企業としての「味の素」
本社を東京都中央区京橋に構え、川崎市と四日市市、佐賀市に主要生産拠点がある。
創業時は鈴木商店と称し、1946年に現在の社名に改めた。ちなみに同社最大の生産拠点である川崎事業所の所在地は、旧社名に由来する川崎区鈴木町で、京急大師線に鈴木町駅が現在も実在する(こちらの旧駅名は味の素前だった)。
主な商品
- 食品事業
●調味料「味の素」「ハイミー」「アジシオ」「ほんだし」など
「ハイミー」は1971年頃、宮崎県の民謡「いもがらぼくと」の替え歌にて、同県の郷土料理「かぼちゃのけんちん揚げ」のハイミーを使った作り方を紹介するCMで有名になった。
●加工食品「クノール」「Cook Do」など
●冷凍食品(製造は主に子会社の「味の素冷凍食品」が担当)
●コーヒー(子会社の「味の素AGF」が担当)
●他
- アミノ酸事業
●栄養食品事業:アミノバイタル
●甘味料事業:アスパルテーム
●化成品事業:香粧品事業(「Jino」ブランド)、ケミカル事業(電材)
- 医薬中間体事業
- 飼料用アミノ酸事業
調味料「味の素」
上述味の素社の主力商品。
サトウキビの糖蜜を醤油や味噌のように菌発酵させ、グルタミン酸ナトリウムを生成する事で生み出される。
料理に旨味を加えることで、味の輪郭線をはっきりと浮かび上がらせ、より料理を美味しく感じることが出来るようになる。
有り体に言えば「自然に味を濃く感じさせる」のが、主な効果といえる。
これは「出汁を加える(≒旨味を足す)」こととほぼ同じ効果を発揮しており、同時に出汁を取って加える手間を省略できることとも同じといえる。
さらに出汁には各々で料理との相性があるため、時には風味や味わいが喧嘩して美味しさを損ねる危険性を伴うが、味の素は加えてもほぼ無臭なので、出汁を加える際に考えるべき「風味との兼ね合い」を無視出来るのも強みの一つである。
さらに近年では、「旨味を上手く扱うことで減塩しても美味しい料理が作れる」ことも分かっている。
人間にとって塩分は、体内循環に関わるあらゆる機能に不可欠な物質である。そのため人間は【塩分=美味しい】と遺伝子レベルで記憶しており、塩味のある食べ物を自然と欲するようにインプットされている。
しかし同時に、人間は【旨味=アミノ酸がある】とも遺伝子に記憶しており、さらに旨味の作用で味の輪郭を鮮明化させることで、塩味を普段以上にはっきりと感じることが可能となり、必要以上の塩分摂取を回避することができ、減塩に繋がるという寸法である。
否定派との長い戦い
同時に味の素の歴史は、味の素否定(反対)派との長い戦いの歴史という悲しい事実も寄り添っている。
2つの原因
事の発端は、1960年代のアメリカまで遡る。
当時のアメリカで、中華料理店が流行し始めると同時に、その料理店でグルタミン酸ナトリウムによる旨味調味料ももたらされた。
だが当時のアメリカ人にとってグルタミン酸ナトリウムは「謎の物体X」であり、それに対して健康被害を懸念する声や、さらに中華料理店で食事したことで体調不良を訴える声が続出し始める。
そこにアメリカの医学論文から「グルタミン酸ナトリウムよる健康被害」という、まったくのデタラメな学説が発表されたことで、グルタミン酸ナトリウムに対するイメージは一気に良くないものへと転じてしまった。
俗に「中華料理店症候群(Chinese Restaurant Syndrome)」とも呼ばれたこの現象は、世界中で旨味調味料への批判を生み出し、アメリカ食品医薬品局から「根拠のないデマ」と証明されるまで続いた。
同時期にNHKの料理番組にて、味の素を調理に使用した際、「味の素」は商品名なので言葉の変換が必要になったのだが、これをNHKは化学調味料という言い方に変換した。
折しも、当時の日本は公害が社会問題として扱われた時代であり、「化学」という言葉に対するネガティブなイメージが強まった時期でもあった。
同時にこの言葉は、味の素はあくまで「サトウキビの糖蜜を発酵させた調味料で醤油や味噌と同じ手法で生成」しているにも拘らず、「化学薬品を利用して抽出した非自然的な調味料」という歪曲されたイメージを生んでしまった。
ただし、実の所50年ほど前には、味の素社製の一部の製品について石油由来の原料から合成法により生産していた時期もあった旨を味の素社がHPで明かしている。