練習機とは
一般には読んで字のごとく、『飛ばし方を練習するための航空機』。
民間では自家用機をそのまま使う事がほとんどだが、軍用となるとただ飛ばすだけでなくさまざまな専門スキルの訓練も必要であるため、専用に設計された練習機を使用する。
例としては、アメリカでは一般に型番の頭にTrainningの「T」を付ける。それ以外の国でも名前や型番のどこかに「T」の付いたり、ロシア式ではUchebnoの「U」が付く。なんとなく複葉・単葉のプロペラ機のイメージがあるが、ジェット機パイロットの養成後半では、タンデム化などで訓練用に改造された実機を用いることも多い。
訓練用とはいえ、高性能な機種は武装すればそのまま戦闘機や攻撃機に転用(=COIN機)できるため、予算の乏しい発展途上国での需要も絶えない。実際にBAeホークや、アルファジェットでは空軍戦力補助のためにも実戦能力が求められ、実戦・訓練兼用のような型も存在する。
操縦しやすいのはもちろん、緊急時の対応も練習できるように多少の無理が利かなくてはいけない。さらに、初心者故の手荒な操作にも耐えられる頑丈さも無ければならない。扱いやすいだけではダメなのである。
作るのが簡単なようで、実は奥の深い航空機である。
大抵の国の軍隊は自前の練習機を保有しているが、中には自前の練習機を持たず天候が安定したアメリカなど外国に飛行訓練を委託している国もある(特に一部のヨーロッパ諸国やシンガポールなど領空が限られている小国や、ドイツのような天候が不安定な国に多い)。
軍隊の練習機
自動車で旅客輸送の仕事をするためには、まず第一種運転免許を取ってから第二種運転免許を取らなければならないのと同じように、戦闘機を操縦できるようになるには段階を踏んで資格を取っていかなければならない。
そんな練習機には、訓練段階に合わせた分類がある。
初歩的な操縦を学ぶ初等練習機、
仕事ができるレベルの操縦を学ぶ基本練習機(日本ではかつて中間練習機とも呼ばれた)、
本格的に戦闘機の操縦を学ぶ高等練習機
…といった具合である。
廃れた超音速練習機
とはいえ、練習機の進化は「いかに効率よく訓練ができるか」の追求でもあり、アプローチは目的ごとに千差万別。例えば超音速戦闘機の操縦を学ぶには超音速機でないとダメ…という訳ではなく、実際にやってみると超音速飛行はそれほど難しくなくて、わざわざ専用の練習機は要らないと分ったため、超音速飛行できる練習機は現在も少数派となっている。訓練用に割ける戦闘機があれば、最初から超音速練習機は要らないのだ。
逆に国家予算が少なく、導入できる機全体が少数という場合には、訓練と実戦を兼用できるので需要がある。
ターボプロップ練習機
また、ジェット機の操縦を学ぶにはジェット練習機…とも限らず、ジェット機に操縦特性を似せたターボプロップ練習機も広く普及している。ターボプロップ機はジェット機より燃費がよく、速度も遅いから操縦ミスの挽回もしやすい。何より費用も価格も割安なので、ガンガン飛ばして訓練するには都合がいいのである。
練習機の種類
現在では性能が重複する機種も珍しくなく、近年はピラタスPC-21のような一機種で全部こなす事を目指した機種もある。このように、練習機は時代に応じて分類が生まれたり消えたりしている。
例えば、以下のような種類がある。
戦闘機の複座型
現代の大抵の戦闘機は単座で十分任務をこなせるのだが、機種転換(LIFTとも。簡単に言えばパイロットが慣れるための訓練)用の練習機としても使えるようにした複座型が用意されている。
「二人目がいる」という点を利用して、爆撃・空中給油などの用途に使用されることがあり、機種によっては練習機として長く生きながらえた例もあるが、現在はフライトシミュレーターの発達したので、F-22やF-35のように最初から複座型が用意されていない戦闘機がある。中国では実機での訓練が重視されるのか、それともマルチロール化を目指してなのか、J-20Sのような機が開発された。
大型の練習機
練習機の中には、ボーイング737などの旅客機をベースにした大型機もあった。
これは各種航法機材を搭載し、飛行して実際に現在地を割り出してみせるという、航法訓練のための練習機となっている。INSやTACAN、VORといった無線航法・電波航法に対応した装備を搭載し、教官の監督のもと実習生が現在地を割り出し、後で答え合わせするのである。
現在は航法装置の自動化が進んだため、専用の練習機は用意されなくなった。
日本ではかつて「機上作業練習機」という、航法・通信・爆撃・射撃・写真撮影・観測などを訓練するための機を用意していた。
LIFT
Lead In Fighter Trainerの略で、戦闘機前段階練習機と訳される。
近年は操縦そのものよりも、複雑なアビオニクス(電子機器)習熟に重点が置かれる傾向にある。このLIFT機は高等練習機のさらに実戦よりの機体で、現代の高度に発達した戦闘機のアビオニクスを効率よく学ぶために生まれた。
「戦闘機の複座型」という訳ではなく、とくに練習用に設計された別物の機種のことを指して呼ばれる。実戦機のレーダーや武装、あるいは戦闘機動をシミュレーションする能力があり、求められる性能も価格も練習用の割には高く、ほぼ『小さな戦闘機』である。
しかし性能的にはあくまで戦闘機の下位互換なので「そんな高性能な練習機を別に用意するなら、最初から空いてる戦闘機を使った方がよくね?」という考えもあり、国ごとに事情が分かれるところである。実際、日本では十分な戦闘機を配備しているため、T-2退役後は実戦機で高等訓練を行っているし、フィリピンやイラクなど国家財政が貧弱な国では、敢えてFA-50のような機を採用して機種統一・効率化を狙い、両用している例がある。
自衛隊の練習機
日本では、航空自衛隊の初等練習機T-7や、ブルーインパルスにも採用されている中等練習機のT-4が有名で、また戦後日本最初の独自開発機は富士T-1と、これも練習機である。
なかでもT-7は、戦後アメリカから貸与されたT-34「メンター」を基に日本独自の発展を遂げてきた機で、陸海空3軍で様々な派生型がある。
T-3:T-34「メンター」のエンジンを換装し、時代に合わせて性能向上を図ったもの。
T-7:T-3の後継で、エンジンをターボプロップに換装。運航費用の安さと扱いやすさがウリ。
LM-2:T-34の客室を拡大し、4~5人乗りとした連絡機。部品のほとんどが流用できる。
KM-2:海上自衛隊によくある並列複座式コクピットに改造したもので、操縦訓練用。
T-5:KM-2のエンジンをターボプロップに換装しコックピットの視界も改善。「簡単すぎて練習にならない」と言われるほど操縦は易しい。
世界の練習機
・アメリカ
T-6「テキサン」:練習機といえばコレと言われるほど。多くの飛行士を育成した『炎の老兵』。
T-33:航空自衛隊でも長くおなじみだったジェット練習機。これも扱いは素直で易しい機。
T-37「ツイート」;並列複座の大型機用練習機。のちにA-37にも発展。
T-38「タロン」:1961年以来、未だアメリカで現役の練習機。NASAでも運用中。
T-7「レッドホーク」:T-38に代わるアメリカ空軍の複座高等練習機。導入予定機数は351機。
T-50「ゴールデンイーグル」:KAIがロッキード・マーチンから技術的支援を受けて開発された超音速ジェット練習機。F-16用のLIFT機。
T-45「ゴスホーク」:BAeホークを基にした海軍用の着艦練習機。
T-6「テキサンⅡ」:ピラタスPC-9を基にした最新型の空・海軍用初等練習機。
・イギリス
DH.82「タイガーモス」:こちらも多くの飛行士を育成した機。サンダーバード6号としても有名。
BAC「ジェット・プロボスト」:イギリス発のジェット練習機で、のちにCOIN機にも発展。
BAe「ホーク」:ジェット教育過程を一手に引き受けるべく開発された練習機。多くの国で採用された。
・フランス
フーガ「マジステール」:珍しくV字尾翼を採用した練習機。アルジェリアやコンゴでは実戦にも参加。
・独仏共同開発
ダッソー・ドルニエ「アルファジェット」:1970年代初頭に開発され、実戦部隊の補助用に武装も可能。
・ロシア
Yak-130「ミットン」:ロシア空軍の複座高等練習機。導入予定機数は200機。
・ブラジル
EMB-312「ツカノ」:ブラジル国産の初等練習機で、様々な国に輸出されて武装も可能。
EMB-314「スーパーツカノ」:攻撃機として最適化したもの。アメリカ空軍ではA-29として採用。
・チェコ
L-39「アルバトロス」:東側圏で最もポピュラーなジェット練習機。冷戦終結後は西側にも民間で広まり、世界で最も普及した練習機のひとつとなった。