概要
実戦合気柔術『渋川流柔術』開祖。
「達人」「近代武道の最高峰」「武の体現者」「小さな巨人」「実力No.1」など数々の異名を持ち、愚地独歩や本部以蔵をして一目置かれる日本武道界の大人物。
プロフィール
来歴
強い相手を倒す事に渇望して柔道に打ち込む日々を送っていたが、思う所あって御輿芝喜平(みこしば きへい、会津藩の御留流『大東流合気柔術』を基に合気道を創始した植芝盛平がモデル)を開祖とする『護神流合気柔術』に入門する。
39歳の時、実戦に見立てた稽古で御輿芝に打ち込めずに次々と降参する兄弟子たちを甲斐性無しと一蹴して立ち合いを挑み、渋川の技量と気迫に圧倒された御輿芝が畳に突き立った刀を振るって背中を袈裟懸けに斬り付けるという結末を迎える。この背中の傷によって「切羽詰まった師匠に刀を使わせた」という揺るぎない事実と実力を一同に見せ付けると自ら免許皆伝を宣言し、同時に渋川流柔術立ち上げの名乗りを上げた。
渋川流柔術の開祖となって以降、様々な野試合に臨んでは死線をくぐり抜けて技に磨きをかけていたが、この頃に実戦総合武術『大日本武術空道』の柳龍光と対峙して左眼を失い、代わりに模造眼球の義眼を入れるようになった。その一方、道場を設立して殺法を封印した合気道の教授を一般人入門者に行いつつ、警視庁の要請を受けて逮捕術・柔道の客員指導を務める。
75歳の時、徳川光成が開催した地下闘技場の一大格闘技イベント『最大トーナメント』の招待を受けて参戦し、大会参加者最高齢・最軽量・最小のハンディキャップをものともせずロジャー・ハーロン(アマレス)、鎬昂昇(鎬流空手)、独歩(愚地流空手)を次々と撃破したが、かつて御輿芝から聞かされた「護身の極地」(後述参照)に開眼した直後の準決勝戦で対峙したジャック・ハンマー(我流格闘術)に善戦虚しく敗退する。
最大トーナメント終了後、光成の発案によって開催された変則ルールの格闘技イベントに招待され、相手となる『最凶死刑囚』の1人として参加した柳との再会を果たす。お互いに騙し討ちや協力者を絡めた一進一退の攻防を繰り返した末、いよいよ決着と腹を括って柳の待つ公園へ足を運んだものの、一歩違いで本部と範馬勇次郎の介入によって柳が倒されてしまい、自らの手で因縁に終止符を打つ事は叶わなかった。
以後は、有り余る闘志を燻らせて街のゴロツキにちょっかいを出すやり切れない日々に退屈しながらスポット出演し、主に助言役として範馬刃牙を導くなど裏の顔からは半ば身を退いた立場を取っている。
人物
普段は物腰穏やかで飄々とした悪戯好みの好々爺であり、然るべき場では礼節に重きを置く態度で立ち振る舞うが、その本性は極めて好戦的、且つ不意打ちを厭わなかったり言葉の意味合いの虚を突いて非を押しつけるなど狡猾。巨鯨やクローン武蔵やマホメド・アライJr.に対して見せたように、明らかに卑劣なことをしでかしておきながら「老獪」「これだから達人はおもしろい」で済まされてしまったこともある(どちらの場面でも内心恐怖していたが)。
- アライJr.に敗北した際も「本気じゃなかった」と発言したり、チンピラとはいえ一般人をいじめるのが趣味でもある。
- 巨鯨戦では、渋川だけでなく徳川が余計なことをしたという声もある。何度もダメージを受けた渋川に対して負け判定を出していないのに、義眼が飛び出した渋川を気遣った巨鯨を渋川が不意打ちして目つぶしなどを行い、それまではほぼ無傷に近いのに不意打ちの末に地面に一度投げられた巨鯨を負けとみなした。
また、死と隣り合わせの野試合に身を置いて長い年月を過ごしたために胆の据わり方が尋常ではなく、自身の理解の範疇を越えた相手でない限りは一切の動揺を見せない。
弛まぬ研鑽の末に御輿芝ですら成し得なかった武の境地『真の護身』(真に護身を身に付けた者であれば、もはや技術は無用であり、そもそも危機に近付くことすらできない)に到達したため、自身に差し迫る危機に比例してそれから逃れようとする強烈な身体的、精神的防衛本能が働くようになるが、これを頑として受け入れずに自ら死地へ飛び込むほどに強者との死闘を好む。
<『真の護身』の一例>
- 本人の意思に関係無く足がもつれて転ぶ
- 本人の意思に関係無く体が重くなる
- 幻視「厳重に施錠された大門」が現れる
- 幻視「猛烈な勢いで噴火した火山から降り注ぐ無数の火山弾」が現れる
- 幻視「大きな地割れから沸き立つマグマの海」が現れる
特技
独歩や本部同様、すでに失伝またはそれに準ずる数々の古流殺法を自在に操り、さらに約35年の実戦で磨き抜いた柔術と合気の技術、豊富な経験によって得た各種武術の弱点や欠点を組み合わせて巧みに攻守を切り替える老獪な戦術を得意とする。また、自身の素地が柔道という事も手伝って攻めにも強く、いきなり間合いに飛び込んで意表を突かれた相手に「思わず手を出させて」合気を仕掛ける事すらある。
特に、「敵意や殺意など『明確な攻撃意思を持つ行動』」に対しては無類の強さを発揮し、最大トーナメントで対峙した独歩が繰り出す無数の拳脚に対して「ニセモノばっかり」と見抜いた上で身動き一つ取らずに狙いを定める余裕を見せ、作中屈指の筋力を誇るジャックやビスケット・オリバ、果ては現世に復活したクローン武蔵ですら合気によって一度は膝を折らせる達人然とした展開を見せた。
反面、本部曰く「実戦の場に初めて合気を持ち込んだ」とされる紛れも無い達人ではあるものの、刃牙やジャックが悟った『合気の空白』(合気とは相手の攻撃力を利用しつつ自分の攻撃力を上乗せして返す技術であり、相手の攻撃力に比例して返す攻撃力が増大するが、相手の攻撃力が0の場合は合気で返す力も0になる)を利用されて合気を封じられる、あるいは『攻撃する意思を悟られない・持たない行動』(独歩の『菩薩の拳』、柳の『やかんパス』など)で攻撃意思を感じ取れずに惨敗を喫する事もある。
これは、刃牙をあっさりと昏倒させた柳を手玉に取ってみせた本部の活躍で読者が混乱した例にもあるように「じゃんけんのようなもの」、即ち相手の行動とその場の環境を絡めた相性問題によるものであり、先に述べた弱点、特に攻撃意志の有無が生み出す戦力差に気づかなければスペックを屠り去った花山薫ですら完敗し、弱点にさえ気付いていれば根性一辺倒の柴千春ですら勝利し得る可能性を秘めていると言える。
ただし、合気を抜きにしても柔術と柔道をよく修め、一時はテリーマンポジションに就いた本部ですら驚嘆する恐るべき殺法をも平然と使いこなし、「日常臨戦態勢」を旨とする生き方から80代を目前に控えながら全く年齢を感じさせない引き締まった肉体を維持し続け、隻眼をまるで問題としていない(作中では義眼であるはずの左目が本物の眼球であるかのように右目と連動している描写すらある)猛者であるのには変わり無く、格闘技をテーマとした漫画作品では間違いなくチート級のじじいに数えられる存在である。
尤も、同作中には気力に満ちた花山と正面切って殺し愛を演じた97歳のスペック、中国武術の総本山『白林寺』貫主の座にある100歳超の劉海王、海王位の頂点にして中国武術界の総帥に君臨する146歳の郭海皇といったトンデモじじいがゴロゴロしており、かつて55歳の独歩を若造呼ばわりしたのと同じく、彼らからすればさしもの渋川とてまだまだ若造(自身も「どっちが上=勝者でも構わないと言うにはこの渋川、若すぎる!」と老いを否定している)なのである。