概要
小笠原諸島と本土を結ぶ貨客定期船。愛称・略称に「おが丸」。カーフェリーではない(広義のフェリー、貨客船である)。現在のところ小笠原諸島には民間用空港がないため、この船のみが小笠原と他所との間の唯一の交通手段でもある。
通常は約1週間に1往復、8月など繁忙期は1週間に2往復、東京・竹芝港から父島・二見港まで運航されている(ただしドック入り期間には3週間以上運航がない事も)。前述の通り車両運搬には対応していないが、特別の事情がある場合や島内の車両の購入や売却・廃棄に伴う運搬をクレーンを使って行う。
他には「共勝丸」(危険物の旅客フェリー積み込みは禁じられているために運航される)という片道46時間の貨物船が運航されているが、特別な事情を除いて旅客対応していない(同船の運営会社がかつて運行していた先代貨物船「第二十八共勝丸」は2014年頃まで旅客定員9名までであれば予約すれば誰でも乗る事ができた)。
この「おがさわら丸」(と貨物船)で島民用の物資もまとめて運ばれる。ちなみに、日本の定期旅客船で最も外洋を多く走るため、揺れが半端ない。フィンスタビライザーという横揺れ防止装置が日本の定期便用旅客船で唯一つけられているが、それでも酔い止め必須レベル。なお、もう一つの「共勝丸」についてはお察しください。
郵便物もおがさわら丸が運ぶ(さすがにドック入り期間中は代船や共勝丸も代行する)ので、紙の書類、特に押印が必要な文書のやり取りも日数がかかり、おがさわら丸の運航スケジュールに左右される。
雑誌類もおがさわら丸で運搬するしかないため内地よりも遅くなる。新聞は1週間単位でまとめられたものを購入することになる。なお、生鮮食品、とりわけ果物は船便入港日(=入荷日)に争奪戦となる。
置き換え計画
元々、運航時間の大幅な短縮を目指してテクノスーパーライナーと呼ばれる高速船の投入を予定していた。実用船は既に出来上がり「super liner OGASAWARA」と名付けられ導入間近であった。
しかし、おりしの燃料費高騰もあり、到底採算性があいそうにない高速船導入には疑問が投げかけられた。おがさわら丸は民間の運営であり、採算が全く取れないというのは流石に問題になったのである。結局、この船舶の導入は断念され、船は2011年の東日本大震災時に災害派遣され、被災地の石巻港で支援を行った後、スクラップにされることになった…。
しかし、二代目おがさわら丸も就航から20年近くが経過し置き換えが検討されるようになる。平成28年7月に「おがさわら丸」と、二見から母島までを結ぶ「ははじま丸」に新造船を投入し置き換えを実行、所要時間は少し短くなり、東京竹芝~父島二見間は1時間半短縮されて24時間ジャスト(定時運航の場合)となった。
三代目導入にあたっては、近年の本土のカーフェリーにならい個室の増加や、開放室においてもプライバシーを高めた設計とし、客室面積を大幅に増加させるなど、サービス向上に努めている。
代船
小笠原海運は東海汽船の子会社である。そのため、かつてはおがさわら丸のドック期間中に東海汽船の運用する船舶(主に三宅島や八丈島への貨客船)による代船が見られた。「ふりいじあ丸」「すとれちあ丸」は近海運用に耐えうる仕様であったため、度々使用された。特に「すとれちあ丸」は初代「おがさわら丸」の姉妹船であった。
しかし、「すとれちあ丸」以降は近海運用より近距離域の沿海運用を想定した船舶が中心となり、「すとれちあ丸」引退以後、近海運用への切り替えが可能な「かめりあ丸」による代船が一度だけ行われたものの、以後は行われていない。現行の「橘丸」や先代「さるびあ丸」は限定近海までの運用が中心であり、代船運用を想定していないものと思われる。
このため、ドック期間中の代船が存在しておらず、この期間(年間辺り40日、2018年以降は25日ほど)は小笠原と外界を繋ぐ交通手段が存在しなくなる。物資は共勝丸によって届けられるものの、人的交流は断絶を余儀なくされる。しかもこの時期は年末明けの冬季シーズンであるため、小笠原出身の受験生は本土で受験をするにあたって、数十日もの間本土への連泊が必要になる。
長らくこの問題の解決が求められていたが、二代目おがさわら丸も売却されてしまい、新船導入後はドック期間を一部で変更するなどしていたものの、やはり最長25日ともなる運休はどうしても継続してしまっていた。もっとも、これを逆手にとって、長期滞在を前提としたツアーなども組んでいたのだが。
2020年度より前述した「さるびあ丸」が同名の新造船に置き換えられることとなり、同時にこの新船が小笠原までの代替航行に着任可能な船(近海運用対応)として製造されることとなった。これにより、2021年以降は「さるびあ丸」による小笠原航路代行航行が行われ、2021年以降長期運休は解消された。
「すとれちあ丸」引退からおよそ18年の時を経てドック運休による長期孤島化問題は解決の方向へと大きく前進することとなった。なお、「さるびあ丸」代替と後述する「ゆり丸」置き換えをもって20世紀に製造された東海汽船グループの貨客船は全て引退している。
なお、「ははじま丸」ドック期間中は東海汽船グループ共通の予備船である「ゆり丸」が使用されていた。この船、知る人ぞ知る予備運用のために新造された生まれながらの日陰者として、その筋のマニアに有名な存在でもあった。青ヶ島・下田航路の予備にも就くが、船体サイズがサイズであり供食設備も無いため、「おがさわら丸」の代船に就くことは出来なかった。
2022年、新造船「くろしお丸」投入により「ゆり丸」は引退している(本船は青ヶ島航路の本務船であり、予備船としての役割はそれまで同航路の定期船であった「あおがしま丸」に譲ったが、母島・下田航路は「くろしお丸」が通常代船を担当し、その間「あおがしま丸」が青ヶ島航路を担当するという方式に変更。引き続き父島航路の代船は出来ない)。
中の人
三代目おがさわら丸の船内アナウンスを担当するのは声優の中上育実さん。