歴史
世界三大レースの一つに数えられるル・マン24時間をレースシリーズに加えるFIA 世界耐久選手権(通称・WEC)。
2012年のシリーズ開催時からの最高峰クラスであった『ル・マン・プロトタイプ・1(LMP1)』は当時からハイブリッドシステムを用いた四輪駆動車などフォーミュラー1カーを上回るパフォーマンスを発揮する一方、それに正比例する形で開発コストが高騰する傾向にあった。
加えてフォルクスワーゲンの排ガス不正(所謂『ディーゼルゲート事件』)に起因する形でグループ企業だったアウディとポルシェが立て続けにワークス活動から撤退することとなり、唯一のワークスチームがトヨタのみとなってしまっていた。
この事からWECの主催団体であるフランス西部自動車クラブ(ACO)が「コスト削減を目的とした次世代のLMP1規定」を模索する議論を開始することとなった。
議論開始当初は北米で同じくプロトタイプカーを使用する自動車競技として人気を博していた「IMSA スポーツカー選手権(通称・IMSA)」との共通プラットフォームを使用する方向で計画されていたが、後に当時のワークスチーム予算の1/4に当たるフルシーズン約2,500万ユーロ(3,000万ドル)の範囲で「参戦チーム/メーカーにより自由度を持たせた設計」とすることで策定されることとなった。
車両規則
最大長 | 5,000 mm(200インチ) |
---|---|
最大幅 | 2,000 mm(79インチ) |
最大ホイールベース | 3,150 mm(124インチ) |
最大高 | 1,150 mm以下 |
最低車両重量 | 1,030 kg(2,270ポンド) |
最低エンジン重量 | 165 kg(364ポンド) |
エンジン排気量 | 制限なし |
最大システム出力 | 500kw(680馬力)/モーター出力は270馬力(200kW)まで |
燃料タンク容量 | 90L |
最大ホイール径 | 710 mm(28インチ) |
タイヤ幅 | 31cm 又は リア34cm/フロント29cm(後輪駆動) |
この他、性能調整(BoP/バランス オブ パフォーマンス)がレースシーズンを通して随時更新される為、常に「高いパフォーマンスを発揮する車両が勝ち続ける」状況を作りにくくしている。
更に「タイヤサイズ・加速プロファイル・ブレーキ性能・エアロダイナミクス」の4領域の性能調整を行うことで2023年からル・マン・デイトナ・h(略称・LMDh)との性能差を揃え、「LMH規定を採用するWEC」と「LMDh規定を採用するIMSA」での車両の相互乗り入れを実現させることとなった。
ル・マン・ハイパーカーの特徴
LMDhとの大きな違いは以下の通り
・車両設計は自由
LMDhは「共通のハイブリッドパッケージとギアボックスを採用する」ことが前提の車両規定であり、肝心のシャシも「IMSAが指定するシャシコンストラクターから購入する」必要があるため、メーカー単独で開発できる領域がかなり限られる。その為、LMDhで参戦するメーカーの多くは「シャシコンストラクターとの協業でシャシを開発」する方式を採用している。
一方のLMHはシャシから自社開発が出来る為、コストは掛かるがメーカーの要求通りの車体を作ることが可能となっている。
余談ながらエンジンは「4ストロークガソリンエンジン」であることのみ明記されている為、規則上はロータリーエンジンを使用した車両も参戦可能だったりする。
・ハイブリッドモーターの搭載は任意
上記車両設計にも関わる点であるが、高価で制御が複雑になるハイブリッドシステムを廃した車両設計が可能な点もLMHの特徴。特に信頼性に不安があるメーカーにとってリソースを割かずに済むのはコスト削減に重要な要素となる。
余談だが走行用モーターは前輪のみ搭載可能という規定もあり、ハイブリッド車両は必然的に四輪駆動となる。
・市販ハイパーカー改造のレースカーで参戦可能
元々コスト削減を目的とした車両規定であるため、スーパーカーの領域を超えるハイパーカーでの参戦も視野に入れている。
しかし市販車として参戦する場合、2年間で20台以上の車両を生産しホモロゲーションを得る必要があり、エンジンもホモロゲーションを受けた市販車と同等品、もしくは同一メーカー製の物に限られる。
この規則はプロトタイプとして参戦する場合は除外される為、2022年時点で参戦している車両は全てプロトタイプカーとして登録されており、この規則は形骸化している。が、2025年を目処にアストンマーチンが市販ハイパーカーであるヴァルキリーで参戦することを表明したため、遂にこの規則が日の目を見ることになる。
LMH規定車両
(※名称後ろの「(H)」はハイブリッドカー、「(R)」はロードカーベース)
・スクーデリア・キャメロン・グリッケンハウス:SCG007 LMH
・フェラーリ:499P(H) / 2023年~
・ヴァンウォール:ヴァンダーヴェル680 / 2023年~
・イソッタ・フラスキーニ:ティーポ 6 LMH-C(H) / 2024年予定
・アルピーヌ:A480 / 2021-22年 (LMP1規定で製作された「レベリオン・R13」のバッジネームで、性能調整を受けることでLMH規定の特認車両として参戦していた)