で活動中。空掌を用いてシティホテルの外壁に張り付き、高層フロアまでスパイダーマンのごとく登り切り侵入するなど、その能力はやはり人外の域。
「ゆうえんち」に参加したことや、そこで太山と対決し致命傷を負わせたことなどが示唆されている。
著者のまえがきによれば、本作は、後に「敗北を知りたい」とのたまうほどの無敵を誇った柳がなぜ一度は虜囚の身になったのか、を描く物語になるとのこと。
蘭陵王
ゆうえんちの主催者。中国南北朝時代に実在した高長恭の別名を冠している。
声こそ老齢の男性のものだが、それ以外の素性は一切不明。舞楽の衣装と化物の仮面を身に着けた異様な風体で、素顔はほぼ見えない。
相当な実力を持つらしく、彼と立ち会った後に歩いて帰ることができたのは久我重明ぐらいとのこと。
蘭陵王とは、ゆうえんちの主催者としての名前であって彼自身の本名は不明。ゆうえんちの歴史は100年以上に及び、蘭陵王も都度代替わりしてきたのだろうと噂されている。
蛟黄金丸
蘭陵王の息子。高校生。端正な顔立ちで、体つきも特に大柄ではないが、打岩を超える鍛錬である「打針」を若くして完遂したり、太山の「放華」を見よう見まねで体得するなど、計り知れない才能と実力を備えている。学校では茶道部に所属しているが、その実、いわゆる裏番が後輩に「黄金丸だけには手を出すな」と語り継ぐほど恐れられている。
ゴブリン春日
プロレスラー。本名は岩合文太郎。「極東プロレス」元社長。坊主頭とどじょう髭が特徴的な巨漢。
かつてはマウント斗羽の下で活動しており、リングネームも彼から与えられたもの。斗羽の死後(死んでないけど)、独立して極東プロレスを立ち上げた。
劇中時点では団体のバックについていた暴力団とトラブルになっており、久我や無門も巻き込んでもつれた末、無門によって主力プロレスラーを潰されてしまいとうとう団体は解散。その後、ゆうえんちに姿を現す。
子供の頃のいじめが原因で、「相手の体をバラバラにしたい」「ひとつのものをふたつにしたい」という強い欲求を抱えており、これに従って、相手の体からひたすら肉をちぎり取る残虐な戦法をとる。また、プロレスラーとしての矜持と、「ひどい攻撃を相手に気兼ねなく仕掛けるために先に自分が酷い目を見なくてはならない」という理由から、相手の攻撃を一切避けずひたすら受ける癖がある。
神野仁
北諸天組の客分として、暴力の絡む仕事をこなしている青年。スキンヘッドと引きつったような気味の悪い笑顔が特徴。
神経伝達の速度が常人に比べて10%は速いという特異体質の持ち主で、一流ボクサーのパンチを至近距離で苦も無く避けきる。また柳と同じく空道の使い手でもあり、笑顔のままで相手の体を空掌でずたずたにしてしまう残忍性を持っている。マスター国松の門下生の一人であり、彼直伝のえげつない技を使いこなす。
葛城無門と同じく、彼もまた柳龍光に執着している。
ゲストキャラ
久我重明
夢枕作品『獅子の門』からゲスト出演。かつて板垣版『餓狼伝』にもゲスト出演し、その独特の存在感と強さで人気を博したが、三度作品をまたいでの登場となった。
原典では萩尾流古武術の達人にして「暗器の重明」の異名を持つ男で、『餓狼伝』では凄腕の空手家。今作では「暗器の重明」の異名に相応しいえげつない闘いを披露しており、レスラー三人をまとめて瞬殺する技前を読者に見せつけた。「ゆうえんち」の存在についても知っており、その秘密を無門に教え与える。
マスター国松
大日本武術道場の当主を務める殺法家。柳の師。「最凶死刑囚編」でも語られた通り、かつて柳に敗れて左腕を失っている。
本編のほか、以前ゲスト出演した『疵面』でも、もっぱら解説役・インタビュイーとしての登場だったが、本作では初めて本格的な格闘を披露。猛禽類のようだと評された爪で花崗岩をえぐりとるわ、空掌を足で実現するわと、柳の師匠という肩書に恥じぬ凶悪性で無門を追い詰める。原点と同様、あるいはそれ以上に”妖怪”じみた怪人として描かれており、弟子である神野仁や左腕を切り落とした柳からも未だに恐れられている。
愚地克巳
空手家。愚地独歩の息子にして、無門の実の弟。本作時点で神心会の総帥なのかどうかは不明。
本編では言及していなかったものの、兄の存在は覚えており、インタビューに対しても普通に語っている。無門の優れた才能は認めつつも、今戦えばどうなるかという質問に対しては「必ず勝てるとは言わないけど負ける気はしない」と答えている。
愚地独歩
神心会の総帥にして希代の空手家。ミズノサーカスの団長と友人であったことから、その縁で克巳を養子に迎えた。そして彼の兄である葛城無門にも浅からぬ縁を感じ、独自の人脈を使って無門を探し訪ねることになる。ある意味で無門にとっては義理の親に当たる人物であることから、本編でも意外な形で彼と邂逅することになる。
「ゆうえんち」
蘭陵王が主催する、闇の闘技場。闘技場と言ってもその場所は一定しておらず、蘭陵王が都度セッティングする。
武器になりそうなものをあらかじめ取り除き周囲から途絶させた、一定のエリアを舞台として行われる、多人数バトルロイヤル。制限時間は一晩(夜明けとともに終了)。参加費は1人500万円。
参加者は誰とどう戦おうと自由で、勝った方は負けた方の500万円を奪い取る。勝てば勝つほど大金を手にできる仕組みである。
ルール無制限・武器使用禁止といったあたりは東京ドーム地下闘技場に似ているが、何人がかりでいつどう戦おうが参加者の自由、身の回りのものをどう利用しても良い、といったあたりは最凶死刑囚編の戦いに近い。また、大金が動く点は、ファイトマネーや賭けなどを一切排して純粋な強さ比べに特化している東京ドーム地下闘技場との最大の違いと言える。
一番の特色は「殺人が認められている」ところにあり、参加者は殺し合いを求めてここに行き着いた者が多い。
その歴史は意外と古く、明治の初め頃に殺し合いの場に飢えていた武道家たちを集めて開催されたのが始まりとされている。ちなみに、初期は蘭陵王が優勝者に賞金を与えるオーソドックスなやり方だったが、賞金目当てに実力不十分な輩が参加するようになったため、闘いのレベルを保つために自費参加の形となった。「人を殺したいがために金を払う」という形になったためか、参加者の残忍性は尋常では無く、五体満足で勝ち残れる者は全体の一割に満たない。