いじめによってすべてを奪われた女が別人に生まれ変わり、地獄の復讐に身を投じる!
概要
『美醜の大地~復讐のために顔を捨てた女~』とは、藤森治見による成人向け漫画作品である。
昭和20年の太平洋戦争終戦直後からの一人の女の復讐劇と、それに関わる複数の人物を描く。
まんがグリム童話(ぶんか社刊行)2016年4月号より連載中。
第7話(2017年4月号)までは隔月連載だったが、5月号以降は毎月連載となった。
紙媒体の単行本は、現在第5巻まで発売されている。
電子書籍版は、各電子サイトにて『ストーリーな女たち』のレーベルから配信中。
デジタルコミックとして2000万DLを突破している。
2021年に株式会社ビーグリーより、アプリゲーム化された。
現在、2022年3月からぶんか社の公式のYouTubeチャンネル『禁断書店【ストーリーな女たち公式】』より、ボイスコミックが公開されている。
あらすじ
太平洋戦争末期の昭和20年(1945年)。当時日本領の樺太で育った市村ハナはその醜い容姿故にからかわれ、財閥令嬢の高嶋津絢子を中心とした女子グループからの凄惨ないじめに遭っていた。
そして終戦後の1945年8月22日、ソ連軍の空爆により樺太を逃れることとなったハナの一家は、やっとの思いで乗り込んだ引き揚げ船でいじめグループに遭遇。絢子により過去に着せられた泥棒の濡れ衣を暴露され、船から追い出されてしまう。
その後次の船に乗り込むものの、乗っていた船がソ連軍と思われる潜水艦により撃沈されてしまう(三船殉難事件)。母と弟を喪った彼女は自身を虐げ、挙句の果てには家族をも奪った彼女達に復讐することを決意する。
登場人物
※声はボイスコミックで演じた声優。
主人公とその関係者
- 市村ハナ / 小石川菜穂子
声:今井麻美
主人公。学生の頃は心優しく勤勉な性格で、成績も優秀だったが、不器量な外見のせいで理不尽ないじめに遭い、果てには間接的に母親と弟を亡くす羽目になってしまう。
相手に気付かれずに復讐を果たすため、整形手術で顔を別人のような美貌に整形し、闇市で売られていた戸籍を乗っ取って小石川菜穂子(こいしかわ なおこ)と名乗り、ターゲット達に接触していく。
内田や看護師の菊乃、鶴田、深見等の協力者の存在もあり、着々と標的・絢子に近づいていくが、生来の善性故に加害者と言えど彼らを不幸にしていく事、復讐の過程で無関係の人々まで巻き込む事に罪悪感を覚え、苦悩する事も。
以前の外見こそ不細工だったものの、プロポーションは良かったらしく、女学校時代の教師や鶴田にも褒められていた。
- 内田胤篤
声:白井悠介
ハナに整形を施した闇医者。ドイツ留学の経験もある元軍医。患者に施術する際に必ずその『理由』を問う習慣がある。
ハナに自身と所縁のある女性・木崎菜穂子の顔を作り、彼女の復讐の旅路を陰ながら見守る。
- 菊乃
声:道井悠
内田の助手。幼い頃から性同一性障害に悩み、かつてのハナ同様、周囲から酷いいじめや暴力を受けていたが、内田に救われて女性に生まれ変わった。
自身と同じく迫害される境遇を歩んできたハナを常に気にかけている。
ハナの協力者の一人で、百子への復讐では男装して「杏一郎(きょういちろう)」を名乗り、持ち前の美貌で百子を虜にした。
- 鶴田眞蔵
声:春山壱樹
ヤクザ(と思われる)だが、義に熱く優しい性格で、孤児院を支援している。
ハナの協力者の一人で、内田とも友人。
- 深見栄一
弁護士。高嶋津家に家庭を壊され、復讐心を抱く。桐谷ヤエ子の一件をきっかけにハナに接触し、手を組むことに。実は彼の母親は家計のために高島津に身売りして娘を出産しており、その娘こそがハナの怨敵、高島津絢子である。つまり絢子は深見から見て種違いの妹という事になる。
綿貫晋平
声:酒井広大
雑誌記者。菜穂子に一目惚れした。
奥田スミ子の事件をきっかけにハナの存在に気付き、独自に調査を始める。過去に同じ記者だった父親が、反体制的な投稿をして獄に繋がれ、そのまま亡くなった過去を持つ。自身も非国民と周囲に虐げられた事があり、ハナの境遇に同情している。そのため彼女の復讐を止めさせ、普通の人生を送って欲しいと願うようになる。
ハナの復讐対象とその関係者
声:長谷川玲奈
ハナをいじめていたグループのリーダー格(敏恵らに間接的な指示をするのみで、自分から直接危害を加えることはほとんどなかった)。
樺太最大の製紙工業を営む大財閥の令嬢で美しい容姿とは裏腹に冷酷な性格…というよりも悲喜への共感性の欠落を感じさせる人物。
声:原奈津子
ハナに酷いいじめをしていた人物で、記念すべき復讐ターゲット第1号。
底意地悪くヒステリックな性格。引き揚げ後は川上町の旅館に嫁ぎ、若女将として不自由無い生活を送っていたが、ハナの復讐により全てを失い、整形不可能な傷までも負ったためハナへの報復を目指す。
声:福積沙耶
受け身ながら、ハナをハメるための手紙を渡すなど陰湿ないじめを行っていた。
引き揚げ後は別海町にある両親の実家で牧場の手伝いをしていたが、都会っ子の彼女の性には合わず、その上脂ぎった不細工な男・長谷川熊造との縁談を決められて人生に絶望していた。
復讐ターゲット第2号で、菊乃が変装した杏一郎に一目惚れして駆け落ちを決意するが、ハナに嵌められて売春宿に売られ、多数の男に犯され続けた末に心を壊した。
声:浅見春那
ハナに取り分け酷いいじめをしていた人物(ハサミまで使っていたのでもはや傷害罪と言って良いかも)。ハナとは対照的に、美少女だが内面は醜悪。ハナや中川のような容姿の醜い人物を蔑んでいた。反面自分と同じ美形の人物には自分よりチヤホヤされても嫉妬心より仲間意識を抱く妙な寛容さもある。
引き揚げ後は漁師町の伯父の家に身を寄せていたが、貧しい暮らしに嫌気が差して単身函館に渡る。街の喫茶店でウェートレスとして働き始め、美貌もあって忽ち看板娘となる。しかし自動車修理工の醜男・中川に片想いされており、足繁く喫茶店を訪れる彼を疎んじていた。自分が美人であることを理解しており、『美しさを生まれ持った人間は天に選ばれた存在』と驕っている。
なかなか去らない中川に業を煮やし、同僚の菜穂子(ハナ)の提案を受けて取り巻き達に彼をリンチさせる。その結果中川の恨みを買い、硫酸をかけられて顔面が崩壊。医師には二度と元に戻らないと宣告される。誰も見舞いに来ない孤独な入院生活を送った末、道路に飛び出して車にはねられ、死亡した。
復讐ターゲット第3号。
声:川内理穂
優秀な生徒だったらしく、学生時代、ハナと同級生になるまでは自分の成績が1番だったために、自分より上であったハナを認められず、教科書やテストの答案用紙を破り捨て、ハナ自身にも暴力を振るう酷いいじめを行っていた。
引き揚げ後は父の事業の失敗で生活が一変。多額の借金を抱えた実家の母が自ら命を絶ち、自身も売春稼業に身を落とす。結果客との子を身籠り、息子・進司が生まれた事で愛情に目覚める。進司を養うべく高島津絢子の元で働き出すが…。
復讐ターゲット第4号…だったのだが、進司に亡き弟を重ねていたハナは結局彼女を見逃し、サチもいじめグループの中で唯一改心した。
- 常岡久次
ハナの元担任。クラスで起こった窃盗事件ではロクに調査をせずに醜く貧しいハナを一方的に犯人と決めつけ、退学に追い込んだ。引き揚げ後も教師を続けているが、かつてのハナや笹本のような外見が醜い生徒を差別していた。
復讐ターゲット第5号で、駅で泥酔していたところ、ハナによってストーブに顔面を当てられて失明し、口もきけなくなるほどの大火傷を負う。
- 桐谷ヤエ子
声:MAKIKO
ハナの元同級生。他人よりも我が身が可愛い自己中な性格。いじめには直接加担していなかったが、保身を優先して見てみぬふりをしていた。そんな経緯もあってか、ハナへの罪の意識には乏しく、あろうことかいじめの話をわざわざ蒸し返して一方的に許しを乞う厚かましさを見せていた。ある意味加害者よりタチの悪い傍観者キャラ。
引き揚げ後は服飾デザイナーを目指して勉強していたが、父が倒れた事で学校を辞めざるを得なくなり、望まぬ水産加工の仕事で糊口を凌いでいた。しかしある日偶然拾った財布の大金に手を付けた事で窃盗に目覚め、次第に歯止めが利かなくなっていった。
医師の恋人・弘が居てもうすぐ結婚する間柄だったが、ハナの策略によって盗品の首飾りを付けている所を元の持ち主に見られてしまう。それまでの窃盗の容疑もあって結局逮捕され、結婚も御破算となり、絶望したヤエ子は独房で首を吊って自殺してしまった。
復讐ターゲット第6号だが、彼女の場合はハナの生存を知る者として口封じに始末された側面もある。
- 池内辰雄
敏恵の元夫で、大塚旅館の跡取り息子。
敏恵とは見合い結婚だが、元々見合いに乗り気ではなく、出張帰りに出会った菜穂子(ハナ)を雇ってからはその美貌と人柄の良さに惚れ込み、彼女に心変わりしてしまう。敏恵との離縁後は彼女を療養所へ送ったが、敏恵への復讐を達成したハナが旅館を去ったその後も懸命に菜穂子の行方を捜している。
…しかし菜穂子一筋かと思いきや、街娼をしていた百子にも鼻の下を伸ばしていた所から単に浮気性の面食いなだけの様だ。
- 長谷川熊造
百子の婚約者。北海道で両親と共に大きな農場を営んでいるが、親の都合で熊造との政略結婚を強いられることになった百子はそれを拒んで家出を決意する。
ハナの策略で百子が売られた売春宿の客として来訪、彼女の処女を奪った。
登場時から好色な面を覗かせ、結婚相手になる筈だった百子も助けるどころか喜んで陵辱する側に回るなど、作中キャラでは最も外見、内面共に醜悪な人物。
- 中川
スミ子が勤める喫茶店の常連客。スミ子の笑顔に惚れ込み、彼女への想いを馳せながら店に通っていたが、当のスミ子からは煙たがられていた。
- 瀬尾進司
声:工藤舞子
サチの息子。天真爛漫で可愛らしく、母が改心するきっかけを作った。
- 白川清二郎
声:戸松拳也
絢子の婚約者。周りの人間が口々に“変態”呼ばわりするように、一見好青年だが性癖はヤヴァイ。札幌でホテルを経営する白川グループの総裁の末男として生まれるが、幼い頃から自身に巣食っていた“欠陥”を埋めるように、“玩具”(=生身の人間の女)をいたぶっては破壊する嗜虐癖にのめり込んでいく。更には女性に目がない色狂いでもあったようだが、絢子との婚約を境に(SMプレイの成果か)性癖は徐々に鎮まり、自分の欠けたものを満たしてくれた絢子を本気で愛するようになる。
デパートでの襲撃事件で絢子を助けた際、左目を無くす大怪我を負うが、それを契機に一皮剥け、絢子を守る一人の男としての顔も見せるようになっていく。
- 加也&森哉
清二郎の元、汚れ仕事を請け負う双子の姉弟。
その他
- 笹本
声:工藤舞子
女学生。かつてのハナ同様母子家庭に育ち、家計を助ける為にバイトもこなしていた苦労人で、外見が醜いという理由で常岡や他の生徒たちから酷いいじめを受けていた。挙げ句の果てに窃盗の濡れ衣を着せられて一時は退学に追い込まれるも、数少ない理解者である田中の尽力で復学した。
- 田中
声:彩月奏恵
女学校に勤める女性教師。温厚な性格で、いじめに苦しむ笹本のことを常に気にかけている数少ない理解者。彼女が濡れ衣を着せられて退学に追い込まれた際も独自に真犯人を突き止め、笹本を復学させることができた。
作中では数少ない姿も心も共に美しい人物。
- 木崎菜穂子
内田の過去に登場した女性。内田とは遠い親戚関係にあり、美しい容姿の持ち主だったが家が貧しいため教養は無く、字の読み書きも出来なかった。更にその美貌故に里の男たちからは好色な目を向けられ、女たちからは妬まれ、家では女中同然の扱いを受ける辛い境遇を託っていた。内田にとっては実家と疎遠だった自身を我が子のように可愛がってくれた恩義ある存在で、彼女の幸せを幼心に願っていた。しかし結局菜穂子は恋に破れた挙句陵辱され、不遇に耐えかねた末に古井戸に入水。薄幸の生涯に自ら幕を下ろしたのだった。
「弱い自分じゃない 強い誰かに生まれ変わりたい」という菜穂子の最期の言葉を記憶していた内田は、ハナに彼女の姿を与える事で、報われぬ運命を変える力をハナに仮託するようになる。