「昔、私もああやって船を下りたつもりで走ったことがあったが、結局は浅見という巨大な船から一歩も出ていなかったことに気付かされた………あいつ、本気で降りるつもりじゃ」(Case File.6)
「そうだろう、一度権力争いに乗ったら、あとは最後まで戦い続けるしかない。たった一人で」(Case File.48)
演:岡本富士太
概要
作中でも屈指の大企業・浅見グループの会長。年齢は50歳で、主人公の一人である浅見竜也は実の息子に当たる。
先代社長から引き継いだグループを大きく発展させた敏腕実業家で、新エネルギーの開発やロンダーズファミリーへの対策等、社会貢献にも熱心に取り組んでいる。また、政財界にも強い影響力を持っており、物語後半にて自身が社長を兼ねる形で設立したシティガーディアンズも、内務省治安維持局との密接な提携があってこそのものである。
30世紀における世界規模の機関のうち、インターシティ警察は前出のシティガーディアンズから発展したものであり、また時間保護局にも渡の子孫がトップとして関わっている等、(自身は認識はしていないだろうが)彼の生きる20世紀末のみならず1000年先の未来にも多大な影響を及ぼした存在とも言える。
このように作中において、名実ともに大物と言える存在の渡であるが、息子である竜也との関係は必ずしも良好とは言い難い。
親の七光りというものを嫌い、浅見グループという大組織の影響下を脱して自分の道を走ろうとする竜也に対し、渡はあくまでも「人には決められた道がある」「個人よりも組織のネームバリューに人は寄ってくる」として、自身の跡を継ぐことを望んでおり、作中でも度々竜也を自分の元へと引き戻そうとして反発されるなど、物語開始以前より衝突の絶えない状況が続いている。前出のシティガーディアンズの保護対象が、あくまでも「契約者の生命や財産」であるというところからも窺えるドライにしてビジネスライクな部分もまた、竜也からの反発を強める要因の一つとなっている。
もっとも、だからといって単に立場や権力に囚われた頑迷な人物であるのかといえばそれは否、である。記事冒頭に示した台詞にもあるように、元々渡自身も若かりし頃は親の敷いた道に乗ることを良しとせず、竜也と同様に自分の道を走ろうと模索しながら結局挫折したという経験の持ち主でもあった。それでも渡自身は、その挫折を「浅見」という存在や他の誰かのせいとはせず、今の生き方を決めたのはあくまでも自分であると確信を持っていることを、後に妻の奈美江が竜也に対して語っている。
竜也に対する姿勢も、言ってしまえばそうした過去の苦い経験から来る現実的な見方(※)と、自身と同じ轍を踏んで欲しくないという親心に起因したものとも言える。
その竜也が、タイムレンジャーの一員としてロンダーズと戦っていることを知ったのは、シティガーディアンズを設立したのとほぼ同時期のことで、ここでも「親父がビジネスで何とかできる相手ではない」と、ロンダーズにまつわる件から手を引くよう促す竜也との間で意見の対立が生じている。
ともあれこれ以降も、半ば偶発的にシティガーディアンズ(=浅見グループ)の戦力となったタイムファイヤーやブイレックスの能力を解析し、シティガーディアンズの戦力増強を図ろうとする一方、自らトゥモローリサーチに赴いてユウリ達4人をシティガーディアンズに加わるよう依頼するなど、あくまでも竜也を自身の管理下に置かんとする(あるいはロンダーズとの戦いという危険から遠ざけたい)とも取れる行動に及んだこともある。
一方、シティガーディアンズにおいて上司と部下という間柄であった滝沢直人とは、当初こそその実力を評価していたものの、やがて彼の力(権力)への渇望に起因した暴走により、後述の一件に乗じてシティガーディアンズの運営から切り離されたことで、「政敵」として対立する立場へと転じている。最終的に、直人と結託した治安維持局の伊吹長官の過去の不正を暴いて退任させると共に、かねてより進めていたブイコマンダーのボイスロック解除が成功したという事実を直人に突きつけることで、彼の社会的な後ろ盾とタイムファイヤーの変身者であるというアドバンテージを一挙に喪失させ、失脚に追い込んでいる。
物語終盤では、ギエンの差し金による第三総合研究所襲撃に巻き込まれて瀕死の重傷を負い、生死の境を彷徨うこととなる。実は本来の歴史において、この時の負傷が元で渡は死亡し、竜也がその跡を継いで浅見グループを繁栄させることが、歴史的事実として定められていた(こちらも参照)。しかし、自分と同じように渡もまた「戦っていた」ことを知った竜也の思いが通じてか、あるいはGゾード破壊による歴史改変の影響なのか、「本来の歴史」に反して奇跡的に一命を取り止めるに至った。
この一件を通して、自分の道を走ろうとする竜也の決意の固さを再認識したのか、後の「大消滅」において彼が孤軍奮闘していると知らされた際にも、(自分の息子であるがゆえに)止まるようなやつじゃないと介入を差し止める一方で、シティガーディアンズを市民の保護に当たらせるよう指示。そして一連の騒動が収束を見た後も、一人で頑張っている竜也の生き方を静かに見守るような様子を見せている。
(※実際に作中の描写の端々からも、反発している竜也自身でさえ無自覚のうちに「浅見」というネームバリューや、大企業の御曹司という立場を利用している節が窺えるところはあり、渡の言い分も必ずしも的外れという訳ではなかったりもする)
備考
演者の岡本は、過去に『高速戦隊ターボレンジャー』に太宰博士役として出演しており、スーパー戦隊シリーズへの参加は本作が2度目となる。
企業の経営に携わる身であるがゆえの、現実主義的な考えの持ち主である渡に対し、太宰博士は妖精の存在を確信してそれと交信を図ろうとするなどロマンに溢れた人物で、さらには独力で戦隊の各種装備や大規模な基地までも用意してしまうだけの経済力を持ち合わせていることなどから、一部のファンの間では「過去の『経験』というのは太宰博士として活動していた時期のことを指すのではないか」と(半ば冗談交じりに)解釈する向きも散見される。