概要
長髪で編笠を被り、謎の仮面を着けた男性・もがりが様々な時代を渡り歩き、人間の心の闇や欲望、それに起因する悪行、そうして悪行を働いた者たちへの凄惨な制裁を描く。
作者があの妖怪漫画家の大御所の弟子であるため、作風がよく似ている。
もがりとは?
編笠と謎の素焼きの仮面を着けた長髪の青年。様々な時代を練り歩いて、その時代の人間の生活や心を観察している。
声は「地獄の底から響くような声」と評されているが、普通に会話しているシーンもあり、おそらく使い分けているのであろう(ただし、会話のシーンがそれほど多くはなく、どちらかと言えば無口である)。
性格はなんとも評しがたく、仮面により表情や感情が読めなくなっている。ただし、戦国時代編では自らを下人として住まわせてくれていた母子が、嘗てその母子に命を救われた敵方の武将に殺害された際には慟哭したり、最終話でアメリカ軍基地の掃除係として働いている際に、最終話でガキ大将にボコボコに殴られ、もがりから貰ったアメコミを捨てられたことを涙ながらに詫びる主人公を慰め、ガキ大将に怒りの炎を燃やすなど、人としての感情はちゃんと持ち合わせている。また、長年時代を渡り歩いているからか、明(中国)からの茶器が積まれた積み荷の中に忍び込み、自分のスペースを確保するためにその中の一部を捨ててしまうなど、だいぶ豪胆な性格である。
悪人に対しては情け容赦ない制裁を行って殺害しているが、子供相手にはだいぶ手加減し、せいぜい家の柱を折ったり、コレクションを破壊したりしているくらいである。
悪人リスト
詳細は一部個別記事を参照。
- 名柄佐平(ながら さへい)
- 撫方勘兵衛(うぶかた かんべえ)
第ニ話に登場。豊臣秀吉の家臣で、権力者に阿る性格である。秀吉の茶器のコレクションの中にあったシンプルなデザインの茶器の製作元を探すよう命ぜられ、その茶器の製作元である陶工の茂平との器問屋の筑前屋利兵衛に面会し、彼らに命じて秀吉のために自分の思うがままの茶器をつくらせる。その際に、茂平や利兵衛に高圧的な態度で何かにつけて様々な嫌がらせを行い、堪忍袋の緒が切れた茂平がこれに反抗すると「立派な陶工として世に出れなくてもいいのか?」と脅した。
醍醐の花見の際には完成した茶器を秀吉に献上したところ、秀吉の怒りを買ってしまい、茂平らのもとを夜遅くに訪ね、彼らを詰る。そうして、茂平が「あなた様の指示通りにやったまでです」と弁明すると「お前らの名前で出した以上、責任はお前らの方にある」と全責任を茂平らに擦り付け、その場で切り捨て、工房も廃業させた。
やがて、自宅で美酒に酔っているところを、秀吉の使者に扮したもがりが訪ねてきて、「秀吉さまからのご褒美です」と壺を手渡す。そうして、撫方がその壺を受け取ったところ、撫方の体は壺に吸い込まれ、撫方が目を覚ますとそこは得体の知れない真っ暗な場所であった。その中で撫方は茶器に改造されてしまい、もがりに「人としての器が小さかったね」と蔑まれる。ここまでされてもなお自分の行いを反省するどころか、「俺はやつらに出世の機会を与えただけじゃないか」とあくまでも己の悪行の正当化に走ったため、もがりに地面に落とされて粉々に砕かれる。
- 武家の奥方とその侍女
姓名は一切不明。元々は都出身だったが、数え30歳を過ぎたので「御床祓い」として東国に館をもらって、そこに数名の侍女とともに住んでいた。「忙しさ」を口実にお市という下女(親の借金を返済するために仕事を探していた)を雇うが、侍女とともにお市をさんざんいびる。
そうして、のちに門番職としてお市の恋人である新八ともがりを雇う。そんな中でも侍女によるお市へのいびりは続き、心労のあまり、お市は倒れてしまう。その頃、奥方は新八を呼び出して「大御所様からもらった衣が盗まれるといけないから、泥棒は必ず殺しなさい。そうすれば、おまえを侍として取り立てます」と命じる。
一方、倒れても無理やり働かされていたお市は、足元がふらついて、料理の載ったお膳をひっくり返し、中身を奥方の衣にぶちまけてしまう。そうして、侍女たちに促され、その衣を持って洗い場に行く。しかし、洗い場に行こうとする際に、お市を泥棒と誤認した新八に斬られてしまう。新八は、自分が泥棒と誤認したのが恋人であることに気がつき、自身が武士になって恋人に楽な生活をさせようと努力してきたことが、結局は彼女を死に追いやってしまったことで絶望し、その場で自殺してしまう。その知らせが奥方に届けられた際、奥方たちはお市と新八の死を冒涜したため、静かに怒りを燃やしたもがりに衣をかけられたうえで、地獄の釜の天ぷら油に皆放り込まれて揚げ殺される。
- 田島
中年の武士。詳細は田島(もがりの首)を参照。
- 小説家
第4話『善意』に登場。中年の男性で、妻に先立たれている(もっとも、妻が亡くなったのも、この男が妻の「創作に集中できる環境を作る」という『善意』にあぐらをかいていた結果である)。娘の恵美子と一緒に生活しているが、自身は全く就労せずに娘の稼ぐ金に頼り切っては、来るはずもない出版依頼のため小説を執筆し続ける。娘の結婚相手の山川青年が家を訪ねてきた際には娘との結婚を許可するが、心底どうでもよさげな態度をとり、そのくせ山川青年の稼いだ給料も自身の手元に入れることを約束させる。
その後、急な病で娘を失うが、「葬式などカネの無駄だ」とのたまい、近隣住民をあきれさせた。娘の死後も純粋に善意の下、自身と同居して生活を支える山川青年をこれ幸いにとこき使い、豆腐屋として毎回訪ねてくるもがりに「ツケ払い」として豆腐の代金を払わないなど、傍若無人な振る舞いを続ける傍ら執筆活動に専念する。
しかし、ある日隣人の隠居が家を訪ねてきて、借地の期限が迫っていることを伝える。今住んでいる家がもともと亡き妻の実家で、しかも土地が借地だったことを知らなかったこの男は、借用期間を延長するにも土地を買い取るにも金がないので窮地に立たされた。そうして、自身が土地問題に向き合ってこなかったことを反省するどころか、そのことをあえて黙っていた泉下の妻子に毒づき(これも、妻子の「創作に集中できる環境を作る」という『善意』を踏みにじっている)、たまたま目についた新聞の「生命保険」の記事から、恐ろしい計画を練る。
かくして、山川青年を夕食の席に招き(この時、山川青年はこの男へのプレゼントとして万年筆を持参していた)、「娘を失ってかたくなになっていて、本当の子供以上に尽くしてくれる君に辛く当たってしまった」と謝罪するふりをして山川青年を油断させ、毒を入れた豆腐を食べさせて殺害したのだった。そして狡猾にも、「山川青年が自身に毒を盛った豆腐を食べさせようとして自滅した」と警察や近所の隣人にうそをつき、保険金をせしめ、執筆活動に再び専念し始める。
しかし、この様子を、もがりがただ指を咥えて見ていようはずもなかった・・・
ある日、箱入りの万年筆(山川青年が食後にこの男にプレゼントしようとしていたものが床に落ちていたままであった)を開封し、書き心地の良さにすっかり上機嫌になっているところ、自身の意思に反して、ペンが勝手に自身の犯行を書き連ねていく。そうして、ついには娘の念がつのったのか、ペンは娘の泣き声を書いていく。そこにもがりが現れ、衝撃の一言を放つ。
「そのインクはあなたの生き血のインクです」
そうして、何枚もの原稿用紙に文字を書き続けさせられたことで、重度の貧血を起こしているところに、自身が殺害した山川青年の幽霊が現れる。山川青年の幽霊は
「お義父さんを助けたい。それが恵美子さんとの約束…」
と、涙ながらに語る。
小説家は自身が助かる方法を訪ねたが、山川青年は「自分の口から『自分は小説家ではない』と言ってください。そうすれば楽になれます」と答える。
しかし、小説家は「才能のある俺がこんな一般人の言うことなど信じられるか」と吐き捨て、山川青年の幽霊はすべてをあきらめたような表情で男の前から消え去る。そうして、小説家は失血死してしまう。
「人生が白紙に戻りましたなあ…」
最後の最後まで、この男は自身が無能であるということを認めず、取るに足りないプライドに固執し、自分の周りの人々の『善意』を踏みにじったのだった…
余談だが、キャラデザは現存する太宰治の写真を思わせる風貌である。さらに、自らの犯行を叙述するシーンで、一瞬だけ「台材大寒(だざいおおさむ?)」と本名らしき名前が書かれているのが確認できることから、作者が全体的に太宰をモチーフとしているのはほぼ間違いなさそうだ。