概要
自動車レースのなかでも、6時間以上の長時間にわたってサーキットを周回する耐久レースを複数戦行って優勝を決めるというもの。レース専用に設計されたプロトタイプカーと、市販スーパーカーを改造したGTカーという異なる規格のマシンが混走し、ドライバーも複数人が交代しながら行うのが特徴である。そのためドライバーよりもチームの戦いという色が強い。
またマシンの規格に合わせてクラスが分かれており、「クラス優勝」という概念が存在するのも大きな特徴である。中にはプライベーターやアマチュアドライバー向けと公言されるクラスも設定されており、門戸は非常に広く開かれている(後述)。
タイヤはミシュランまたはグッドイヤーの独占供給で、どちらのメーカーのタイヤを使うかはカテゴリーによって異なる。また、レースで使用できるタイヤの本数がカテゴリごとに違ったり、予選で使用したタイヤを必ず決勝スタート時に使用しなければならないなど、WEC特有のルールも多い。
歴史
WECの前身にあたる選手権こそあれど、意外にもWECそのものの歴史は浅く、初開催は2012年。この初開催からWECカテゴリーへの参戦・撤退はひっきりなしに繰り返されてきた。2012年からずっと参戦を続けているチームといえば、TOYOTA GAZOO Racingやシグナテック、AFコルセ(フェラーリ)くらいである。
全盛期には出力においてF1カーを上回るマシンが登場して話題を集めたり、トップカテゴリーにトヨタ、アウディ、ポルシェという名だたる3社が参戦して鎬を削っていた。しかし、マシン開発コストの高騰やフォルクスワーゲンによる「ディーゼルゲート」と称されるアメリカ合衆国の自動車排ガス規制(マスキー法)に対して同社が行った一連の不正行為に起因するヨーロッパ圏でのEVシフトによりアウディおよびポルシェが撤退。一時期はトップカテゴリーにまともに参戦する自動車会社チーム(ワークスチーム)がトヨタしかいなくなってしまった。しかし、2021年シーズンからはスクーデリア・キャメロン・グリッケンハウスが、2022年シーズン(後半戦)からはプジョーがそれぞれ参戦、2023年シーズンからはフェラーリが参戦し、かつて撤退したアストンマーティンも復活する構えを見せている。
一方、GTカーカテゴリーにはポルシェ、フェラーリ、アストンマーティンのマシンを駆る個人チーム(プライベーター)が安定して数多く参戦しており、こちらには大きな動きは見られない。プライベーター向けのプロトタイプカーカテゴリもまた同じで、世界中のプライベーターたちが参戦している。
カテゴリー
先述の通り、WECは参加するマシンの規格に合わせてクラスが分かれており、「総合優勝」と「クラス優勝」という2つの概念が存在する。SuperGTのような「複数カテゴリーが存在し、クラスごとに賞典が設けられる」レースのファンには馴染みがあるであろうが、F1やNASCARなどといった「全車が同じ土俵で争い、唯一の勝者を決める」レースのファンにとってはなかなか理解するのに時間がかかるかもしれない。
マシンという面においてはプロトタイプカーとGTカーに大別されるが、そこからさらに細分化された4つのカテゴリーから構成されている。
プロトタイプカー部門
WECにおけるトップカテゴリー。自動車メーカーが莫大な資金と技術の粋を投入して製造したプロトタイプマシンを、プロ中のプロのドライバーが駆る。かつてはLMP1という名称でマシンの規格も異なっていたが、2021年からはこの規格に移行している(2022年までは経過措置としてLMP1マシンも出走可能だった)。TOYOTA GAZOO Racingもこのカテゴリーに参戦している。ワークスチームのみならずプライベーターも参戦しており、2022年には最終戦の時点でワークスチームのトヨタとプライベーターが同点という史上類を見ない展開も見られた。
IMSA(国際モータースポーツ教会)とACOが共同で生み出した新カテゴリー。ル・マン・ハイパーカーとの共通化が図られ、これによりWECをメインとするル・マン・ハイパーカーがIMSAのレースに、IMSAをメインとするル・マン・デイトナ・hがWEC(ル・マン24時間含む)に出走できるようになる。
「歴史」の章で述べた通り、2010年代後半の相次ぐ撤退によりトップカテゴリーに参戦するワークスチームはトヨタ1社しかなくなった。しかし、2023年シーズンから自動車メーカーの参戦が急増した。その理由はこのカテゴリーの創設にある。かつて撤退したポルシェやキャデラックが2023年シーズンから、2024年シーズンからはBMWやランボルギーニがル・マン・デイトナ・h規格でのWEC参戦を表明しており、WECのトップカテゴリーは大混戦になることが予想されている。
LMP2
プロトタイプカテゴリーの中でもプライベーター向けのもの。チームが車体とエンジンを購入する形式を採るが、車体の製造会社や使用するエンジンが指定されており、基本的にはドライバーの腕前やレース戦略で争うことになる。
GTカー部門
LM-GTE Pro
GTカーカテゴリーのなかでも過去に一定の戦績をもつプロのドライバーが参戦する部門。かつてはフェラーリ、ポルシェ、シボレー・コルベット、アストンマーティンなどのメーカーが参戦していたが、2020年にアストンマーティンがワークスチームとしての参戦を終了し、2022年にはフェラーリ、ポルシェが前述のル・マン・ハイパーカー参戦のために撤退を発表。コルベットもGTE Amへのカテゴリー移行を表明し、2022年シーズンをもってこのカテゴリーは廃止された。
LM-GTE Am
GTカーカテゴリーの中でも、目立った戦績を残していない(とはいえWEC出走に必要なライセンスを取得している)アマチュアドライバーが参戦するカテゴリー。こちらもLMP2と同様プライベーター向けだが、LMP2よりもアマチュアドライバーの比率が高い。また、女性のドライバーおよびスタッフで構成されたチームが参戦しているということも特筆すべきであろう。
先述の通り、2023年シーズンにはLMGTE-Proに参戦していたコルベットがこのカテゴリーに移行した。しかし、2023年シーズンをもってこのカテゴリーも廃止が決定し、2024年シーズン以降GTカー部門は一本化されることになっている。
サーキット
F1と同様に世界中のサーキットでレースが開催されるが、F1の1シーズンが全20戦強で構成されるのに対しWECのそれは(毎年6月のル・マン24時間を含めて)6〜8戦にとどまる。戦いの舞台にはスパ・フランコルシャンやシルバーストン(イギリス)などの伝統あるサーキットや、バーレーンや上海などの比較的新しいサーキット、日本人のモータースポーツファンには馴染み深い富士スピードウェイなどが選ばれる。コロナ禍が続いた2021年には富士スピードウェイでの開催中止により、1週間のインターバルを設けてバーレーンで2連戦、という魔の日程が組まれた。
小ネタ
ル・マン式スタート
かつてのル・マン24時間レースにおいて、「ホームストレート上のピット側にマシンを斜めに並べ、反対側にドライバーが並び、スタートの合図と同時にドライバーがダッシュでマシンに乗り込み、エンジンを掛けてスタートしていく」という方式が用いられ、「ル・マン式スタート」と呼ばれていた。1971年に安全上の理由でル・マン式スタートは廃止されたが、近年のWECではこれを模して、レース開始前にダミーグリッドへ整列する代わりにル・マン式スタートと同じ位置にマシンを配列している。レース開始時はしっかりとドアを閉め、ドライバーもシートベルトをした状態で配列順でマシンを出発させ、順番を乱さないようにサーキットを1周走り(フォーメーションラップ、という)、その上でスタートする、という方式を採用している。
関連イラスト
関連タグ
関連項目
Pixiv百科事典に記事がある、参戦経験のあるドライバー