ラシーン
らしーん
概要
1994年から2000年まで日産自動車から販売された、小型乗用車。
B13型サニーをベースに、クロスカントリー車風に仕立てたパイクカーである。Be-1やパオ、フィガロと異なる、唯一の量産車。生産終了までの総生産台数は約7万台であった。型式はE-RNB14型で、組み立て生産は委託先の高田工業で行われた。
1990年代半ばの日本においては「クロスオーバーSUV」という概念はまだ存在しておらず、代わりにあったのが三菱のパジェロに代表される「RVブーム」であった。
ラシーンについても一定の大きなファン層を獲得したが、次第にモノコック化して本格的なオフロードから都市部走行までスペックの幅を広げていったSUVにその座を押されていき、さらに日産の経営危機や安全基準の古さがダメージとなり、一代での生産終了を迎えた。
しかしながらその個性的なデザインや大きめの荷室などから発売当時から人気が高く、現在も長く乗り続けたり中古を購入したりするオーナーも多い。自動車検査登録情報協会によると、2022年3月末現在の登録台数は7015台。総生産台数は約7万台のため、残存率は10%程度となる。生産終了から20年以上経った現在においても、中古車市場での評価が高い車種である。
ネーミング
「未知の旅の世界を広げるクルマ」として誕生したラシーン(RASHEEN)。ネーミングは旅の水先案内人をイメージした「羅針盤」からの造語である。広報資料によれば「ネイチャー志向と都会的センスを併せ持つ新しい4WDとして、ハイブリッドな新感覚を込めた」らしい。
余談として、当時の日産自動車のホームページの名前も「羅針盤」だった。
コンセプトとターゲット層
商品コンセプトは、都市から自然までさりげなく調和できる「新ジャンルRV‐街でも爽快、きさくな4WD」。90年代前半に多様化しつつあったRV市場に新たなジャンルを切り開こうとした。
必要な機能を備えつつ、人や自然へのやさしさも持ったシンプルな生活の道具をイメージした。使用者のライフスタイルや個性に合わせ、オプション品によってシックからランナバウトまで、多様なスタイルになれる「素材車」として売り出された。
30代前後の独身世帯や子供なし夫婦をターゲットとした。日産の狙い通り、2022年現在もキャンプなどを楽しむ若いオーナーが多い。
エクステリア
直線と面を基調とするシンプルでボクシーなフォルム。元々がセダンのサニーベースのため、RVにしてはボンネットが長い。さらに、1.6mの立体駐車場に入るように全高を1515mm(ルーフレール付き車)に抑えたため、のっぺりした独特な外観をしている。
一部グレードやオプションで装着されるグリルガードやタイヤキャリアは、ラシーンを「RV」たらしめる記号としての意味合いが強いと言えるだろう。
四角と円形を組み合わせた独特のヘッドライトやバンパーに埋め込まれたウインカーが特徴。前期と後期仕様により、グリルの形が異なる。
バックドアは、アッパーゲートとロアーゲートが上下に分割して開く。開口部が内側まで食い込んでいるため、アッパーゲートだけ開けてもほとんど後方空間に干渉しない。地味に、ロアーゲートに大人2人が乗っても大丈夫らしい。
インテリア
インストルメントパネルには直線的にメーターや計器類が並ぶ。グレーやベージュで内装色が統一されており、質実剛健ながらも明るい雰囲気。座席やメーターの色は、グレードにより異なる。最近ではハンドルをナルディにしたり、シートカバーを交換したりというカスタムも人気。
フロントガラスの角度がきつく設定されていることやボンネットフードのデザインから、見切りはよい。グリルガードもあえてドライバーから見えるように設計されたとか。
サイドがほぼ直立しているため、低い車高の割に狭い感じはしないが、さすがに空間のゆとりは現代のSUVに劣る。特に後部座席は「一応足を置ける」程度のスペースしかなく、当時から狭いと不評だった。マイナーチェンジ時、日産は対応策として苦し紛れに前座席の背もたれを2cmくぼませてスペースを確保しようとしたが、それでも窮屈なものは窮屈である。
後部座席を倒せばそれなりのトランクスペースが確保でき、小柄な人であれば車中泊もできる。
メカニズム
1.5L直列四気筒ツインカム16バルブエンジン(GA15DE)を採用。4ATか5MTが選べた。低・中速域重視のチューニングを行っているが、走りが物足りないという声もあったようで、マイナーチェンジでは1.8L(SR18DE)と2.0L(SR20DE)のツインカムエンジンを搭載したモデルも追加された。こちらは4ATのみの設定であった。
最低地上高が17mmと、そこそこ高い。でもそれを過信して本格的な山坂道に突っ込んでいくとえらい目にあう。
全グレードがフルタイム4WD。1.8Lと2.0Lエンジンのモデルには、アテーサ4WDシステムが搭載された。ベース元がスタンダードなFFセダンのサニーなのでオフロード走行はもちろん、本来のスポーツ走行には適さない。ゆったりと「オフロード車っぽい走りを楽しむ車」である。
ラシーンはパイクカーなの?
一般的にパイクカーとは、日産が1980~90年代に打ちだした「革新的な時代性や文化性を有する新しい価値観の提案を図った少量限定車」のことを指す。具体的にはBe‐1、パオ、エスカルゴ、フィガロである。ラシーンは量販車であり、一見パイクカーではないように思えるが、ラシーン開発の担当マネジャーを務めた坂口善英氏は著書で、ラシーンについて「フィガロの後を継ぐ4代目のパイクカー」だと述べている。
坂口氏によれば、これまでの3車種はファッションとして自動車の持つ既存イメージの打破を目指し、新しいマーケティング手法を取り入れることで成功を重ねてきた。しかし、バリエーション展開に終始することになってゆき路線は行き詰まりに。そこで、ラシーンには「自然との融合」というコンセプトを取り入れ、日本的な日常の道具として開発を進めていったのだという。
ラインナップ
前期(R-FNB14、1994~1997)
(1.5Lエンジンの前期ラシーン)
発売当初はタイヤキャリアとルーフレールがないType1、それらがついたType2、さらに大型フォグランプ付きグリルガードが付いたType3の3グレードが用意された。それぞれにドラえもんブルーやイエローなど4色が設定。フロントグリルが横向きとなっている。
その後
・Type2のホイールを鉄チンにして木目調パネルを追加したTypeZ
・羅針盤模様のタイヤカバーとステッカーを追加したTypeL(赤は限定色)
・Type1ベースにルーフレールや木目調パネルを追加したTypeF(黒は限定色)
・専用シートやホリゾンのタイヤカバーを追加したTypeJ(シルバーは限定色)
の計4グレードがラインナップに加わった。
後期(R-FNB14、R-HNB14、R-KNB14、1997~2000)
1997年にマイナーチェンジが実施された。フロントグリルが縦型になったほか、新しいカラーやタイヤカバーに変更。助手席エアバッグや、これまでオプションだったABSが標準装備となり、安全性能の向上を図った。
1.5Lモデルではこれまで通りシンプルなType1、カラーやシート柄、ホイールの違いによりTypeSとTypeAとType2が設定された。
(1.8Lエンジンの「ラシーンft」)
(2.0Lエンジンの「ラシーンフォルザ」)
先述した1.8Lモデルと2.0Lモデルはこのマイナーチェンジで新登場する。1.8Lモデルは「ラシーンft」、ftはfarther transport(より遠くへ)を意味する。ホワイトメーターやモケット柄のシートがあしらわれた。2.0Lモデルは「ラシーンフォルザ」。オーバーフェンダーや丸目4灯のヘッドライト、バックドアの形状変更などによりスポーティーなグレードを目指した。
その後、白木調パネルをまとったTypeM(オパールブルーは限定色)が追加されたのを最後に、ラシーンは生産終了となった。